雨乞い、甘恋
寝起きをするいつもの和室。そこでは締め切った窓の傍に座り壁に耳を押し当てながら目を瞑っていた。
銀時は隣の居間でソファにすわりながら、少し不機嫌そうな顔でジャンプを読んでいる。
朝目が醒めてからというもの、銀時の機嫌の悪さは変わらず。心なしか時間が経つにつれて段々と酷くなっているような気さえする。
そんな事は構いもせずにずっと和室に篭ったは逆に機嫌が良さそうだった。
その理由は単純に雨の日が好きだからである。だが逆に銀時は雨は嫌いだ。おかげで二人の間に会話は無い。
神楽は昨日の夜に新八の家に泊まりに行ってしまった為、いつもの賑やかさはまったく無かった。
沈黙は流れるが、けして無音なわけではなく、室内にこもった音で響くのは激しく壁や屋根を叩きつけるような雨音。
昨日の夜中辺りから降り出したらしい雨のおかげで、今朝起きてから銀時は機嫌が悪い。
そしてその機嫌を増長させているのはの意味のわからない機嫌の良さにもある。
人が機嫌が悪いと言うのに、目の前で機嫌のよい顔をされては八つ当たりといわれようとも苛立つのは仕方のないこと。
しかしそれに当り散らすほど銀時は大人気ないわけでは無いので、なるべく接触をしないようにと居間でジャンプを読み現在に至る。
そんな銀時の心境など知らず、いまだは和室の方で雨音を静かに聞き入っているのだろう。
ページを捲る音よりも、部屋に響く雨音のほうが強くおかげでジャンプに集中できない。
仕方なくジャンプをデスクの上に置き、気分転換にテレビでもつけようと体を起こしたとき、背後から襖の開く音がした。
今ここには銀時としか居ないため必然的にそれはでしかないとわかっていたが、振り返ってしまうのは自然の動作だ。
「どうした? んな所にボーっとつっ立って。腹でも痛いのか?」
相変わらず響く五月蝿い雨音だが、銀時の声は掻き消されることなくに届いたはずである。
だがそれに答える事はなくは無言のままに玄関に歩き出していった。
訝しげな顔をしながらそれを視線で追えば、突然傘も差さず外へと出て玄関の前で両手を広げた。
「はっ?」
「ひゃっほーい!! 雨だ、雨だァァ!! もっと降れ!! 降り注げー!!! 雨乞い祭じゃー!!」
「ちょっ、ちゃん何してんのォォォ!! マジ勘弁して! 普段から客こねーけど余計に人が寄り付かなくなるからー!!」
「止めないで銀さん! 否! 誰も私を止められなーい!! キャッホーイ!!」
「ちょっとー!!! 何にとり憑かれたの!? なんかの儀式ですかー!!」
玄関先で突然わけの分からない事を口走りながらはしゃぎ出すを羽交い絞めにして、必死に止める銀時はなんとか中へ引き摺り戻すと急いで玄関を閉めた。
は何を考えてか率先して雨に打たれに行き全身ずぶ濡れになり、それを止めた銀時はとばっちりでほどでは無いにしろ頭と肩がぐっしょりだ。
「おい、。ちょ、これどうしてくれんだ。オメーの奇行のせいで俺までずぶ濡れじゃねーか」
「あははははは!!」
「あははじゃねー!!! マジ勘弁してくれよ。それとも何? 俺に恨みでもあるんですか?」
「やー、だって雨ですよ雨。今まで我慢してましたけど、やっぱ無理です。これがハイなテンションにならずして何時なるっていうんですか!」
「わけわかんねーよ、・・・ったく。おい、風邪引きたくなかったら風呂入って来い風呂」
うんざりした顔をして立ち上がり脱衣所へ行ってタオルを取ってくるとさっさと上着を脱いで体を拭き始めた。
土間に座り込んだままのは風呂場へと行く様子はなく、ただジッと銀時を見つめているばかり。
「・・・・おい、何見てんだよ」
「いやー、いきなり目の前で脱がれちゃってさんどうしようかと・・・」
「馬鹿かお前は。阿呆な事言ってねーでさっさと風呂入って来い」
「馬鹿と阿呆のコンボ攻撃とは銀さん酷い! 私はせいぜい馬鹿な子です! 阿呆じゃないです!」
「雨に好んでうたれに行ってずぶ濡れになる奴は馬鹿で阿呆だよ。もーいいから早くお風呂入ってきなさい!」
いつまでも土間に座り込んでいるへ銀時は風呂場を指差しながらはっきり言えば、のろのろとした足取りでようやく風呂に入りに行く。
「お母さんですかアナタは」とブツブツ呟かれた言葉はこの際一切無視した。
が脱衣所に入る前に体を拭いて濡れたタオルをへ投げつける事も忘れない。もちろん文句の一つ二つが飛んでくるがそれも聞かぬ振り。
先ほどの一騒動のおかげと言えばいいのか、銀時の不機嫌はどこかへと消えていた。
着替えてソファに座り一度は閉じたジャンプを読んでいれば風呂から上がったが何も言わずに銀時の横へと座ってくる。
隣でガサガサと動く気配は感じていたが特に気にかけず、銀時の視線はジャンプに向いたままだった。
暫くの間はそのままだったが、袖を弱く引っ張られ顔を向ければがまるで狙ったような上目遣いで見つめてきていた。
何を求めてきているのか分かった銀時だが、先ほどずぶ濡れにされた事もあり素直に聞いてやるつもりはなく無言で見つめる。
