「おかえりなさいませご主人様ー」

「おかえりなさいませお嬢様ー」

我らが3年Z組から聞こえるその声は、やる気のある声とやる気の無い声がまざりあった、

なんとも絶妙なものだった。

 

 

今日はこの銀魂高校の文化祭。

…全然そんな前フリなかったじゃない!とか言っちゃだめだからね!

 

 

 

 

前のホームルームで決まった、このメイド執事喫茶。

沖田率いる男子軍がメイド喫茶、それに反発した妙ちゃん率いる女子軍が執事喫茶を提案。

そして「うん、もう両方やれば?」という銀八先生の適当さ加減により、現在に至るわけです。

 

 

 

いやぁ、凄いよ。割とうちのクラス、頭悪いけど顔はいい人が多いから。

そのうえ男子は執事服、女子はメイド服というね。…不本意ながら、あたしも。

他のクラスの生徒がわいわい集まってくるわけですよ。

そのうえ喫茶だから。

 

 

 

ーレモンティ2つでさァ。早くしなせェ」

「はいはい、大人しく待ってろ!」

「こっちぜんざいアル!早くするネ眼鏡!地味は地味なりに仕事するアル」

「うるせーよ!忙しいんだよこっちも!!」

 

 

 

あたしと新八君は、裏方で調理係。

というか、このクラスで調理できそうな人が他にいなかったらしい。

 

 

 

「おーい、ー俺あんみつでよろしく」

「はいは…って何しとんだお前ェェ!!担任だろ!っていうか料理できるでしょ!手伝って!」

暗幕で仕切られた調理場に、ひょっこりと顔を出して言う銀八先生。

 

 

 

「いいじゃん。俺先生だからー、労われよ」

「何がだ!っていうか文化祭嫌いって言ってたじゃん!」

「だから、あんみつ持って逃亡すんの」

…なんつー教師だよ…!とツッコミたくなる気持ちを抑える。今はそれどころじゃない。

 

 

 

素晴らしく手際のいい新八君を横目に、あんみつを作る。

そういえばレモンティもあったよね。レモンレモン…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すたすたと廊下を歩く。

…いや、別に、出張とかそういうのじゃなくて。

 

 

ちょっと、指を、スパッと。

なるべく痛みを感じないように、切れた部分を見ないで、すたすたと、保健室…ではなく数学準備室へ向かう。

 

 

 

 

 

「失礼しまーす…」

 

ガラッと扉をあけると、銀八先生並にだるそーにした高杉さんがいた。

…今日くらいは保健室かな、と思ったけれど、こっちにきて正解だったようだ。

 

 

「あ?何だ、……」

表情がかたまる、高杉さん。視線の先はあたし……の着ているメイド服。

 

 

 

「………」

「いや、その、お願いだからその痛い子を見るような目で見ないでくれます!?」

 

 

 

かくかくしかじか、ということで、事情を説明しつつ、手当てをしてもらう。

 

 

 

 

「バカじゃねぇの。お前不器用なんだからそういうのは人にまかせろよ」

「すいません。そのとおりです」

 

 

数学の参考書の横にある消毒液を切れた指に塗っていく高杉さん。

…っていうか一式セットおいてあるんだけど。もうこれ保健室戻る気ないよねこの人!

 

 

 

「にしても……よくその格好でここまで来たな」

「ですよね!今考えると恥ずかしくてたまらないです」

黒をベースにしてるから派手というわけじゃないけど、メイド服。いわゆる、コスプレ…ってやつになるんだろうな。

 

 

「でも、怪我イコール高杉さんだったんで!怪我といえば高杉さん!みたいな!」

「切った所思いっきり握ってやろうか」

「ごめんなさい」

ブツブツいいながら、あたしの指に絆創膏を貼っていく。ほんと、手際いいよなぁ。

 

 

 

 

「まぁ、最初はついに頭イカレたかと思ったが…割と似合ってるじゃねーかよ」

「…喜んで良いのかすごく微妙なんですけど」

是非普通の服のときに言ってもらいたいものだわ。

 

 

「じゃ、戻りますね。ありがとうございました!」

そう言って立ち上がった瞬間、両方の手首をつかまれて机の上に押し倒される。この体勢腰痛い!

 

 

「…え、ちょっと…高杉さーん?」

「もうちょっとゆっくりしてけよ」

ゆっくりできる体勢じゃないんですけど。

 

 

「いや、どうしたんですか」

「メイドは主人に仕えるモンだろ?」

「…高杉さんを主人と認めた記憶はないんですが」

「この部屋の主は俺だ」

 

 

…違う、違うよ!!ここ数学準備室!!主は…うーん、坂本先生?…うわぁ、仕えたくない。

 

 

 

「主人に手当てさせるたァいい度胸だよなぁ…

「いやいや、保健の先生じゃないですか」

もはや職務放棄発言だよ今の。

 

 

「…冷静だな

「……え」

 

あたしの首筋に顔を埋めて呟く高杉さん。

「慣れてんのか。それとも、なにも感じねぇのか…?」

…慣れてる、ってこの体勢!?

「な、慣れてるわけないじゃないですか!!っていうか、か、感じるって、なに…」

「身の危険」

 

 

妙にあっさり、さっぱりと言い切る。…何かする気なのかこの人!!

 

「いや、だって…」

「保障なんてねぇぞ。今は文化祭。そんなときに此処へくるなんて奴…頭のおかしい奴ぐらいだ」

そういいながらぺろりと首筋を舐めてくる。

いつの間にか高杉さんの左手はあたしの足をなぞっていて。

 

 

 

「…っ、た、か…」

拘束から逃れた右手は、切り傷の所為なのか硬直して動かない。

…」

 

 

「たーかーすぎぃー、ちょっとさぁ、居場所ねぇから非難させて………」

ガラガラッというこの場に非常に合わない効果音と共に現れたのは、

ジャンプとか、あんみつとか、まくらとか、何か色々もった銀八先生。

 

 

「……な、なにしてんだお前ェェエエ!!!」

 

 

「…頭おかしいやつ…」

「……あ、はは。助かった、のかな」

盛大なため息をつく高杉さんをビシッと指差してぎゃーぎゃー叫ぶ銀八先生。

高杉さんはしょうがねぇな、と言って腕を放してくれた。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か!?何もされて…はなさそうなんだけど」

「いやいや、大丈夫ですから。な、何もされてませんから!!」

凄い瞬間を見られたことを今になって実感して顔が赤くなるのが分かる。

 

 

「じゃ、じゃあ、あたし教室、もどります、から!!」

そう言って開け放たれたままの戸をくぐって廊下を走った。

…なるべく、人がいない廊下を選んで。

 

 

 

 

 

 

 

「提案したの、おめーか?」

「いいや。生徒」

「ククッ、なかなかいい案出すじゃねーか」

「……別にお前のためじゃねーしー」

「とりあえず、一杯物持ち込んでんじゃねぇよ。散らかすな」

「へいへい」

 

 

 

 

 

 

 

文化祭はコスプレ義務です



(くそぉぉーー!!やっぱりこの格好嫌!凄い注目浴びるんですけど!!…ちくしょぉぉーー!!)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

先に木曜日のお話を読んでおかないとわけがわからない小説になりました。ほんとすみませ…!!!orz

私的には高杉さんイコールエロい人ですけどね!(そんなこと聞いてない

隣のお兄さん、としか認識してないヒロインさんにちょっとムカッとしちゃった高杉のお話です。

今回はヒーローですね銀八先生。とりあえず、早くあんみつ食べろよ!

2007/12/29