ピンポーン。
家のチャイムが鳴る。…もうすぐ夜の9時なんですけど。
1階からお母さんの声がする。そして…あれ、なんか聞き覚えのある声…。
「ー!先生よー!」
ふぅーん、そっかー。先生かー。………は!?
「せせせ先生ィィ!?」
走って階段を駆け下りてリビングの扉を開く。
「おー、」
ぴっ、と片手を上げて言う銀八先生。
「ちょっ、ちょっとなんで!?何でうちにいるんですか!?」
「他の奴らには電話したんだけどよ。もう電話すんの疲れたから直で連絡しようかと。9時に学校集合ってな」
先生は頭をかきながら言う。
「9時…ってもうすぐじゃないですか!」
「そうそう。だから着替えてこいよー。先生的にはそのパジャマでもいいんだけどよォ」
…何かさっきからじーっと見てるなぁと思ってたら…!
「せっ、セクハラ教師ィィィーーー!!!」
あたしは、そう言い残して部屋に戻った。
ブロロロロロ、と原チャリのエンジン音が夜の市街に響く。
「…せんせー」
「あ?」
「今日何するんですかー?」
「何だって?聞こえねー!もっとでかい声で言えよー!」
あたしは今、原チャリに乗っている。正確に言えば、原チャリの後ろ。
銀八先生の腰に腕を回している。向かうは、学校。
「…今から何するんですかーー!!」
「肝試し!」
……おおっとぉぉーー!?
「ちょっと待って先生!!やめよう!先生だって怖いの苦手でしょ!!」
「なっ、なに言ってんだよ!俺は幽霊なんざ怖くねーよッ!!」
声が上ずってますけど先生。
そんな事を喋っているうちに学校に到着した。
「おーー!やっと来ましたかィ…って」
「何でテメーと一緒なんだよ」
学校に着くと校門に沖田と土方君がいた。
「電話すんのがめんどくさかったから直接連れてきたんですー」
べーっと舌を出す先生。
「まぁ先生。こんな夜に女の子の家に行くなんて!」
「!何もされてないアルか?」
ばたばたと妙ちゃんと神楽ちゃんが駆け寄ってくる。
「えーと、されて………ないよ!」
「ちょっとちゃぁぁん!!そこ間を空けないでくれる!?」
「っつーわけで、3年Z組肝試し大会、ルール説明すっぞー!」
「っていうかなんで強制参加なんですか」
新八君がつっこむ。
「自由にしたら誰もこねーだろ」
そりゃそうだ。あたしだってこんな夜の学校なんて来たくない。
「あー、ルールはペア決めのくじに書いてあるからそれに従えー。
っつーことで、ペア決めくじ引きをはじめまーっす!」
何処から出したのか先生が2つ箱を出してくる。
「んじゃ俺から引きますぜィ」
「女子はこっちの箱なー」
「サディスティック野郎だけは死んでもゴメンネ!」
がさがさと箱をあさっていく皆。
っていうかなんでそんな乗り気…!?
「どういうことですか、先生」
「…ほんとだよ。何で一枚余ってんだよ。しかも何で俺なんだよ」
真っ暗の廊下を銀八先生と歩く。
「そもそもこのルール何ですか。『音楽室の戸締り』って」
「いや音楽室だけチェック忘れてたんだよなー」
「……」
じーっと先生を見上げる。
「…先生、他のルールって何があるんですか」
「……教卓の中のジャンプを持ってくるように、とか職員室の俺の机にあるレロレロキャンディもってこい、とか」
「それ先生が今日やり忘れたことでしょォォ!?」
もしやこの人、1人で学校来るのが怖かったから肝試しを装って皆に仕事振り分けたってことじゃ…!
