「てめー見ねェ顔だな。どこのモンだ?」
「この辺の公園はなァ、かぶき町の帝王よっちゃんの縄張りなんだよ」
「ここで遊びたきゃドッキリマンチョコのシール3枚上納しろ小娘!」
「なんですか?バックリマン?そんなものが城下では流行っているんですか」
「バックリじゃねーよドッキリだよ!」
「いやいや違うヨ。ザックリマンの間違いアル」
第13曲 お手をどうぞ、お姫様!
「お疲れ様でしたーっ!」
「お疲れ、ちゃん。気をつけて帰ってね」
「はいっ!」
お妙さんに見送られ、仕事場、スナックすまいるを出る。
今日の仕事は午前だけ。さて、今からどうしようかなー、なんて思いながら私はかぶき町へと歩き出した。
特に行くあてもなく、ふらりとかぶき町を歩いていると、よく知った女の子と、黒髪の女の子が見えた。
「ああーっ!ーっ!!」
ぱたぱたと手を振りながら、走ってくる子は、神楽ちゃん。
そして一緒に黒髪の女の子も上品さを漂わせる感じで走ってくる。…あれ、あの子って…。
「っ!仕事終わったアルか?」
「うん、今日は午前だけだからねー!…ってそっちの子は?」
見覚えはあるんだけど、えーと…。
「紹介するヨ。そよちゃんって言って、かぶき町の姫アル!」
そう言って、今度は女の子、そよちゃんに向かって言う。
「こっちはアル。かぶき町の天使ネ」
「そうなんですか!」
「違うよ!!待って神楽ちゃん、天使はハードル高いって!」
元は学生だから!一般学生だから!
「…って姫ェェ!?そんな軽い感じで名前呼んでいいんですか!?」
「大丈夫アル。依頼ヨ依頼。…今日一日、お友達になって、っていう依頼ネ」
慌てる私に、笑顔で言う神楽ちゃん。
ちらりとそよ姫さまの顔を見ると、にっこりと笑って、よろしくお願いします、と言った。
「…了解。じゃ、敬語も一切無しでいくよ?そよちゃん」
「はいっ!」
「さァはったはった!丁か半か?」
半!とか丁!とかいう声が飛び交うここ、賭博場。
「神楽ちゃん、初っ端から賭博場って刺激強すぎるんじゃない?」
「かぶき町で生きていくなら、こういうところに馴染むのも大切ヨ」
ふっ、と息をついて笑う神楽ちゃん。あれ、なんかかっこいいよこの子。
「で、はどうするアルか?」
「うーん…よし、丁!!」
「なら私も丁でいくネ!の勘はめっさ当たるのヨ!」
「じゃあ私も丁で」
神楽ちゃんの言うとおり、なんだか最近妙に勘がいい。
話っていうか色々先のことを知ってる、とかいうのとは別で、こういうところで勘がよく働くようになってきてる。
ジャララッというサイコロのぶつかり合う音がした後に声が響く。
「ピンゾロの丁!!」
「やったアルーー!」
「凄いです、天使さん!」
「えっへへー!ってか天使は勘弁してね、そよちゃん」
それから私たちは、駄菓子屋へ行ったり、パチンコをやりにいったり、池を見に行ったり。
ぷりんと倶楽部で3人、物凄い変顔をしてみたり。
なんだかとても、懐かしい感じがした。
この世界に来る前も、こうやって友達と遊んでたんだよね。
こんなに一気に色んなところ回って遊ぶのは、久しぶり、ううん、初めてかもしれない。
ここに来て、まだ日は浅いのに、もう昔のことみたいに思い出になりつつある。
どこで遊んでたのかを思い出そうとしても記憶は曖昧で。
…きっと遊びすぎてて、ごちゃ混ぜになってるから、思い出せないだけだよ、と自分に言い聞かせた。
「お2人とも、私よりいろんなことを知ってるんですね」
甘味屋でお団子を食べながら話す。
「まーね。あとは一杯ひっかけて『らぶほてる』になだれこむのが今時の『やんぐ』ヨ」
「ちょっと待った神楽ちゃん。それ誰に聞いたの」
「銀ちゃん」
「よーし帰ったら一緒に銀さんシメるよー。そよちゃん、ラブホテル連れ込まれそうになったら全力で逃げてね」
ずずっとお茶をすすりながら、通り行く人を眺めながら話す。
「お2人ともいいですね、自由で」
ぽつりと静かに、そよちゃんが言った。
「私、城からほとんど出たことがないから、友達もいないし、外のことも何にもわからない」
そよちゃんは少しだけ上をむいて、空を見上げて続ける。
「私にできることは遠くの街を眺めて思いを馳せることだけ…」
お姫様というのは、私たちが思うよりも、とても大変な生活なんだと思う。
それを、これだけ近くで話を聞いているせいか、凄く、心にのしかかってくる。
「あの街角の娘のように自由にはね回りたい、自由に遊びたい、自由に生きたい」
ゆっくりと目を閉じて、そよちゃんは微笑んで言う。
「そんなことを思ってたら、いつの間にか城から逃げ出していました」
「逃げたい、よね」
「さん?」
「私はお姫さまとはかけ離れた身分だからさ、詳しいことはわからないけど、逃げたい気持ちは分かるよ」
毎日学校へ行って、帰って。それの繰り返し。
逃げ出したくなる気持ちは、何度かあった。
けど、私にはお休みが、休日がある。逃げ出せる日がある。
そよちゃんには、それが無いんだよね。
「たまには…逃げてもいいと思うんだ。息抜きしないとさ、余計に辛くなっちゃうし」
「そうネ。ずっとそんな生活してたら、楽しいこと何も知らないままヨ」
そよちゃんを真ん中に、両側に座る私たちがそう言うと、そよちゃんは優しく笑った。
「ありがとう、でも、最初から一日だけって決めていた」
小さな声は、町の雑踏にかき消されることなく私たちに届く。
「私がいなくなったら、色んな人に迷惑がかかるもの…」
「そよちゃん…」
「その通りですよ。さぁ、帰りましょう」
私たちの上から降ってきたその声は、このゆっくりとした時間の終わりを告げる、土方さんの声。
ゆっくりと、立ち上がろうとするそよちゃんを横目に、私と神楽ちゃんは目配せする。
「そよちゃん」
私と神楽ちゃんはそよちゃんの手を掴む。
「…さん…女王さん…」
「行かせないヨ」
「これは、私たちのわがまま。…走るよ!」
ふぅっ!と勢いよく神楽ちゃんが土方さん目掛けて飛ばしたお団子の串を避ける、その隙を狙って
私は驚くそよちゃんを半無理矢理引っ張って立ち上がらせる。
「おいっ、待て!!」
土方さんの怒鳴り声を背に、私と神楽ちゃんは、そよちゃんの手を引いて走り出す。
日が暮れるには、まだまだ時間があるんだから。
あとがき
友情物語です。えーと、たまには、女の子同士っていうのもいいかなーと。
今回は甘さよりも、ほのぼのさを目指していきたいです。
2008/06/22