「ふざけんなよなんで俺とが別部屋なんだコラ!」
「当たり前だろうが!なんで男女同室で入院なんだよおかしいのはテメーだ」
「あれだろ、の方も個室だろ?夜の病院の個室だろ?俺がいないと怖がっちまうだろ」
「怖いのはテメーだろ万事屋」
「マヨネーズがなんかほざいてるけど何言ってんのか全然わかんねぇ」
第19曲 分からないことを知るということ
隣うるさいんだけど。
「隣うるさいですねィ。ちょっと黙らせやすか」
「あ、いいです、大丈夫ですからそのバズーカしまってください」
寧ろどうやって持ち込んだのだろうか。
病院についたら沖田さんが既に病室の手配をしてくれていた。すさまじく仕事が早い。
いつもこうやって動いていればいいのに、と私と山崎さんの心がシンクロしたことは秘密にしておこう。
「すいやせんね、今日はこの2部屋しか空いてなかったみたいなんでさァ」
「いえ、十分です。それに私は別に入院するほどじゃ…」
「気にすることありやせんぜ。入院費は土方さん持ちなんで」
それは気にするところじゃないのだろうか。
そう思っていると、沖田さんはどすりとベッドに座りこむ。
上半身を起こして座っている状態の私の足元が、ぎしぎし揺れる。
「それで。ザキから話は聞きやしたか?」
「…はい。その、ごめんなさい、色々と迷惑をかけてしまったみたいで」
「俺としちゃあ、将軍様の金で酒飲めたんで迷惑どころか有り難ェ話でさァ」
言いながら沖田さんがぶらぶらと足を振って体を揺らすたびにベッドが揺れる。
でも、どうして異三郎さんは私がこの世界の人じゃないって知っていたのだろうか。
どうして高杉さんはあの時私を連れ出して、助けてくれたのだろうか。
もしも過去に干渉できるのだとしたら、ふたりは何がしたかったんだろうか。
考えても考えても、答えはみつからない。
「どうしよう、わたし、なにもわからない」
「……」
「どうしてこんなことになっちゃったのか、高杉さんが何をしたいのか、全部、わからない…」
最初は止めたかったんだ。
みんなが傷つかないように、苦しまないように、先を知っている私ができることをしようと思っていた。
けれど今となってはそれも叶わない。
「私…なんのためにここにいるんだろう」
なんのために、ここに残ったんだろう。
「そんなもん、俺が知るわけねーだろィ」
揺れていたベッドが静かになる。
「見廻組、エリート共の考えてることも、高杉らの考えてることも、わかるわけねーや」
私の独り言に、沖田さんも独り言のように言葉を紡いでいく。
「私、みんなのこと助けたくて、悲しんでほしくなくて、どうにかしたかったのに…結局なにもできてない」
それどころか今回は巻き込んでしまった側だ。
銀さんにも余計な怪我をさせてしまった。
「、おめーいつから警察みたいなこと考えるようになったんでさァ」
沖田さんの声に顔を上げる前に、両方の頬を引っ張られ強制的に目を合わせられた。
「助けるとか、護るとか、そんなもん近藤さんや土方さんに任せておけばいいんでィ」
「お、沖田さんは…?」
「俺は自分のやりたいことをするだけなんで」
随分とはっきりしているなあ、と思った。
「は、違うんですかィ?」
引っ張られていた頬から手が離れ、今度は逆に頬を包むように手が添えられる。
「もっと単純でいいんじゃないんですかィ」
単純。
そうだ、もっと、もっと簡単なこと。
元をただせば私がここにいたいと願った理由は、簡単なものだ。
「そういや、が泣いてんのは初めて見た気がしまさァ」
目の前にいる沖田さんが歪んでいく。
その顔が優しく笑っているように見えたのは、きっと零れ落ちる涙のせいだろう。
「オイ総悟、そろそろ帰……」
からら、と静かに開いたドアを私と沖田さんが同時に見る。
眠そうな目をしていた土方さんと目が合うと、一瞬で瞳孔全開になった。
「おま、ちょ、何しとんだコラァァァァ!」
「土方さん夜の病院で騒ぐのやめてくれやせんか」
「だから声のトーン落としてんだろ!お前、SだSだとは思っていたが時と場所を選べェェェ!!」
沖田さんの首元を掴んでがくがくと前後に揺らす土方さん。
確かにいつもより声は小さいけれど、無理しすぎて血管が切れそうだ。
「大丈夫か、何言われたんだ!?」
「だい、じょぶ…だいじょうぶ、です…っう、っく…」
わたわたと慌てる土方さんへ、声を出そうとするたびに嗚咽も一緒に出てきてしまう。
両手で顔を覆って、声が出ないようにぐっと歯をかみしめた。
「見てみろィ、鬼の副長だとか女にきゃーきゃー言われてるヤローが、女の泣きやませ方すら分からねーんですぜ」
見てみろと言われ、少しだけ目を開ける。
確かに困ったような焦ったような、そんな顔をした土方さんが目の前にいた。
「…土方さん、こいつ笑ってやすぜ。ほら」
「ほらじゃねーよ!ど、どうすりゃいい!?」
「さあ。泣かせ方は知ってても、泣きやませ方なんか俺が知るわけありやせん」
「同レベルじゃねーか!」
そんなやりとりに、私はもう泣きたいのか笑いたいのか分からなくなってきた。
分からないことなんて、山ほどある。
その中で、ただひとつ分かったこと、決めたこと。
明日、話してみようと思いながら、少しだけ笑った。
あとがき
空気読める真選組。
2015/01/11