「………」
「いや、ちょっとちゃん、そんな目で見ないで」
音楽室へ行くため、階段を登る。
「あーもうっ、さっさと終わらせますよ!」
「元気だねーー…」
ずんずんと廊下を突き進むあたしの手を掴む先生の手はなんか、こう、じっとりしてる。
「先生、手汗かいてません?怖いんじゃないですか?」
「ちげーよ、お前だろ?怖いんだろ?」
そういいながらぎゅうっとあたしの手を掴む。つないでるわけじゃない。つかまれている。
「…先生が掴んでるの、あたしの手の甲側なんで、汗かけませんからね」
音楽室の扉に手をかける。ガタッ、と音を立てつつも扉は開かない。
「ちゃんと鍵しまってますよ」
「なんだよー。わざわざここまで来たっていうのによォ」
「先生が帰りにチェックしてればこんなことにならなかったんですよ」
「しょーがねーだろ、忘れてたんだから」
「もー、さっさと帰りますよ、」
そう言った時。
ガシャーン!、とピアノの鍵盤を叩く音がした。
「きっ、きゃあああああ!!!」
どくんっ、と心臓がひときわ大きく脈打つ。
血の気が一気に引いていくような感覚がする。
「ないないないないない!!!ととと戸締り完了ゥゥゥ!!」
あたしの横で叫ぶ先生に、ぐいっと手を引っ張られたかと思うと
いつの間にか横抱き、つまりお姫様だっこ状態で廊下を走っていた。
ぐるぐると目が回る。頭がふらふらしているけど、上を見ると空が見えた。
…あれ、もしかして先生外まで猛ダッシュしてきた?
「せ…先生?」
「何もない!何もなかった!」
ぶんぶんと首を横に振りながら言う先生。
「…鍵、しまってましたよね?」
「ああ」
「中に人、いるわけ、ないですよ、ね」
「…ああ」
じゃあ、あの音、は?
思い出してまた怖くなる。ぎゅっ、と先生の白衣を掴む。
…ってちょっと待った!!いつまでこの体制!?
「先生、そ、そろそろ下ろして…」
「ああぁああぁあーーー!!何してるアルか!」
ほらみろー!!
中庭の方から神楽ちゃんが走ってくる。その後ろから土方くんも走ってくる。
「オイ先生、生徒に手ェ出したらまずいんじゃねーのかよ」
「違うよ大串くん。ほら、今は夜だろ?暗いだろ?だからちょっと階段で足捻っちまったんだよなー、」
「え!?」
白衣を掴んでいた手を放してがばっと顔を上げる。
「…な?」
「……そっ、そうなんだよー!ちょっとね。でももう大丈夫だから、さ!」
「ほんとアルか?痛くないアルか?」
大丈夫、と言って地面に足を下ろす。
…っていうか先生、結構力あるんだね。
「うーっし、回収ご苦労!」
「ご苦労!じゃないですよ!!何ですかこれ!先生のやり忘れでしょ!」
さすが新八君。誰よりも早くツッコミをいれる。
「あーあーうるさいうるさい。何だかんだでちょっとは楽しんでただろ」
みんなからジャンプやらレロキャンやらを回収していく先生。
「俺ァ土方さんの怖がってる顔の写メが撮れたんで満足でさぁ」
「消せ。今すぐ消せ。っつーか怖がってねぇ!!」
ぎゃんぎゃんともめだす沖田と土方君。
なんか、皆といると怖いのも消えてく気がする。
「そんじゃは俺が送っていくから」
「途中で襲われそうになったら叫ぶネ!」
「あはは、大丈夫だよ、多分。…そんじゃ、皆気をつけてねー!」
手を振って自転車を漕ぎ出すみんなを見送る。
「んじゃ行くか、」
「あー…なんか疲れました。とっても。誰の所為ですかねーまったく」
「…すいませんでしたー」
こうして夜の肝試し、もとい先生の用事は終了した。
「本当はにかっこいいとこ見せようかとおもったんだけどなー」
「……ちょっと見れたからいいです」
「あ?何?大きい声で言えってー!」
「なんでもないですー!!」
強制参加肝試し
(ちなみに音楽室のあの音は、ピアノの上に乗っていた楽譜の本が落ちたときに鍵盤に当たったからだそうです。)
あとがき
思わず姫だっこして逃走しちゃった先生。かっこいいんだか何なんだか。
とりあえずひょいっ、とヒロインさんを抱えて走れる力がある所は見直してもらえた…のかな?
ぐだぐだ長くて申し訳ないです…;もっと短くスパッと書きたいです。
2007/10/21