「先生、次の授業サボっていいですか」

「いきなり何なんですかさーん」

廊下でばったりと出会った銀八先生に即行でそう告げると、

言うほど驚いた様子も無く、気の抜けた声で返事をされた。

 

 

 

 

「水曜日って、一週間で学校のある日の真ん中じゃないですか。疲れがたまってくる頃じゃないですか」

「うん。先生もだるいからね」

「先生はいつでもだるそうじゃないですか」

「何これイジメ?先生いじめられてるの?」

にっこりと笑いながらそう言うと、先生は死んだ魚みたいな目のままで早口に言う。

 

 

 

 

「冗談です。そんなことより、サボっていいですか」

「あのな、俺も一応教師だからそんな許可はだせねーんだよ」

 

…ちゃんと教師らしいことを言うじゃないか、と思ったけど、一応、という単語が入ってるあたり銀八先生だなぁと感じる。

 

 

 

「でもまぁ…サボりたいんだよな、先生も」

「じゃあ一緒にサボりますか。そうしたら連帯責任なのでお互い誰にも言っちゃいけない…秘密ですよ」

「…授業…どうせしねぇし、いっか」

 

こうして、秘密の授業エスケープが決定しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、サボリといえば屋上ですよね」

「ベタだなー。それだと見回りしてるかもしれねぇ教頭に見つかるだろ」

「じゃあ…裏庭?それとも体育館裏?」

 

 

サボリ場所、と言って思いつくのはそのくらいしかなかった。

い、一応普段はちゃんと授業でてるんだからね!

沖田とかは結構サボってるけど。どこでサボってるのか聞いておけばよかったかなぁ。

 

 

 

 

「ばーか、折角俺がいるんだから、そこんとこ有効活用しなきゃだめだろ」

「活用…ですか」

 

教科書とジャンプを片手に持ち、あいた片手で白衣のポケットを探る。

「ん、よし、あった。んじゃー行くぞー」

どこへですか、と聞く前にずんずんと進んでいく先生の後を小走りになりながら追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国語準備室?」

「そうそう」

がちゃがちゃと鍵を開けている先生。

その扉の上にあるプレートには国語準備室、と書かれている。

 

 

 

「国語って何準備するものがあるんですか」

「…さぁ?」

「使ってるんじゃないんですか!?国語教師なのに!」

「そんなめんどくさいこと俺がすると思うのか!」

がちゃり、と鍵の開く音がした。

 

 

「思いません」

「そんなにあっさり言われるとそれはそれで寂しいんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて入る国語準備室は、すこしだけほこりっぽい感じがするけれど、

意外と片付いていてあっさりした部屋だった。

 

 

「もっと物散らばってるかと思ってたのに、案外綺麗ですね」

は先生のことどういう風に思ってんの!?」

「………。…とりあえず窓でも開けましょうか!

「話をそらすな、話を」

だって、言ったら国語の評定が下がるような気がしたんだもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッと窓を開けると、そこからはグランドが見えた。

「ここ…眺めいいんですね」

「そーだろ。最近見つけた穴場なんだぜー」

凄いだろう、とでも言いたげにしている先生に「そうですね」と気のない返事をして外を見る。

 

 

 

今日も空は青空で、いい感じに眠気をさそってくる。

「最近は雨降りませんね」

「先生の心はちゃんのせいでどしゃ降りだよ」

いつの間にかイスに座ってジャンプをひろげていた先生がぼそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…それ!」

「ん?」

くるりと窓に背を向けて、先生と向かい合わせになる。

 

 

 

「先生ってさ、あたしのこと名字で呼んだり名前で呼んだりしてますよね。あれなんでなんですか?」

「ん?あぁー…そりゃ、お前が困るだろうから」

「あたしが?」

イスにもたれていた背を起こして、ジャンプを近くの棚に乗せて先生はあたしを見る。

 

 

「俺は教師。は生徒。…妙な関係があると思われると、お前が困るだろ?」

「それ困るの先生じゃないんですか」

「まぁ、クビにされたら困るけど、生徒に噂されるくらいはどーってこたァねーよ」

先生は、あいつら騙すくらいそう難しくねぇしなー、と言って笑う。

 

 

 

 

「困りませんよ、あたしも」

「…は?」

「噂くらい困りませんよ。それより影の先生ファンの女の子達に敵視される方が怖いですねー」

あたしも笑ってそういう。

 

 

 

 

「…まーじでー、先生にファンとかいるの?」

「らしいですよ。他にもっといい先生いるのに不思議ですよねぇ!」

は俺が嫌いなの?好きなの?どっちなの」

 

 

くるりともう一度窓の外を見る。

相変わらず、清々しいほどの青空が広がっている。

 

 

 

 

「先生としては好きですよ。なんか気楽ですしね!服部先生とか怒ると怖いんですよ!」

「それは俺に威厳がないってことかコノヤロー」

あたしは窓の外を向いたままで話し続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「…先生としては、ってことは」

すぱすぱっと気の抜けた音が近づく。

「他の好きに変わる余地はあるってことかなちゃん」

その音はあたしのすぐ後ろで止まる。

 

 

 

「さぁ、どうでしょうねー。先生次第じゃないですか?」

外を見たまま、返事をする。

 

に少しでもその気があるんなら、先生頑張っちゃうよ」

「…あたしには、まだそういう好きってよくわからないです」

くるりと向きを変えて、意外と近くに立っている先生と再び向き合う。

 

 

 

 

「だけど、もし、答えが見つかったら。その時は教えてあげます」

「…楽しみにしてるからな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなーんか、禁断の恋って感じだなァこの会話」

「ほんとですね。何でこんな話になったんだっけ…あ、あたしの所為か」

名前と名字がー、って話からこうなったんだっけ。

 

 

「でも先生がそこまで考えて呼び方使い分けてるとは思ってなかったなぁ…」

「先生だってそのくらいできますぅー。むしろ褒め称えろ!」

「すごいすごーい」

「すげぇ棒読みだなオイ」

 

 

 

 

 

授業が終わるまで、あと20分ほど。

次の授業は…あぁ、服部先生の授業じゃん。

なんて思いながら、涼しい風が入り込む国語準備室でサボリ時間を満喫していよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生、サボっていいですか


(「バレたら先生に連れ込まれたって言っておきますね」「え、最初と言ってたこと違くね?」)


 

 

 

 

 

 

あとがき

進展しているようでしていない、終わりの見えない小説で申し訳ないです。

いつにも増してまとまってなくてほんっとすいません…!!

それから、授業はサボっちゃいけません。特に先生(ぁ

2008/04/17