、次の授業、移動教室だよ!」

「え、マジで!?」

「はやくはやくーっ、もうすぐチャイム鳴っちゃうよー」

「ごめん、刹那、――、ちょっと待ってー!」

「ほらほら、早くしないとおいてくぞー」

「待ってってば刹那!よし、準備できた!」

「行こ、ちゃん!」

「うん、――!」

 

 

 

第12曲 薬の乱用はやめましょう

 

 

 

夢をみている気分だった。

あぁ、そう、学校で……あれ、どうして…あの子の名前、思い出せないんだろ…。

名前だけじゃない、顔も、霧がかかったみたいに、見えない。

…どうして…?

 

ちゃん」

 

いつも、一緒にいて…。私の大切な友達で…。

どう、して。

あの子の、名前、は…―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばちっ、と目を開く。

どくんどくんと、心臓が脈打つ。一粒の汗が、頬を伝った。寒気がする。

慌てて頬を伝う汗を拭こうと、手を動かそうとして気がついた。

 

 

「…あれ?」

 

なんで私の両手、上にあるの。

「え、あれ、なにこれ?」

ぐっと首を傾けて上を見ると、私の両手はがっちりと、なにかに拘束されていた。

…所謂…手枷ですか、これ。

 

 

「…えええぇぇぇぇええええ!?」

 

 

さっきの夢は、頭から吹っ飛んだ。

そして新しい問題が生まれた。…ここは、どこ!?

 

 

 

 

 

違う意味でぞわりとする。叫んだ所為で、建物の奥から人…否、天人がやってきた。

「起きたかい、お嬢ちゃん」

「ええ…まあ。最悪の目覚めですけどね」

 

目の前にいる天人は、狼のような見た目だ。…食われたらどうしよう。

 

「え、えーと、あの、私のほかにあと2人…女の子と男の子がいたはずなんですけど、知りませんか?」

「あぁ、あの人間なら…今頃海に沈んでいるんじゃないかねェ」

「っ!!」

 

 

ガチャッと手枷が鳴る。

…いや、違う、大丈夫な、はず。あの2人だもん、そう簡単には死なない。

それよりも今ので2人もこの建物…っていうか多分ここ、春雨の戦艦にいるんだ。

 

 

 

「…2人のところへ連れてってください」

「いいだろう。だが、その前にお前ら攘夷志士のアジトを教えろ」

そう言って、狼天人は私の顎を掴んで顔を上げさせる。…む、無駄に毛並みがツヤツヤ…!!

 

…じゃなくて!

最近攘夷志士に間違われてばっかりだな私!!

 

 

「残念ですけど、私攘夷志士じゃないんで知りません」

「とぼけたって無駄」

 

そこまで言いかけたとき、ドカァァァンッ!という爆発音が艦内に響いた。

 

 

 

「何事だッ!」

それよりも早く手を離して欲しい。ずっと顔固定されてるのも疲れるんだよ。

 

連発して響く爆発音に、ついに狼天人は私をほったらかして、通路の方へ走り出した。

かと思いきや、爆発音と共に通路に仰向けに倒れた。

 

 

 

 

「攘夷志士を舐めてもらっては困る」

 

 

 

 

耳を刺すような爆発音の中、聞き覚えのある声が響き、カツ、という靴音が私のいる牢の前で止まる。

 

 

 

 

 

「大丈夫か、助けに来たぞ

 

「か…桂、さん…!!」

 

 

 

 

 

その服はどうした。海賊に転職ですか。

というツッコミをする気力も失せるほど、今の私には、桂さんが来てくれたことが嬉しかった。

 

 

 

狼天人が落としたのだろう、鍵束から手枷の鍵を探して私の拘束は解かれた。

爪先立ち状態だった私の体は、重力に引っ張られてそのまま桂さんに向かってダイブする。

ぽす、と抜けた音を立てて私を受け止めた桂さんが言う。

 

 

「怪我はしていないか?」

「あ…はい、ちょっと頭がくらくらするけど、これくらい平気です!」

ここへ連れてこられる前に嗅がされた薬の所為だろうけど、少量だったみたい。

 

 

「なら外へ行くぞ。銀時が心配していた」

「銀さん、が…」

「ああ。うるさくてかなわんから別行動だ」

言いながら桂さんは私の手を掴んで走り出す。

 

 

…早く、外へ行かなきゃ。2人が心配だし、それから、銀さんに私は大丈夫だよ、って言わなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倉庫やら天人やら、手当たり次第に爆弾で吹き飛ばしながら、外へ続く通路を走りぬける。

出口が近づいたとき、いくつかの聞き覚えのある声が聞こえた。

 

外へ出た瞬間に、桂さんが叫ぶ。

 

「あとはお前の番だ、銀時!のことは俺に任せておけ」

「ヅラ…っ!!大丈夫かー!!」

 

 

ばっちり海賊服を着た銀さんが、こっちを見て叫ぶ。

「うん、大丈夫ーっ!!」

「ヅラになんかされてねぇかー!?」

「されてない…って聞くことおかしいだろ!!

