今日は金曜日。普段なら学校へ向かうところだけど、今日は祝日。

丁度いい感じに三連休で、何しようかなーと思っていた少し遅い朝の10時。

 

家の電話が音を立てた。

お母さん…は買い物行ってたっけ。

 

 

仕方ないな、と思いながら受話器を取る。

「もしもしー?」

「もしもし、?俺おれ!」

「…うち、振り込めるほどのお金ないんで。寧ろ振り込んでくれると嬉しいんですけど」

違ェよ!銀八ですー!」

声聞けば分かるよ、なんて冗談交じりに返事をする。

 

、今から学校来い」

 

それだけ言って、銀八先生は慌しく電話を切った。

…え、あたしの休日プランはどうなるのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校へ来い、と言われたものの、学校のどこへ行くかまでわからなかったのでとりあえず3Zへ向かう。

教室に入ると、銀八先生と新八くんがいた。

 

「あ、ちゃん。おはよう」

「おはよー新八くん。って、どうしたのこんな休日に」

「いやお互い様だから!」

あ、そっか。

世間は休日でも新八くんのツッコミにはお休みがなさそうだな、なんて思ってると銀八先生が口を開いた。

 

 

 

「今日お前らに来てもらったのは、ちょっと頼みごとがあるからだ」

普段と違う、すこしだけシリアスな空気が漂う。

「な…なん、ですか?」

「実は…数学準備室の鍵失くしちまってよ。ちょっと探すの手伝え

 

 

「「ふざけんなこの天パがァァァ!!!」」

 

 

見事にハモったあたしと新八くんのツッコミ。

 

「今日何の日だと思ってんの!祝日だよ!日頃頑張ってる学生のための休みなんだよ!」

「いや、学生のための休みじゃないけど、折角の休日に何くだらない事で呼び出ししてるんですか!」

口々に叫ぶあたしと新八くんの発言を止めるかのように、先生も叫ぶように言う。

 

「仕方ねーだろ!暇してそうな奴はお前らしか心当たりなかったんだよ!重役出勤だ喜べコノヤロー」

「喜べるか!てか暇じゃないし!折角の三連休なんだから、色々予定が…」

…あ、予定考えてる途中だったけ。

いや、別に暇してたわけじゃないよ。うん。

 

 

 

「ともかく!多分この教室か、ここから数学準備室までの間で失くした…と思うから、探すの手伝え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あー、もう!なんで休日にこんなことしなきゃならないわけー!?」

「まぁ、さっさと見つけて終わらせようよ」

大雑把に教室を見渡すあたしと反対に、ちゃんと鍵を探してる新八くん。

文句を言いつつもちゃんと探す辺り、偉い人だなぁと思う。

 

 

 

「それにしても…この教室にはなさそうだよね」

「これだけ探して無いってことは、別の場所か…あーもう、なんでこうだらしないんだろう、あの先生」

そんなんだからいつも給料が不安定なんだ、と呟く新八くんはなんだかお母さんみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおーい、鍵見つかったかー?」

「「見つかってねーよ、どこでなくしたんだこの腐れ天パが」」

「なんで息ピッタリで毒舌になってんの君たち」

 

 

廊下をふらふらと歩きながら教室へきた先生にあたしと新八くんの文句がハモる。

「教室探したけどないですよ」

「おっかしーなー。今廊下見てきたんだけど、落ちてなかったんだよなァ」

頭をかきながら首をかしげる先生。

 

 

「誰かが持っていっちゃった、とかは?」

「いや、落としたとしたら昨日の夕方だから…ほとんど生徒はいなかったな」

「じゃあ、どこに…」

ぐるぐると校内の地図を頭に浮かべていたとき、廊下の向こうから聞きなれた声がした。

 

 

 

「あれ、おんしら何しちょるん?今日は休日じゃきー、学校来なくてもいい日らしいぜよ」

「うるせーんだよ、今テメーに構ってる暇はねぇんだよ」

笑いながら歩いてくる坂本先生に、銀八先生は背を向けたまま言った。

 

 

「っていうか、先生も今日は学校来なくてもいい日なんじゃ…?」

「あっはっは、すっかり祝日って忘れててのー。も忘れちょったんじゃないんか?」

「違いますよ!なんか銀八先生が数学準備室の鍵失くしたとかなんとかで…」

「僕ら、探すの手伝わされてるんですよ」

はぁ、とため息混じりにあたしと新八くんは説明をする。

 

 

 

 

「準備室の鍵なら、わしが持っちょるき。ほれ」

 

徐に坂本先生が上着のポケットから取り出したそれは、あたしたちが今まで探してた鍵だった。

 

 

「テメェ、なんでそれ持ってんだよ」

ずいっと前に出た銀八先生が顔を引きつらせて問う。

「ちゃんと昨日、おんしに言ったぜよ。鍵借りてくからのぅ、って」

「知らねーんですけど」

「あーあー、あんときおんし確か寝ちょったのう。だから…ほれ、メモ書いておんしの上着のポケットに…」

 

そう言って坂本先生が指差した銀八先生の白衣のポケットに、先生はすぐさま手を突っ込む。

がさっ、という音と共に出てきたのは、飴の包み紙と折りたたまれた便箋。

 

 

 

「…こんなもん気付くかァァァ!」

「「普通気付くだろうがァァァーー!!」」

「げふぅっ!!」

勢いよく突っ込みと同時にアッパーを繰り出すあたしと新八くん。

 

 

「普通最初に身の回りから調べるものでしょうが!」

「そーだよ!ポケットなんて最初に調べるところじゃん!」

あたしの貴重な休みを…まったくもう!

 

 

「あーもう!帰ろ、新八くん」

「そうだねちゃん。じゃ、先生方、さようなら!」

「おー。気をつけて帰りー、ー志村ー!」

 

手を振って見送る坂本先生と、廊下に突っ伏したままの銀八先生を置いて、あたしたちは学校を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。なんかどっと疲れたよ…そろそろお昼だし。お腹へったー…」

「お疲れ様ー」

そう言ってへにゃり、と笑う新八くん。

 

「…あの、さ、ちゃん」

「うん?なあに?」

新八くんが立ち止まって尋ねてきたから、あたしも歩くのを止めて向き合う。

 

 

「あの…も、もしよかったら、その、うちでお昼食べていかない?」

「え…こんな突然、いいの?」

「うん、どうせ作るの僕だから、全然気遣ったりしなくっていいから!」

わたわたと手を振りながら言う新八くん。

 

 

「じゃ、今から行ってごちそうになってもいい?」

「も…もちろん、歓迎するよ!あ、あの、姉上もいるだろうから、きっと喜ぶし!」

 

 

何故やら顔が赤くなってる新八くんに「ありがとう、楽しみだよ!」と言って、また歩き出す。

休日に学校行くハメにはなったけど、美味しいお昼ご飯が食べられそうだから…ま、結果オーライかな。

なんて思いながら、あたしたちは笑いながら家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重役出勤


(「うぅ…やっと誘えた…」「ん?なに?」「ななななんでもないよっ!あ、もうすぐ家着くよ、ちゃん!」)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

途中で誰夢かわからなくなったお話(ぁ

坂本先生が出したかったのと、久々に新八オチのお話が書きたくなってできた一話でした。

2009/02/13