いつもならば何も言わずに動いてくれるはずの銀時の思わぬ反撃に、は口元を尖らせムキになって睨みつけるが効果は無い。
「穴が開くほど見つめられても、言ってくれなきゃ銀さんわかりませーん」
「嘘つき。銀さん本当は解ってるんでしょ!」
「わかりません。してほしい事があるなら、そのお口でちゃーんと言わなきゃなー?」
視線をジャンプへと戻しながらニヤニヤと笑いをからかう銀時。
対しては頬を赤らめながら頭を拭き途中のタオルを強く握り締めて睨みつけるがしかし、やはり効果はなく終わる。
「〜っ!! い、意地悪!! 銀さんの意地悪、いじめっ子!! 言うの恥ずかしいんですよ!!」
「なんとでも。俺はさっきお前のおかげでずぶ濡れにされたからな。これぐらいの仕返しは当然だろ?」
「ムガッ!」
鼻をつままれ頬だけでなく耳まで赤らめながらはとうとう観念した。
つまむ手を払って掴んでいたタオルを銀時の目の前にズイッと差し出すと目線を逸らしながら呟く。
「・・・・・・・・頭拭いて下さい・・・・・・」
「よくできました」
「・・・・なんか、悔しい」
「いいから後ろ向けって、ホラ」
受取ったタオルを持って後ろを向かせて座らせガシガシとの頭を拭き始めた。
一見乱暴に見える手つきだが、は気持ちよさそうに目を閉じて拭かれるままになっている。
銀時の手の動きに合わせての頭も左右前後にユラユラと揺れる。頭皮部分を終えれば毛先のほうは先ほどよりも丁寧に水滴を拭いていく。
暫くして拭き終わり湿ったタオルをテーブルの上に置くとそれを待っていたと言わんばかりには銀時へ凭れかかって来た。
何を言うでもなく凭れるを緩く抱きしめると肩へ頭を乗せる。風呂上りの香りが銀時の鼻腔を擽った。
「ところでお前さ、なんであんな事したわけ」
「え、だってこんな強い雨はめったに降りませんよ。そりゃハイなテンションになります。もう裸足で外駆けずり回りたくなりますって!」
「ならねーよ」
即答された事よりも否定された事には何か抗議したそうな顔で振り返ってきたが、それ以上なにも言わなかった。
顔が近いとまた口を尖らせて文句を言うはきれいに無視をして、銀時は風呂上がりですこし赤味が増しているの頬へと頬擦りをする。
すべすべとした感触が気持ちよくてそのまま続けていればくすぐったいと抗議されるがそれも一切無視。
文句は言いつつもこれといった抵抗を見せないに調子に乗っていたが、突然顔面を軽くではあるが叩かれやっと顔を離す。
だが今度は指で頬を突付かれはじめた。
「ちゃんの頬はやわらけーのな。マシュマロみてーだ」
「マシュマロはいいですけど、食べないで下さいね」
「わかんねーよ? 油断してたら銀さん、この可愛い頬にカプリといっちまうかもよ?」
「銀さんが言うと冗談に聞こえないから勘弁して下さーい」
一度起こした体をまた銀時に寄りかからせれば二人は笑いあった。
暫くの間は静かだったが、また激しい雨が降りはじめ雨音が響く。
「おい、もう外に飛び出すんじゃねーぞ」
「もうやりませんよ。今は、銀さんにくっついていたいです」
回された腕を少しだけ強く掴んで響く雨音を遠くに、は背中から感じる温かさと銀時の鼓動を聞きながら静かに目を閉じた。
暫くしてウトウトし始めたをみて銀時は静かに耳元で呼びかける。
「、上向け」
「?」
言われたままに上を向けば前髪を掻き揚げられ額に触れるキス。
先ほどまでは風呂上りの温かさがあったが、今はまた別の熱が頬に集まるのを感じる。
閉じていた目を大きく見開いて銀時の顔を見ればいつものような何か企んでいるような笑みではなく、ひどく穏かな笑顔だった。
「おやすみ」
囁かれた言葉と優しく頭を撫でる手に一度形を顰めた眠気は再びその首をもたげ始め
は目を閉じて小さく「おやすみなさい」と呟くと暫くして静かな寝息が聞こえた。
「まあ、たまには雨の日もいいもんだな」
雨音に掻き消されてしまいそうなほどに小さく呟くと、銀時はを抱きしめる腕を少しだけ強くした。
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リクエストが銀さんの甘い夢だったのでいつも以上に頑張って砂糖ぶちまけてました!
でも見事に砂糖と塩を間違えた気分です。甘くなってるかな、これ・・・・・?
多少の不安はありつつも、銀さんの甘夢と言いたいお年頃です。(お年頃?)
こんなものですが、どうぞお嫁にもらってやって下さい!
相互本当にありがとうございました!
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唯斗さん、ありがとうございましたぁぁー!!!
もうがっつりリクエストに添えて甘夢を貰いました!
雨の日には外に飛び出ようかと思います(ぉ
もう砂糖の入ってる袋ブンブン振り回して甘いよ銀さーん!と叫びたい気持ちで一杯です。
素敵な相互夢ありがとうございました!!
ばっちりお嫁にもらわさせていただきます。ありがとうございました!!