キーンコーンカーンコーン、と4時間目の授業の終わりを告げるチャイムが響いた。
「あー、終わった終わったー」
ぐいーっとイスに座ったまま伸びをして、斜め後ろの方に座るお妙ちゃんの方を向いて言う。
「お妙ちゃん、九ちゃん、お昼食べよーっ!神楽ちゃんも…ってあれ?神楽ちゃんは?」
「神楽ちゃんならチャイムが鳴ると同時に購買へ走っていったわよ」
「早っ!チャイムなったのさっきじゃん!」
神楽ちゃんの席のほうを見ると、そこはもぬけの殻。
なんて速さ。
「ところで今日はどこでお昼ご飯食べるんだ?」
とんとん、と教科書を整えて机にしまいながら九ちゃんが尋ねた。
「そーだなぁ。昨日は中庭だったから…今日は屋上行く?」
がさがさ、とあたしは鞄を漁りながら言う。
「そうね。今日はいい天気だから、丁度いいわね」
「じゃあ決定っ!神楽ちゃんが来たら…」
移動しようか、といいかけたところで、ばんっと教室の扉が開いた。
「ただいまアルー!」
そう言って扉をあけた神楽ちゃんの両手には、零れんばかりのパンや弁当があった。
いつも思うけど、すごい量だなぁ…。
「君は本当によく食べるな…」
「これじゃ足りないくらいヨ。お前ももっと食べるヨロシ」
「うん、では僕も…」
「普通でいいのよ九ちゃん」
にっこりと笑いながらお妙ちゃんがつっこむ。
だがしかし。あたしはそれどころじゃない。
「、どうした?」
「きゅ…九ちゃん、やばい、お弁当忘れた!」
がさがさと探っていた鞄に、お弁当箱の感触がない。
「ごめんっ、あたし購買行ってくるから、先に屋上行っててくれる?」
「それはいいけど、ちゃん、財布はあるの?」
「うん、奇跡的に財布は入ってた!」
がしっと財布を握り締めて席を立ち、廊下へ出ようとしたときに神楽ちゃんが叫んだ。
「ー!さっきお弁当は売り切れてたから、早くいかないとパンもなくなるネ!」
「マジでかぁぁぁ!!!」
っていうか売り切れそうなの神楽ちゃんの所為じゃね?とかは、廊下を走り出すと同時に頭からふっとんだ。
ばたばたと廊下を走る。
頭の中で、何を買うかを考えながら。
「オイ、焼きそばパンは俺のモンですぜィ」
「はぁ?何言って…って何してんのあんたぁぁぁ!!」
ばたばたと廊下を走るあたしの横を走っているのは、さっきまで教室で寝ていたはずの沖田。
「しょーがねぇだろ、弁当忘れたんでィ」
「お前もかちくしょぉぉー!!」
ただでさえ、売れ行きがいいとの今日の購買。
…敵が増えた。
「ちょ、あんた男ならレディーファーストでもしなよ!何抜かそうとしてんの!!」
「飯がかかってんのにレディーファーストなんかあるわけねェだろ」
妙なところで男女の差を感じさせられる。
涼しい顔して、普通にあたしを抜かして走っていく。
「ってかさっきまで寝てたじゃん!」
「おめーの声で起こされたんでさァ」
「普段みんなが騒いでても起きないのに!」
つーか最初から起きてたんじゃないか、と思うくらいのタイミングの良さだ。
購買まであと少し。
既に階段を降りた沖田を追い、たんたんっと勢いよく階段を降りていた、が。
「っ、わっ!」
ずる、と足が滑った。
あと半分くらい、降りるはずだった階段は残っている。
全身の血の気が引いて、反射的に目を瞑った。
「ぎゃあああ!!」
「っ、!」
ガツンッ…という頭をぶつけるような音ではなく、どさっ、という倒れるような音がした。
「…え…え、うそ、なんで」
「…さっさとどけィ。重てェ」
「なんですって!?……じゃなくて、なんで…戻ってきた、の?」
床にぶつかるはずだった、あたしの体は、何故か沖田の上に乗っていた。
先に、購買まで行ってると思ってたのに。
「後で教室戻るときにここ通らなきゃならねーだろうが。その時におめーが倒れてたら邪魔で仕方ねぇだろィ」
「あーそう、そうだよね、沖田はそういう奴だよね!」
って、何を期待したんだ自分。
「おい、早くどけィ。潰れるだろーが」
「そこまで重くないっつってんでしょうが!!女の子としてそれはさすがに傷つくよ!」
とはいえ、あんまり上に乗っているのも悪いので、すばやく沖田の上からどいて立ち上がる。
偶然にも回りに人はいない。
「…ある意味見られてたら大変だったよなぁ、今の体勢…」
「ほんとですぜィ。まさかに襲われる日がくるとは思ってやせんでしたぜー!」
「ってうおおーい!何大声で叫んでんの!!誤解!誤解!!」
ってかさっきの声に出してたのかあたし!
「ったく、時間かかっちまったぜィ。さっさと昼飯買いに行くぞ」
「あ、ああ、うん」
そう言って沖田は歩き出す。
一歩遅れて、あたしは小走りで沖田を追いかける。
「あの…ありがとうね。ま、その、お礼に飲み物くらい奢ってあげるよ」
「マジですかィ。まさか全額奢ってくれるたァ、も意外といい奴ですねィ」
「飲み物だけだっつってんだろ」
廊下を走る
(「ちょ、そのジャムパンあたしの!!」「さっきのお礼に譲りなせェ」「それとこれとは話が別だ!」)
あとがき
最初は階段から落ちるハプニングは無かったんですけど、それだと「夢小説?」みたいな
感じになると思って急遽追加。無意識にヒロインを助ける沖田さんでした。
2008/06/01