「はぁー…」
3時55分。もうすぐ4時になるころ、あたしは渡り廊下から校庭を眺めていた。
まさか…まさか、数学の小テストがあんな悪いとは…!!
…終わったことはしょうがないんだけどさ、ヘコむんだよね…。はぁ。
「……はぁ」
ため息をつくと幸せが逃げるとか言うけど、今の時点じゃ幸せなんて残っていないから
どれだけため息ついたっていいよね。
っていうかなんだあの人だかり……っていうかエリザベスじゃん。
一年の女子に囲まれてるよ。くそう、なんか幸せそうだな…。
ぼーっとその光景を眺めているとぱたぱた、と足音が聞こえて、そして声が聞こえる。
「…あれ、ヅラじゃん」
「ヅラじゃない桂だ」
…いつも律儀に言い直してくるよなー。マメな人だね!
「…じゃなくて、、エリザベスを見なかったか?」
「エリ………あれっすか」
視線を桂くんから外して外を見ながら言う。
そこには今だ1年の女子に囲まれたエリザベスがいた。
「んー…!?なっ、え、エリザベス!!」
桂くんはビシッっと窓の外、エリザベスに向かって指をさして叫ぶ。
「侍たる者が女子にきゃーきゃー言われてるとはお前ッ…!!」
「今侍じゃないからね。学生だからね」
ツッコミもし終えて、あたしも窓の外を見る。
うふふふ、今日も夕焼けは綺麗だなぁ。
「…はぁ」
「どうした、そんなにため息ついて」
「…いや、別に」
視線を斜め下に下げて言う。
「何かあったんだろう?相談なら乗ってやるぞ」
桂くんはそう言いながらあたしの顔を覗き込む。
「………桂、くん。この間の数学の小テスト…何点だった?」
さらに視線を下げて、俯くようにして呟く。
「この間の…あぁ、あれは…80点くらいだったかな」
「うっそ!?」
がばっ、と勢いよく顔を上げた所為かちょっと桂くんは吃驚していた。
か…桂くんってそんな頭よかったの…!?
「オイ今失礼なこと考えなかったか」
「考えてないです。むしろ尊敬です」
恐ろしい。この学校、というか3Zの人は時々読心術が使えるんじゃないかと思う。
別に、あたしが顔に出やすいとか、そういうわけじゃない、と思う!
「なんだ、テストが悪くて落ち込んでいたのか」
「うう…!お、落ち込んでわるいかー!」
最早逆ギレ状態で叫ぶ。
「悪いとはいってない。それに、今間違えた方が今度の学期末テストでミスすることもなくなるかもしれないだろう」
「……は、あ…」
確かに今回ミスしたのが悔しくて公式はがっちり覚えられた、けど。
「それでも分からないところがあったら、教えてやる」
「……は、…え?」
ぽん、と頭に手を置かれる。
…なんだろう、この親子みたいな状況。
「…まぁ、あれだ。お前はいつもアホみたいに笑ってないと、見てる方の調子が狂うんだ」
「ア、アホみたいって何よ!」
なんだかわかんないけど、妙に照れくさい。
「いつもアホみたいな顔して笑ってるだろう」
「アホが似合うっていうのは色々複雑な気分なんですけどー」
なんなんだもう!さっきまでちょっと慰めてくれるのかなーみたいな空気を出しておきながら
なんかいつもと同じじゃん!…あれ、いつもと同じ。
「は落ち込んでるより、笑ってる方が、似合ってるぞ」
「…え、と」
「じゃあ俺はエリザベスを迎えに行く。…数学教えてほしかったらいつでも言え」
スパッとそう言ってあたしの頭から手を離して桂くんは廊下を走っていった。
あたしは呆然と立ち尽くしていた。
さっき見えた桂くんの顔が赤かったのは、夕焼けの所為だと、そう思っておこう。
ふと時計を見ると、もう針は4時10分を指していた。
あらら、そろそろ帰らなきゃ。
そう思って廊下を歩き出す。
歩いてる途中に、昼放課の話を思い出す。
「知ってるアルか?夕方の4時に渡り廊下に1人でいると素敵な出会いがあるらしいヨ!」
「へー」
「物凄く薄い反応ねちゃん」
「いやぁ…今、もう頭の中それどころじゃなくて…はぁ」
「今日のはため息ばっかりヨ。大丈夫アルか?」
「悩み事なら聞くわよ?」
「ううん、大丈夫だよ!…ありがとうね!」
…素敵な出会いか。
割とこの学校のジンクスは嘘じゃないのかもしれない、なんて思いながら教室へと走り出す。
さっきまで落ち込んでいたはずの顔が緩んでるなんて気付かないまま。
ジンクス:渡り廊下
(あったよ神楽ちゃん…素敵な出会い…!…そう、素敵な友達との出会いが!!)
あとがき
桂くんに出番をあげようと思って書いた小説です。
ヅラは好きですけどなかなか、絡ませ辛い…!(ぁ
そしていい人になりました。よかったねヅラ。でもヒロインさんはいいお友達だと思ってるからね!
2007/12/05