「…えーと、いいんですか私なんかがここで働いて」
「もちろんよ。ちゃん可愛いから店長も気に入るわよ」
「そ…そうですかねー…?」
第9曲 労働条件は良好ですか
ただいまバイトの面接目前です。
っていうか、お妙さんの働くお店の目の前にいます。
…そう、スナックすまいるの前にいます。
「ちょうどこの間、仕事辞めちゃった子がいたのよ」
「でも、どう考えても私年齢足りてな…ってお妙さん待って!ひっぱらないで!」
ぐいぐいと手を凄い力でひっぱられる。
うおお…!心の準備がまだできてないよ私…!
「…よし、採用!」
「えぇぇええええ!!??」
店に入って、店長…っていうかオーナーにあいさつしてみたところ、既にこの返事。
「ほらね」
にこっと笑ってそういうお妙さん。
「いやいやいや、こんな簡単に決めちゃえるものなんですか!?」
「いやぁ、元いた子がねー週3回出勤の子だったから君も週3回出勤になるけど…それでいいかな?」
ぱらぱらと手元のスケジュール帳らしきものを捲りながら言う。
「寧ろ、それでいいんですか?毎日とかじゃなくて…」
だって、週3回って。
最低でも土日意外は来なきゃ駄目だろうって思ってたんだけど。
「んー…じゃあ店が忙しいときに連絡入れたら来てくれるかな」
「は、はい、もちろんですっ!!」
「じゃあ明日からよろしくね」
「はいっ!」
こうして私の第二の仕事は決定した。
こんなぐだぐだでいいんですかオーナァァァー!と叫びたいのを押さえて、お妙さんとオーナーと
3人で私の働く曜日と時間を決めた。
「明日から仕事かー。ちょっと前まで学生だったのになぁ私」
そうそう、学生で……あれ。
学校の名前…なんだっけ…。
…ど忘れかな。うっわー、学校の名前忘れるとは…。
ま、そのうち思い出すかな。
そろそろお昼だなぁ…。
そういえば今日は銀さんって屋根修理の仕事に行ってたっけ。
よし、コンビニでお昼ご飯銀さんの分も買って持って行ってあげようかな。
「いらっしゃいませー」
コンビニに入ると、なんだか見覚えのありすぎる人がレジにいた。
「……何してるんですか、桂さん」
「ん?あぁ、お前は銀時と一緒にいた…」
「ですよ。っていうか何してるんですか桂さん」
ガッチリとコンビニの制服を着ている姿は、前の時と比べ物にならないほど…違和感がたっぷりだ。
「攘夷志士といえど、働かなくては食っていけん」
「でももうちょっと仕事選びましょうよ。真選組の人とか来ちゃったらどうするんですか」
「その時は逃げる」
「無理ですよ。完全に包囲されますって」
そもそもコンビニの出入り口は一箇所だから、そこをふさがれたらもう逃げられないだろうに。
「ふっ…俺を甘く見てはいかんぞ。こんなことくらいで掴まる俺ではない」
「台詞だけ聞いてると凄くかっこいいんですけど、格好が駄目ですよ桂さん」
バーコード読み取り機を片手に威張られても。
「で、買い物に来たんじゃなかったのか?」
「…そうですよ買い物!おおおお昼ご飯っ!」
桂さんの「ありがとうございましたー」という声を背に、コンビニを出る。
…攘夷志士も大変なんだなぁ…。
がさがさ、と時々音を立てる袋を片手に銀さんが多分仕事してるであろう家を探す。
すると、一本裏の通りから、ドカァァァンッという衝撃音が聞こえた。
「…あ、そっか。多分、いまは…」
音のした方へと走って行くと、銀さんが屋根の上にいました。
土方さんと、戦ってました。
呆然と上を眺めていると、横から声が聞こえた。
「お前ェ、テロリストの女じゃねーですかィ」
「違うって言いましたよね。前に散々違うって言いましたよね」
「そーでしたかィ?」
あれー、と首をかしげる沖田さん。
「沖田さん、あれ止めなくていいんですか?」
そう言って屋根の上を指差す。
「いや…そのうち土方さんが屋根から落ちて死なねーかと思いやして」
「うわああ怖いこと考えてるんだけどこの人!!」
涼しい顔して物凄いことを言う。
心なしかここだけ空気が冷たいよ!
「それより…ちょっとこっち来なせぇよ」
「あれ、名前覚えてたんですか…って何する気ですか」
ちょいちょいと手招きをされる。
「アレ見学するのにもっといい場所がありやすからねィ」
言いながら、銀さんたちが暴れてる屋根の隣の家の屋根を指す。
「…落ちて死ねって言いたいんですか…!!」
「見学だっつってんだろーが」
立てかけてあったはしごを拝借して、屋根に上る。
本当は、もうひとつ隣のもっと高い屋根に上るつもりだったらしいけど、私がそれは拒否した。
「ここでも十分眺めいいじゃないですかー」
「もっと高い方が眺めいいですぜィ。ま、土方さんたちが近くで見れるからいいですけどねィ」
隣の屋根を見ながら言う私たちのほうは、えらくほのぼのとした空気が漂っていた。
「ところで、お前ェ何持ってんですかィ?」
「あ、これ銀さんに持ってきたお昼……ですから、あげませんよ」
ぎゅっと袋を握る。
「そーですかィ。落ちたいんならもっと早く言って…」
「すいませんでした。私のサンドイッチあげますから許してください」
ほのぼのとなんて、してなかった。
しばらくして、一際大きく刀のぶつかる音が聞こえた。
そしてその頃には、私たち見学場所にもう1人。近藤さんが来ていた。
「銀さーんっ!大丈夫ー!?」
隣の屋根の上に向かって叫ぶ。
「あ?って何してんだーー!っつーか大丈夫に見えるのかお前はー!」
「見えないー!!」
「じゃあ聞くなァァァ!!」
かなり近所迷惑であろう私たちの叫び声会話は、私の「お昼ご飯もってきたんだけどー!」の声で終了した。
「面白ェ人ですねィ。俺も一戦交えたくなりましたぜ」
「やめとけお前でもキツイぞ総悟」
「でも沖田さんも強そうですけどね」
「何でィ、わかってんじゃねーか」
私のお昼のサンドイッチを食べ終えた沖田さんがそう言う。
「じゃ、私はお先に失礼しますね」
「ああ。トシのことは任せろ。そっちは頼んだぞ」
「はいっ。じゃあ、また!」
にこりと笑って手を振ってくれる近藤さんに見送られて、私は地上へと降りた。
「お昼の前に病院だね」
「えー腹へった…いてて…」
「病院が先ね」
「…はーい」
痛そうに聞こえない声で「あーあーいたいー」と言う銀さんの手を引っ張って病院へと向かって歩き出した。
仕事決まったんだー、っていうことを言うのも忘れて。
あとがき
お仕事決定。そして桂さんのお仕事発覚(←
今回って誰夢なんでしょうね。沖田さん?
2008/5/3