「よかったじゃねーか、嫁のもら」
「ははは初めまして!!新八君のお友達やらせていただいてますです!」
「ちょっとちゃん。俺の台詞さえぎらないでく」
「あら、そうなの?私、志村妙よ。よろしくね」
「何これ。いじめ?いじめられてんの俺」
第8曲 人の話は最後まで聞いて
目の前に美人な女の人がいたら、そりゃまずは挨拶でしょ。
…っていうのはおいといて。
「ごめんね銀さん。そんな落ち込まないでよ」
「もーしらない。勝手にすすめりゃいーだろー」
ぶすーっと膨れてそっぽを向く銀さん。
「じゃあ今日から私が主役アル!は私が守ってあげるヨ!」
「きゃー神楽ちゃんかっこいいー!」
抱え込んでいる丼がなかったら更にかっこいいんだけどなぁー!
「これからは私が主役ネ。そしてはヒロインネ!」
「駄目だ!主役は俺だァァ!そんなことより神楽ァ!お前は早くそれ食い終われ!」
「って長いんだよ!さっさと本題に入れェェェ!!」
バシンとテーブルを叩いた音と、ツッコミの大声が店に響いた。
「んで。なんだっけ?ストーカーだっけ?」
新八君のツッコミにより、話は元に戻る。
「そうなのよね。気がついたらどこに行ってもあの男の姿がある事に気付いて…」
「そんなの俺にどーしろっつーんだよ。つーか仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
ぼりぼりと頭をかきながらだるそうに言う。
「銀さん僕もう2か月給料貰ってないんスけど。出るとこ出てもいいんですよ」
「あ。そういえば私も給料もらって」
「ストーカーめぇぇ!どこだァァ!成敗してくれるわっ!!」
「…ない…なー…」
…仕返しですかね、銀さん。
「何だァァ!やれるものならやってみろ!!」
「ホントにいたよ」
ガタガタと机の下から出てきたのは、やっぱり、近藤さんでした。
私たちもびっくりだけど、それ以上にお客さんがびっくりしてるよ。
「貴様、先ほどよりお妙さんと親しげに話しているが…一体どういう関係だ」
「許嫁ですぅ。私この人と春に結婚するの」
「そうなの?」
銀さんがそう言った瞬間、お妙さんの目が一瞬だけ「空気を読め」っていう目つきに変わった。
すすすすごいもん見ちゃったよ私!こ、怖っ!
「もうあんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから私のことは諦めて」
「あ…あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォ!!!」
「いやそんな事はしてないですよ」
律儀につっこむ新八君。
「ーー、そんな事って何アルか」
「なんだろうねぇ。っていうか何で神楽ちゃんあれだけ食べてそんなに細いの?」
くいくいと私の制服のすそをひっぱってきた神楽ちゃんを見て言う。
「そんなことないヨ。こそ細いアル。もっと食べるヨロシ」
「いやいや、私は見えないところに肉が…」
「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
…知らぬ間に話しが進んでいたようです。わお、取り残されたよ私!
「それにしても…どーしようかなぁー。バイト探そうかなぁー」
決闘場所、川までの道のりを歩く私と神楽ちゃんと新八君とお妙さん。
銀さんは厠へ。多分仕込みに行ってるんだろうなー。
「あらちゃん、仕事探してるの?」
「ええまぁ…予想外に万事屋の仕事少なくて」
冗談じゃないほどに、依頼は来なかった。
っていうかお客さん来ても銀さんが「居留守使え!今仕事したくない」とか言うから仕事も無ければ給料もない。
「だったら私が仕事紹介しましょうか?」
「え、ほんとですか!?」
「さんも姉上も、遠足じゃないんですからもうちょっと緊張感持ってくださいよ」
「遠足!だったらおやつが必須ネ!」
「神楽ちゃんもちょっと黙っててね」
先頭を歩く新八君が振り返って言う。
決闘場所の川は、もう目の前だった。
「よけいなウソつかなきゃよかったわ」
川辺に立つ近藤さんを見て、ふぅとため息をつくお妙さん。
「心配いらないヨ。銀ちゃんピンチの時は私の傘が火を吹くネ」
「それ多分銀さんも燃えると思うよ神楽ちゃん」
私は、がしゃんっと傘の持ち手を引く神楽ちゃんにぼそりと呟く。
その間に新八君が銀さんの行方を説明していた。
のんきに会話をしているうちに、銀さんが川辺へとやって来る。
「遅いぞ!大の方か!」
「ヒーローが大なんてするわけねーだろ。糖の方だ」
「糖尿に侵されたヒーローなんてきいたことねーよ!」
…ごもっともです、近藤さん。
「得物はどーする?」
「俺ァ木刀で十分だ。俺は人の人生賭けて勝負できるほど大層な人間じゃないんでね」
ぎゅ、と腰の木刀を握る。
「代わりと言っちゃ何だが、俺の命を賭けよう。お妙の代わりに俺の命を賭ける」
ひゅうう、と風の音が聞こえる。
「てめーが勝ってもお妙はお前のモンにならねーが、邪魔な俺は消える。後はお前の好きにすりゃーいい」
「!ちょ、やめなさい銀さんっ!!」
ガッと橋の欄干から身を乗り出して叫ぶお妙さん。
「いー男だな、お前」
打って変わって近藤さんは楽しそうに、笑う。
「お妙さんがほれるはずだ…おい小僧!お前の木刀を貸せ」
「え?」
橋の上、私たちの方に叫ぶ近藤さんの目の前に、からんっと木刀が投げ出される。
「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ」
「銀さんっ!」
ひゅっと投げられた木刀は銀さんの手におさまる。
「いざ、」
「尋常に、」
「「勝負ッ!!」」
ビュッという強い風の音と共に枯葉が舞い上がる。
そして次に来た音は、近藤さんの疑問の声と、ドゴッという衝撃音だった。
「ちょ…これ、先っちょ…」
「甘ェ…天津甘栗より甘ぇよ、敵から得物借りるなんざよォー」
ふふふふ、と笑う銀さん。…なんか楽しそうだ。
「厠で削っといた。ブン回しただけで折れるぐらいにな」
「貴様ァ、そこまでやるか!」
近藤さんは地面に倒れたまま言う。
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
「…これ…丸いか…?」
それだけ言って、近藤さんは力尽きた。
…あ、あいさつし損ねた!
ざっ、と音を立てて銀さんがこっちを向く。
そして神楽ちゃんが私の手をぎゅぅっと握ったかと思うと、急に浮遊感に襲われた。
…浮遊感?
「よぉー、どうだいこの鮮やかな手ぐちゃぶあ!!」
ひっぱられて着地してしまったのは、銀さんの上。
「あんなことまでして勝って嬉しいんですかこの卑怯者!!」
「見損なったよ侍の風上にも置けないネ!!」
えーっと、ごめん銀さん、止める言葉が出てこないや!
「しばらく休暇貰いますからね」
「銀ちゃんなんかほっといて、行くヨ」
「…おうよ」
心の中でもう一度言っておく。…ごめん銀さん。弁解の言葉が出てこないや!
こうして私たちは川辺を後にした。
もしかすると今日は新八君の家にお泊りかな。
…あ、それはそれで楽しみかも。
「ふふっ…」
ただ1人、橋の上で優しく笑っていた人がいたことを、私たちは知らないまま帰路についていた。
あとがき
詰め込んだら長くなりました、すみません!
実はお妙さんと近藤さんに会わせたかっただけだったり。
2008/4/23