 

むしろ助けてもらったよ!

かっこいいとか思っちゃったよ!

 

 

ーっ!無事アルかー!?」

「うん!2人も大丈夫!?」

「はい!大分ギリギリでしたけど、大丈夫ですよさん!」

 

新八君の眼鏡が行方不明なようだけど、2人とも元気そう。

…よかった、ほんとに。

そして、心配してくれて、ありがとう。

 

 

 

 

「てめーら終わったな、完全に『春雨』を敵にまわしたぞ」

「知るかよ。終わんのはてめーだ」

 

カチャ、と銀さんの腰の刀が鳴る。

 

「いいか…てめーらが宇宙のどこで何しよーとかまわねー」

 

ビュッと空気を斬る音と共に、切っ先を陀絡に向ける。

 

 

 

「だが俺のこの剣、こいつが届く範囲は…俺の国だ

 

 

 

鳥肌が立つほどに、その言葉は脳の奥へと沁み込む。

私は無意識にぎゅっと強く両手を握っていた。

 

 

「無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ、将軍だろーが宇宙海賊だろーが隕石だろーが…」

 

刀を握り、相手を見据えて、言う。

 

「ブッた斬る!!」

 

 

 

 

勝負は一瞬。

ガキィィンというけたたましい音が響いた後は、恐ろしいほどの無音。

 

 

 

「…クク…オイてめっ…便所で手ェ洗わねーわりに…けっこうキレイじゃねーか」

 

 

そう言ってどさりと陀絡は倒れこむ。

最後はかちり、という刀が鞘に納まる音だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アー、ダメっスね。ホントフラフラして歩けない」

「日ぃ浴びすぎてクラクラするヨ。おんぶ」

「なんかもう色んな疲れが一気に来た感じ。だるいー」

 

「何甘えてんだ腐れガキども!誰が一番疲れてっかわかってんのか!」

地面に座り込んだ私たちに向かってぎゃんぎゃんと叫ぶ銀さん。

 

 

「つきあってらんねー。俺、先帰るからな」

私たちに背を向けて歩き出す銀さん。

それでも動かない私たちを振り返って、もう一度叫ぶ。

 

 

「いい加減にしろよコラァァァ!!上等だおんぶでもなんでもしたらァ!!」

「「「よっしゃ!!」」」

「元気爆発じゃねーかおめーら!!」

 

 

勢い走り出して、銀さんの元へ。

「さすがに3人は無理!今の銀さんそんなに体力ねーよ」

「仕方がないな。ならは俺が連れて行って…」

「おい待て。おかしいだろ。なんで負傷中の俺が2人でお前が1人?逆だろ」

 

 

そんな揉め事が終わる頃、空はきれいな茜色に染まっていた。

 

 

 

 

「銀さん、ごめんね、重くて」

「うん」

「そこはお世辞でも、そんなことねーとか言えよ」

 

結局、私が銀さんにおんぶされて、神楽ちゃんと新八くんが桂さんに抱えられて帰ることになった。

言い出しておいてなんだけど、なかなか恥ずかしいものがある。

 

 

 

「…銀さん」

「んー?」

「かっこよかったよ、最後」

ぎゅっと首に回す手に力を入れて言う。

 

 

「…最後だけ?」

「うん」

「そこはお世辞でも、銀さんはいつもかっこいいよとか言えよ」

「無理」

「…ちゃん酷くね?」

 

 

 

「…冗談だよ。…ありがとう銀さん、来てくれて嬉しかった」

 

恥ずかしくて、銀さんの服に顔を埋めて小さな声で言った。

でも「おう」という、これまた小さな声の返事が返ってきた。

 

 

私は緩む顔を見られないように、万事屋に着くまでずっと、銀さんにしがみついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

長い…!けどこれは一話で済ませたかったんです。勢いです。

桂さんに救助されるとは…!という、ちょっと予想のつかない(だろう)お話にしてみました。

ラストはちゃんと銀さんオチに。

2008/06/10