「え、仕事決めたんですか!?」
「うん。今日からなんだけどねー」
「マジですか。え、どこで?」
「スナックすまいる」
「マジですか!!」
第10曲 娘はいつか自立するのよお父さん
まだ起きてこない銀さんをほったらかして朝ごはんを食べながら言う。
「何でまた…」
「お妙さんに紹介されてさ。なかなか…むしろすっごくいい労働条件なのよ」
だって週三回出勤だよ?私の世界じゃないってこんな仕事。
「可愛いから大丈夫ヨ。しっかり稼げるネ」
「うん、食費のために頑張るよー」
「僕も応援してます。頑張ってくださいさん」
「おうよ」
もぐもぐと朝ごはんを食べながら、箸を持った手でブイサインを送る。
っていうか皆、金か食事がかかると恐ろしいね!
「なーに俺を差し置いて勝手に朝飯食ってんですかー」
「差し置いてって…起こしても起きなかったじゃないですか!」
ばりばりと頭をかきながら居間に出てきた銀さんにツッコミをいれる新八君。
「あ、そういえば銀さんには言ってなかったよね。私今日から週3回仕事行くから」
「…は?」
私がそういうと、銀さんは眠そうにしていた目をカッと開いて叫んだ。
「はぁぁぁぁああ!?ちょ、何、仕事って何の!?」
「す…スナックすまいるで」
「スナックゥゥ!?だ、駄目だ!そんなのお父さん許しません!」
「お父さん!?」
いつの間に銀さんは私のお父さんになったんだ。
でも万事屋のポジション的には…お父さんか。
「でもが働かなかったら収入なしアル」
ご飯のお代わりをよそいながら神楽ちゃんが言う。
「けど、スナックはねぇだろ!っつーかどこでも駄目だ!」
「お妙さんもいるし大丈夫だよ!っていうか今の収入じゃ家賃どころか食費もピンチじゃんどうすんのよお父さん!」
「うぐっ…」
「このままじゃ、いちご牛乳も飲めなくなるよ!お、お父さんはそれでもいいの!?」
「……!!」
ピシャーン、と銀さんの後ろで雷が落ちたように見えた。
「………ひ…昼間だけだからな。夜は絶対駄目だからな」
「もちろん、元からそのつもりだよ。あ、じゃあ私そろそろ行ってくるね!」
そう言って私は万事屋を後にした。
「す…すごい、さん…」
「銀ちゃん言い負かされたアル」
「…し…仕事探すかなァ………はぁ……」
うおおおお、言っちゃった!なんか凄いこと言っちゃったよね私!!
あああ大丈夫かな、帰ってからまともに銀さんと顔合わせられるかな…。
…ちょっと…色々言いすぎた気がする…。
ぐるぐると頭の中でそんなことを考えているうちに、お店へとたどり着いた。
「おはようございまーす」
「あ、いらっしゃいちゃん」
「お妙さんっ!早いですねー」
入口を開けると、真っ先にお妙さんが微笑みかけてくれた。
「あ、この子が新しく入った子?」
「初めまして、ですっ!今日からよろしくお願いします!」
「私はおりょう。よろしくね」
にこっと笑って手を差し伸べてくれる、おりょうさん。
その手をぎゅっと握って、もう一度よろしくおねがいします、と言った。
頑張って、いけそうです!
とはいえ、私お酒飲めないし。
指名なんてこないだろうなー、って思ってたんだけど…意外とそうでもなかった。
「俺に君くらいの娘がいてねー…最近反抗期なのかなぁ。どうしたらいいと思うよ?」
「そうですねー。あんまり無理しないで自然な感じで話しかけるといいと思いますよ」
「自然かぁー」
「話するだけじゃなくて、聞いてあげることも大切ですしねー」
こんな感じで、娘相談室みたいなものになってました。
スナックってなんだっけ。なんていう疑問がわきそうな仕事をしているうちに、終了の時間が来ました。
「お疲れ様ー。いやぁ、なかなか好評だよ君」
「いえいえっ、入りたてですし…まだ興味本位の指名ですよ!」
「でも何だかんだで結構稼いでるよ。ほら」
すっと指を差された先の売上表。
意外と、普通の成績を残していました。
「…これからも頑張りますね」
「次の仕事は明後日だけど、来れそうだったら明日も来てくれていいからね」
「はい、わかりました!」
お疲れ様でしたー、と言って他の人よりも先に店を出ようとした所で、料理担当の人から声を掛けられた。
「ちゃん、1日目から頑張ってたから…ほら、これ持っていきな」
「え、これ…いいんですか!?」
渡された袋に入っていたのは、おつまみと煮物。
「味付けがまだ試作品でね。できれば今度感想聞かせてほしいのよ。いいかな?」
「も、もちろんですよっ!!ありがとうございます!!」
「じゃ、帰り道気をつけてね」
「はいっ!」
ぱたぱたと手を振って、お店を出た。
1日目でちょっと不安はあったけど、なんとかやっていけそうな気がして、嬉しかった。
「ただいまー」
がらがら、と万事屋の戸をあけると、目の前に犬がいた。
…ただ、サイズが、かなり問題アリだ。
「あ、おかえりアルーっ!」
「あの、神楽ちゃん、この犬…」
そう言って目の前の犬を指差したとき。
「ー!!逃げろ!おま、噛まれるぞ!!!」
奥から聞こえてきた銀さんの声よりも先に、私の手は、ぱくりと口に含まれていた。
「定春!!駄目ヨ!」
「え、でも…痛くないよ?」
「は?」
どたどたと奥から出てきた銀さんと新八君…ってすごい包帯ぐるぐる巻きなんですけど!!
いまだ噛まれるっていうか、咥えられたままの手に、ぺろりと舌のあたる感触がする。
「うわっ!わっ!ちょ、くすぐったい!!」
「定春、もしかしてになついてるアルか?」
「「嘘ォォ!?」」
どうやら、命の危険はなさそうです。よかった!
それに凄く毛がもふもふしてて可愛いんですけど定春!
定春から手を解放されて、煮物を温めなおしていると、銀さんがやってきた。
「あー…あのさ。今朝は悪かったな、お前…親父さんのこととかあるんだよな」
「え?」
親父さん?…えーと、何の話だっけ?
「仕送りとかで、金もいるんだよな。まぁ、だから、仕事…頑張れよ」
「……あぁ!あ、うん!」
思い出した!私が銀さんに会った時に言った物凄い嘘の話ね!!
…よく覚えてたな銀さん。私忘れてたよ。
「あのね、スナックっていっても、私はさ、娘相談室みたいな仕事だから、心配しなくても大丈夫だよ」
「そっか。ま、何かあったら言えよ。ケツでも触られようモンなら俺がぶっとばしに行ってやるさ」
にまっといういつもの笑顔でそう言う銀さん。
「あははっ、その時はよろしくねっ!」
こうして、私の仕事の許可も下りて、楽しい日々を送れそうです。
毎日が楽しいって思えるって、すごいことだよね!
あとがき
万事屋ほのぼの話と仕事話でした。銀さんは過保護だったらいいな!
っていうかお父さん役、似合ってると思いますよ私は(ぁ
2008/5/9