「ほんっとドジですねィ」

「うるさいだまれ」

 

 

沖田の人を見下した感じの目よりも今痛いのは、膝。

その理由は、授業が終わった後。

 

 

 

 

 

『じゃまた明日ネ!』

『うん、ばいばーい!』

帰りの時間。そして荷物をまとめているうちにふと気付く。

…あれ、ケータイがない。

いやいや落としたわけないよ。ずっと鞄に入れてたし。

ぐるぐると鞄に手をつっこんだまま、頭だけはフル回転していたとき。

 

『何してんでィ

『あ、ああ沖田…あの、さ…あたしのケータイ……あああぁぁああああ!!!

ビシッ、と沖田の手の中のあたしのケータイを指差す。

『安心しろィ、まだ中見てやせんから』

『まだって何よまだって!!ちょっ、返せーー!』

 

そして廊下を走りまわっていたときに…ね。

まさか、自分の足に突っかかって転ぶとはね!

当然沖田は大爆笑。

その隙に丁度やってきた土方君によってあたしのケータイは救出されたんだけどね。

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

「あーもう、痛い!こすれた感じが…!」

「そりゃあんだけ勢いよくコケりゃなぁ…」

「ちょっと待って土方君見てたの!?」

座り込んだままがばっ、と顔を上げると土方君はフイ、と目をそらした。

 

 

…見とったんか…!!!

 

 

「自分の足に引っ掛るなんて…ぶふっ」

「元はといえばアンタのせいでしょうが!!」

痛む膝をさすりながらよろよろと立ち上がる。

「うぅ、保健室いってこよ…。沖田ァァ!!絶対いつか仕返ししてやるー!」

「楽しみにしてまさァ」

 

 

 

にまにま笑う沖田と心配そうにあたしを見る土方君を後に、あたしは保健室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…えーと、今、あたしがいるのは、保健室前。

だがしかし、こんなに怪我やらした人がいるのかってくらい、人だらけ。

しかも女子ばっかり。

「な、なにごと…?」

保健室って人気スポットなの?なんて考えてると後ろから聞きなれた声が聞こえた。

 

 

 

 

「あーれー?、何してんだ?」

「あ、銀八先生…」

少し保健室前から遠ざかって、さっきまでの事を先生に伝える。

…もちろん自分の足に突っかかったことは秘密にして、ただちょっと躓いた、って事にしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。なるほど。んで保健室か…」

「そうなんですけど…何なんですか、あれ」

「そーか。お前知らなかったのか。うーん、とりあえずこっち来い」

すぱすぱとスリッパの音を立てながら廊下を歩く。

 

 

 

「んーと、ちょっと前くらいから保健の先生が変わってな」

「そうなんですか」

知らなかった。保健室なんてめったにお世話にならないし。

 

 

 

「それが、なんか女子の好みのストライクゾーンだったらしくてな」

「…保健医、男なんですか」

それは色々と問題なんじゃないの、と思う。

ドラマとかじゃよくあるけど、実際そうだったら、行きにくい時だって出てくるし。

 

 

 

「まぁそんなわけで、保健室前はあんな感じだから、あんまり近寄らない方がいいんだよ」

「はぁ…そうですね…」

「っつーわけで、到着ー」

話しているうちに着いたのは、数学準備室。

 

 

 

 

 

「…先生、ここ、数学準備室…」

「おお。…だけど、保健室でもあるんだなー」

ふふん、と鼻歌でも歌いそうな雰囲気で先生は準備室の扉をノックしてから、戸をあけた。

 

 

 

「おーい、患者だぞ、高杉ー」

……高杉。

…ちょっとまって、まさか。

 

 

 

 

「あぁ?めんどくせ……って!?

「高杉さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え、なに。2人は知り合い?」

完全に度肝抜かれた、って顔をした銀八先生がそこらへんにあったイスに座って言う。

「知り合いっていうか…隣の家のお兄さんです」

「隣……ああああ!!あの時なんか見覚えあると思ったら…」

ぱし、とおでこに手を当てて唸る銀八先生。

あの時…?…あぁ、1回家まで原チャリで送ってもらったときか。

 

 

 

 

「にしても…また転んだのかお前」

「う…あははは、ごめんなさい」

喋りながらもテキパキと手当てをしてくれる高杉さん。…じゃなくて高杉先生。

 

 

 

