「いや、今までも二日三日家を空けることはあったんだがね、さすがに1週間ともなると…」
「(銀さん、めっさお茶零れてる!)」
「(ほんとですよ。だからあんまり飲むなって言ったじゃないですか)」
「親の私が言うのもなんだが、キレイな娘だから、なにかよからぬことに巻き込まれているのではないかと…」
「(新八、、俺帰っていい?)」
「((駄目にきまってんだろーが))」
第11曲 門限までには帰りましょう
「そーっスねェ…なにか…こう、巨大な…ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね」
ぼーっと虚ろな目でそういう銀さん。
なんだか頭が船漕いでるんだけど大丈夫なのかな。
「いやそーゆんじゃなくて。なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと…」
「事件?あー、ハム事件とか?」
「オイたいがいにしろよ。せっかくきた仕事パーにするつもりか」
…新八君怖い!
真ん中に挟まれて座ってる私としては凄く居心地がよろしくない。
「とにかく、内密のうちに連れ帰ってほしい」
そう言われて、私たちは未だ「やべーってマジ吐きそう」とか嘆いてる銀さんを引きずって、情報収集を始めた。
そのうちに、ハム…じゃないや。えーっと、娘さん…名前なんだっけ。
…あぁ、そうだ、公子!
公子がよく出入りしているらしい店へとたどり着いた。
「あー?知らねーよ、こんな女」
「この店によく遊びに来てたらしいんですけどー…」
もらってきた写真を、カウンターにいた天人に見せて聞く。
っていうか天人ってでかっ。見上げないと目線が合わせられないじゃん。
「んなこと言われてもよォ姉ちゃん、地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ…名前とかは?」
「えーと…ハ…ハム子」
私が答える前に神楽ちゃんが言った。
「ウソつくんじゃねェ!明らかに今つけたろ!!」
「忘れたけどなんかそんなんだったヨ。ねー」
「あー、うん。そうだね。そんな感じだったよね」
「オイぃぃ!!ホント捜す気あんのかァ!?」
バシッとカウンターに写真を投げつけて叫ぶ天人。
まぁ、ごもっともな答えだけどね!
「、、もうこれでいいんじゃね?」
「どれ…って駄目だって!性別飛び越えてるって!」
神楽ちゃんが引っ張ってきたその人は、えらく虚ろな目をした、ハムっぽい男。
「大丈夫ヨ。なんとかなるネ。おーい、新八ィー!」
「え、マジでこれでいっちゃうの?絶対無理だと思うよ私!」
なんて叫びながらも、私の頭の中はそれどころじゃなかった。
話は進行していく。しかも予想外の速さで。
私は、この後の出来事を、知っている。…だからこそ、なんとか、したい。
どうしたら、2人を。
ううん、皆無事にここを出られるか。
そして、ドサッという何かが倒れる音で私の思考はかき消された。
「ハム男ォォ!!あんなに飲むからヨ!」
どうやら倒れたのはさっきのハム男だったらしく、神楽ちゃんと新八君が駆け寄る。
慌てて私も2人と一緒にハム男に近づく。
「…違う、コイツ…」
新八君がそう呟いた時、さっきの天人が駆け寄ってきた。
「あーもう、いいからいいから。あと俺やるからお客さんはあっちいってて」
そう言って、天人はハム男の腕を持って言った。
「ったく、しょーがねーな。どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ」
「シャブ?」
「この辺でなァ、最近新種の麻薬が出回ってんの。なんか相当ヤバイやつらしーから、お客さんたちも気をつけなよ!」
それだけ言って、天人はカウンターの向こうへ行ってしまった。
「ところで新八くん、銀さんは?」
「あぁ、多分厠に…ってそういえば遅いな…」
きょろきょろと周りを見回して言う新八君。
「…ね、もしかしたらさ、外にいるかもよ?ここちょっと空気悪いし」
「私も1回外出たいアル」
「んー…確かに、ちょっとここ嫌な感じがするし…」
「だから、一度、外に出よう。…ね?」
ぎゅっと強く手を握り締めて、念を押すようにそう言うと、2人は頷いて言う。
「そうですね、ハム子もいないみたいですし」
「うんうん、だから、早く」
そう言った瞬間、ガチリ、と硬い何かが私の後頭部に押し付けられた。
「てめーらか、コソコソ嗅ぎ回ってる奴らってのは」
全身の血の気が引いたように、ぞくりとした。
ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。
「…さんを、その人を離してください」
「そうヨ。別におめーらのこと捜してるわけじゃないアル」
強い目。
その奥には恐怖が見え隠れしているけれど、2人の目には強さがあった。
からりと乾いた喉の奥から、私は声を絞り出して叫ぶ。
「だ、め。駄目ッ!!走って!!はやくここを出て2人とむがっ」
せめて最後まで言わせてください。
なんて妙に冷静なことを考えているうちに、ぐらりと視界が揺れる。
口元にあてられた布から漂う匂いが、脳に突き刺さるように感じる。
朦朧とする意識の中、遠くで銀さんが名前を呼ぶのが聞こえた気がした。
あとがき
シリアス!っていうか事件前はどうしてもシリアスです。
つーか銀さんの出番がまるでない。ごごごごめんなさい…!!次回は出番ある…はず(←
2008/5/30