今日、この学校にある調理室からは、賑やかな女子の声と、食器の音、そして。

「妙ちゃあああん!!火!火、強すぎィィーー!!」

「あら、そうかしら?」

「ヤバイヨ姉御ォォ!これ変な匂いするネ!!」

 

…叫び声が、聞こえていました。

 

 

 

 

「妙ちゃん、今作ってるのは、なに?」

「カップケーキでしょ?」

「うん、でも、何で、コンロで焼いてるの?

 

 

普通そこはオーブンだよね。あたし、間違ってないよね。

「私カップケーキは作るの初めてだから」

頬に手を当てて上品そうに言う妙ちゃん。やってることと態度があってないよ!

「姉御ぉー、これ真っ黒ヨ。なんかもう原型とどめてないアル」

「うふふ、料理は見た目じゃないわ、味よ」

 

にこり、と笑って言うけど、ちょっと、あれは…味も恐ろしいだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

そしてあたしのカップケーキも、神楽ちゃんのカップケーキも出来上がった。

「美味しそうアルー!!」

神楽ちゃんのは少しだけ焼きすぎたのかあたしのより色濃い。けど結構美味しそう!

そしてあたしのは、ちょっと形崩れてるけど…おいしい、はず!

み、見た目じゃない!味だもんね、味!

 

 

 

 

そしてカップケーキをビニール袋に入れる。

ちゃんはそれ、どうするの?」

「どうするって?」

「誰かにあげるのかしら?」

うーん、どうしようか。そういえばそこらへん考えてなかったなぁ。

 

「妙ちゃんと神楽ちゃんは?」

「私は定春と一緒に食べるヨ!」

「私は新ちゃんにあげるわ」

…頑張れ新八君。

 

 

 

 

 

 

 

ということで、神楽ちゃんは裏庭の定春のところへ。

妙ちゃんはどこから出てきたのか、近藤君を殴り倒して新八君を探しに行った。

 

 

さて、あたしはどうしようか。あげるとしてもなぁ。

沖田は形崩れてると何か言うから、やめとこう。

土方くんはマヨがないと、ね。

新八君は…妙ちゃんがいるか。っていうかむしろ負けそうなんだよね。

前に一緒にお弁当食べたとき新八君のものすっごく美味しそうだったし。

 

 

「うーん、やっぱり自分で食べるかぁ…」

「何を?」

「うわああっ!!」

 

いきなり後ろから声をかけられて思わず落としそうになったカップケーキをぎゅ、と持ち直す。

 

 

 

「ぎ、銀八先生…」

「そんなにびっくりされると俺の方がびっくりなんですけどー」

 

両手を上げてぼへーっとしながら言う先生は、おどろいてるようには見えない。

むしろあたしの方がびっくりだわ!

 

 

 

 

 

 

「ってゆーか、なに持ってんの?」

「え、ああ、さっき作ったカップケーキ…ですけど」

そう言った瞬間、ほんのわずかに先生の目がきらりと光った気がした。

 

 

 

「へぇー。そっか、カップケーキねぇ…。はそれ、誰かにあげるつもり?」

「うーん、あげる人がいないんで自分で食べようかと…」

ちょっと形崩れてるし。

 

 

 

「じゃあ、俺にちょうだい?」

にまっ、といつもの笑みを浮かべて言う。

…断る理由は、ないわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おいしいですかね」

「おお。見た目ほど悪くねーよ。むしろ普通に美味いよ」

「見た目ほどは余分です」

くそう、この人も形崩れてるのを突っ込むタイプだったか…!

 

 

もぐもぐとカップケーキを食べる先生。

…廊下の壁にもたれてもぐもぐと食べる先生。

 

「…立ち食いは教師としてどうなんですか」

「あーまぁいいんじゃね?誰も他に人いねーし」

 

 

偶然にも今、廊下にいるのはあたしと先生だけ。

だんだん暇になってきて、ちらりと横にいる先生を見る。

 

 

 

「………」

なんか、ほんとに美味しそうに食べてくれてるんですけど。

 

 

 

 

「ふー、美味かったー。お前意外と料理できるんだな」

「え、あ、はあ…」

ぺろりと口元を舐めながらにこりと微笑む。

 

 

「そ、そんなに、美味しかったですか」

「おう。ここんとこまともに糖分摂取してなかったしなー。ナイスタイミングだったぞ

 

にこりと笑う先生からはお世辞で言ってる、っていう雰囲気が感じられなかった。

…人に食べてもらって、美味しいって言われるの、こんなに嬉しいものだったっけ。

 

 

 

「…あ、あの、先生、ありがとうございました」

「ん?何が?」

「その…見た目、あんまりよくなかったのに、食べてくれて。それに美味しいって言ってくれて…」

くそう、なんか言ってるあたしの方が恥ずかしくなってきた。

 

 

 

「まぁ…確かに見た目からすりゃ危ない雰囲気は漂ってたけどな」

「…すいませんね見た目悪くて!」

 

 

 

 

「でも、味はマジで美味かった。俺の方こそありがとな」

ぽんぽん、と軽く頭を撫でられる。

「んじゃーもう一仕事頑張ってくるかなぁー…」

「…あはは、頑張ってくださいねー」

先生はひらひらと手を振って廊下を歩き出す。

 

 

少し進んでからぴたりと足を止めて、振り返って言う。

「ああ、そーだ。また差し入れ持ってきてくれても構わねーからな」

 

 

 

 

 

 

あたしはそのまま、廊下に呆然と立っていた。

カップケーキ、先生にあげてよかったかも、なんて思いながら。

 

 

 

遠くからはおそらく新八君であろう人の叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶器:食べるもの?



(また機会があったら、お菓子とか、作ってあげようかなぁ、なんて思ってしまった。)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

食べてくれる人に美味しいって言ってもらえると嬉しいよね!ってお話。

凶器じゃなくてよかったね先生。新八君はご愁傷様、ということで(おい

いつもよりは少しだけ糖度アップしたお話になってることを願います。

2007/12/11