「昔っからお前怪我すると家に来てたからな」

「だってー高杉さん手当て上手だもん。…タダだし」

「目的はそこかテメー」

ぼそり、と小声で言ったのに思いっきり聞こえていたようで。

じろりと睨まれるが、なんていうか…昔から知り合いなせいで最近はあんまり怖くなくなった。

 

 

「ったく…お前の所為で俺の家から絆創膏やら包帯やらが凄い勢いでなくなったんだぞ」

「近所の友達が怪我したときも連れてったしね」

 

 

友達は高杉さんの目つきに耐えられなくてよく泣いてたけど。

そりゃあたしだって最初はとんでもない人がお隣さんだな、って思ったけどね。

 

 

 

「まさかお前が通ってるのがここだったとは…」

「あたしだって、びっくりだよ。まさか学校でまで会うなんて」

びっくりだよねー、なんてほのぼのオーラを出してるのはあたしだけで、

先生は何か物凄くどす黒いオーラがでてる。…あ、やっぱ怖いかも。

でも何だかんだ言ってきっちり膝の手当てをしてくれる高杉さんはやっぱり怖い人に見えなくて。

 

 

 

 

 

 

「はーいはいはい。お前らが仲良しなのはわかったからー!」

思い出話をしていると銀八先生がイスをガッタガッタ揺らしながら言った。

っていうか…なんか不機嫌?

 

「くくっ、なんだ銀八。嫉妬か?」

「違いますぅー。お前といるとの身が危険だから俺が守ってやらねーとなーと思ってんですー」

そう言ってあたしの肩に腕をまわす銀八先生。

…あれ、なにこの展開。

 

 

「ハッ、誰がそんな色気の無ぇ女襲うか」

「ししし失礼な!!!」

「そーだそーだ。は十分可愛いぞー」

肩に回されていた手が今度は頭に移動して、ぐりぐりとなでられる。

高杉さんは、アホらしい、という感じの目でこっちをちらりと見てから道具を片付ける。

 

 

 

 

 

 

「ほら、帰るぞ」

「へ?」

高杉さんはあたしの分の鞄も持って準備室の戸をあける。

 

 

「どーせお前足痛くてしょうがねぇんだろ」

…よくわかっていらっしゃる。

 

 

 

「仕方ねーからバイクの後ろ乗せてってやる」

「え、いいの?」

「お前に任せるなんて心配だから、ここは俺が乗せってってやるー、って言いたいトコだが…

今日は今からテストの採点しねーといけないんだよなー…」

がっくりとうなだれながら言う銀八先生。

「ま、大分暗くなってきたし、今日は送ってもらえよ

「…じゃ、あ…よろしく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅ、と高杉さんの腰に腕を回して、学校から帰る。

、お前自分の足に突っかかって転んだだろ」

ふいに前から聞こえた声にびっくりする。

内容には、もっとびっくりだけど。

 

「な、ななななんで!?」

「くく…図星か。お前のことだからな。何も無いとこで転ぶか、自分の足に躓くかどっちかだろ」

「そんなことないよ!最近はそんなに転ばないし!」

楽しそうに笑う高杉さん。…あたしは楽しくない!むしろはずかしい!

 

 

 

 

「それより、高杉さんって銀八先生と知り合いなの?」

さっき妙に親しげに話してたからなぁ。

「…小学校からの腐れ縁だ。あとアイツ…坂本もな」

やっと学生終わって離れられたのに、とブツブツ言う高杉さん。

その割りに、さっきは楽しそうだったよなーなんて思ったり。

本当は仲良しなんじゃ……。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ」

もんもんと色々考えてるうちにバイクは家に到着していた。

そしてバイクからゆっくり降りて、お礼を言う。

「ありがとう、高杉さん!」

 

 

「…お前、一応学校では先生って呼べよ」

「はーい、わかりました高杉せんせー!じゃあ、おやすみ!」

そう言って手を振ってあたしは家に入った。

 

だから、高杉さんが、楽しそうに笑っていることに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生、保健室に行ってきます


(それにしても、高杉さんって結構モテるんだねー。…目つき悪いのになぁ。まぁ確かにかっこいいけどね!)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ということでずっと書きたかった保健医高杉さーん!

さりげなくお隣さんという美味しいところを持って行きました(ぁ

実はヒロインさんと同じ学校でちょっと嬉しかったりする高杉先生でした。

2007/11/10