「うぅ、怖いよー、怖いよー、帰りたいよー」
「帰りたいのは俺だ」
えーと、ただいま夜の11時。そしている場所は、学校。
何でこんなところにいるかというと、さっき沖田から電話がかかって来まして。
『もしもしー』
「何さー、もう10時すぎてんだよ。眠いんだよ」
『突然なんですけどねィ、この間トランプやっただろ』
「んー…あぁ、うん、それが?」
まだ記憶に新しいできごと。
この間の昼放課に、皆でトランプやったんだよね。結局最後はあたしが負けたやつ。
『それの罰ゲーム思いついたんで、今からやってくだせェ』
「……はい?」
『今から学校行って、体育倉庫の中においてある紙に書いてあるお題をやってくだせェ』
「あんた頭おかしいんじゃないの。今10時だよ。夜の10時過ぎ」
『やらなかったら…まぁ困るのはですからねィ』
それだけ言って、電話は切れた。
電話を切る前の声が、ものすごくサディスティックというか、怖かったわけで、こうして学校にいるんだけどね。
1人で行くのは怖かったからお隣に住んでるお兄さん、高杉さんに無理矢理…ごほん、快く着いてきてもらいました!
「た、たたた高杉さん!こ、怖くないんですか?」
「怖くねぇ。それより早く帰りてェ」
「うぅー…あの、手はなさないでくださいよ!」
「離すも何も、お前が一方的に握ってんだろうが!そんなことよりさっさと終わらせろ!」
「すいませんでした!!」
快く、じゃないです。
夜の学校っていう独特の雰囲気も怖いけれど、横で黒いオーラを出してる高杉さんも怖いです。
ざっざっと靴と砂のこすれる音が、妙に大きく響く。
そして目の前に聳え立つ体育倉庫は、昼間に見るよりも大きく見える。
「…さぁ高杉さん、扉開けてください!」
「だからなんで俺がやらなきゃならねぇんだ!」
「知らないんですか高杉さん!あかずの体育倉庫の話!」
「は?」
学校にはよくあるお話。
休日の夜中、普段は鍵のかかっていない体育倉庫の扉が、何をしても開かない。
その中では……
「うわあああ思い出したら怖くなってきた!!!」
「途中で止める方が嫌じゃねぇのかよ。煮え切らないだろ」
「つ、強いですね…。うぅ、続きは…」
体育倉庫の中では、この銀魂高校で休日の部活中に事故で死んでしまった生徒が、
休日の夜中に、サッカーの練習をしているらしい。
そして、その生徒に会ってしまうと、二度と倉庫からは出られない。
その生徒と一緒に練習をして、最後には、神隠しにあったかのように消えてしまう。
「っていう話があるんですようわああああああ!!」
「うるせェ黙れ!!」
耐え切れずに叫んだ声より大きい声で言われる。
「ただの話だろうが」
「で、でもっ…うぅ…」
ぎゅうう、と高杉さんの手を握る。
「(……こいつは…。……はぁ…しょうがねぇ、か)」
さっきまで一方的に握っていた手を、ぎゅっと握り返される。
「え、たかす」
「行くぞ。さっさと終わらせて帰る」
「あ、は、はい!」
あたしの手を掴んだままずんずんと進んで、体育倉庫の扉に手をかける。
あたしといえば、強く強く、目を閉じて高杉さんの手を握り返すことしかできなかった。
真っ暗な視界の中で、ガラガラッという扉の開く音が聞こえた。
「…え、あい、ちゃった」
「開くに決まってんだろ。授業できねぇじゃねーか。それよりさっさと行って来い」
くいっと顎で体育倉庫の中をさす高杉さん。
「…ええぇぇええ!?ちょ、嘘ですよね!?嫌ですよ、もしあたし1人入ったとたんに扉が閉まったりしたら…」
「あるわけねぇっつってんだろ…はぁ。あーもう、めんどくせぇな」
あたしの手を握って一歩ずつ、奥へ入っていく。
もはやあたしは引きずられている状態。
「っつーかその話、誰に聞いたんだよ」
「沖田」
「ぜってー作り話だ」
間髪いれずに言い切った高杉さんは、足を止めることなく奥へと入る。
「あ、もしかして、あれ…ですかね」
「だろうな。ほら、とってこい」
「う、うう…」
ぴたりと足を止めた高杉さんの手は握ったままで、床に落ちている紙をゆっくりと拾い上げる。
「えーと…『お疲れさまでさァ。そんでお題。怖かったかどうか、携帯で報告しろィ。P.S.この間の話は作り話ですぜィ』」
ゆっくりと離れていった高杉さんの手。
そのあいた手で、ポケットから携帯を取り出して、今までにない速さで沖田の携帯番号を呼び出す。
そして。
「怖かったにきまってんだろうがァァアア!!!お前今度会ったら覚悟しろよ!!」
それだけ言って、ブチッと電話を切る。
「…帰りましょうか、高杉さん」
「そーだな」
ぎゅ、ともう一度手を握りなおしてあたしたちは体育倉庫を後にした。
「あの、ありがとうございました。それから、つき合わせてごめんなさい」
「まったくだ」
「うう…あ、あの、もう1つお願いがあるんですけど」
さりげなくあたしに歩調を合わせてくれている高杉さんに、おずおずとそう切り出す。
「きょ…今日、泊めてください」
「…はァ!?」
「怖いんですよ!いくら作り話でも、怖いんです、今日1人で寝れません!」
ずーっと前を向いて歩いていた高杉さんが振り返って言う。
「あのなぁ…うちに余分な布団はねぇぞ」
「大丈夫です、高杉さんのがあります」
「あぁ?」
「一緒に寝ればオッケーですよ!」
ぐっと親指を立てて言うと、物凄くあきれた顔をされた。
「ばっ…バカかお前は!!よくねぇだろうが!」
「大丈夫ですって、明日お休みですし!」
「そういう問題じゃねぇッ!」
そしてあたしたちは、夜中なのにもかかわらず、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら帰りました。
「じゃ、おやすみなさーい」
「……はぁ……」
無理矢理押し切って、俺の家に乱入したは既に俺の布団に潜り込んでいる。
いくらなんでも、この警戒心の薄さはやばいんじゃねぇのかこいつ…。
しばらくすると、寝息が聞こえてきた。
…え、マジで明日まで居座る気でいるのかこいつ。ありえねーだろ普通。
今日は色々な疲れが溜まっていて、そういう気にならないからいいものの。
もし普通の日にこんな状況になったら、俺の理性は耐え切る自信がない。
「…いつまでも、『隣の家のお兄さん』でいてやれると思ってんじゃねぇぞ」
俺の横で無防備に眠るの額に、そっとキスを落として、ゆっくりと布団をかけなおす。
明日は…日曜日、か。
それならゆっくり寝かせてやろうか、なんて俺には似合わないことを考えながら目を閉じた。
あかずの体育倉庫
(もし俺が、この関係を崩してしまったら、お前はどうするんだろうな。俺から離れていくのか。それとも。)
あとがき
うちのサイトでは珍しい小説ですよ。で、でこちゅー…!(←恥ずかしくてたまらない
っていうか真ん中の倉庫話書いてるとき、テンション高い電波曲を聴きつつ書いてました。怖かった!
2008/3/20