「だーかーらー!!いいじゃん、乗せてってよ!」
「嫌でィ!」
自転車置き場にあたしと沖田の叫び声が響く。
今朝は神楽ちゃんが家まで定春をつれて迎えに来てくれたから、そのまま2人で
定春に乗って登校したわけで。
つまり、今のあたしには自転車がない。
あたしの家は学校から結構離れてる。歩いて帰るのは…ちょっと苦しい。
「帰りもチャイナのバカでけぇ犬に乗って帰ればいいだろィ」
「そう!そう思ってたんだけど、さっき『ドラマの再放送見なきゃ!行くヨ定春!』って言って帰っちゃって」
「おお、そーだ。ドラマの再放送見ねーと」
ガチャンと自転車にまたがる沖田。ってうおおーい!!
「何1人で帰ろうとしてんの!乗せてってよ!」
「嫌でさァ。めんどくせェ」
「うぐぐ…!」
「あの…ちゃん、俺が乗せてってあげようか?」
後ろからおずおずと声をかけてきてくれたのは…退くん!
「さささ退くーーん!!是非!是非おねがい!あーもう!なんていい人!沖田とは大違い!」
「……ー山崎のチャリのタイヤパンクさせねーようにしろよ!」
「失礼だなホント!!大丈夫だっつーに!」
チリリーン、とベルを鳴らして沖田はさっさと帰っていった。…マジで見捨てやがったアイツ!
「…はは…俺帰ったら殺されるかも」
「え、何で!?」
たしかに退くんはアパート住まいで、確か同じアパートに近藤君や土方君、それと沖田も住んでるんだっけ。
「…まぁ、何でかは秘密ってことで」
退くんは、あはは、と乾いた笑みを浮かべてから自転車を探した。
「よっし、じゃあちゃん後ろ乗ってー」
「はいよー!」
退くんの自転車の後ろにまたがる。…手、どうしよ。
「手、俺の腰に回してていいからね。落ちたら危ないから」
「あ、うん!」
行き場がなかった手を退くんの腰にまわす。
あ、意外とガッシリしてるんだな…って何考えてんのあたし!
「じゃ、ちゃん家まで行くねー!」
ひゅうう、と風がほほをかすめていく。
そして変わっていく景色。あぁ、自転車に乗せてもらうって最高!!
「ごめんねー!あたし家までだと退くんのアパート通り越しちゃうよね」
「ううん、いいよいいよ!あんまり早く帰っても沖田さん怖いから…」
「うん?何ー?」
風の音と、車の音で最後の方がよく聞き取れない。
「なんでもないよー!」
そして他愛もない話をしているうちに、あたしの家はもう目の前だった。
いつもならもっと時間かかる気がするんだけどなぁ。…色々喋ってたから、かな。
「はいっ、到着!」
「ありがとう退くん!!」
退くんの腰から手をどけて、自転車から降りる。
「ほんと、わざわざごめんね」
「ううん、いいよいいよ」
退くんはいい人だ。地味なだけじゃなかったんだね…!
「ちゃん…なんか目キラキラしてるけど、失礼なこと考えてない?」
にこりと笑って言われる。
「めめめめっそうもございません!!これは感謝オーラです!!」
「そう?ならいいけど」
あぁそうだ、退くんは時々恐ろしい人だったんだ。
「それじゃ、また明日ね」
「うん、気をつけてねー!」
ガシャンと自転車にまたがって漕ぎ出す退くんに向かって手を振る。
「…また乗せてほしかったらいつでも言っていいからねーっ!」
手を振りながら、少し振り返って退くんは叫んでいた。
「……!…うん、ありがとー!!」
周りが夕焼けに染まる頃。なんだか良い気分で玄関を開けたら、リビングからお母さんが走ってきて
「今のだぁれ!?…!あなたにもついに彼氏が!?」
なんて楽しそうに言うもんだから、友達だよ!って説得するのに大変でした。
…今度もし乗せてもらう機会があったら家の近くまで、にしておこうかな。
チャリの二人乗りは犯罪です
(俺、なんか警察やってた気がするんだけど。これ犯罪だよね…いいのかな…。………まぁ、いいか!)
あとがき
退夢は妙に甘くなります。なんでだ…!!一瞬ブラック退が降臨しましたけどね。
私は自転車の二人乗りは青春だ、と勝手に思い込んでます。
だーれかー!私をチャリの後ろにのせてー!(うるせェェェ!!
2007/09/30