「うあー、もう夕方通り越して夜じゃん…」

薄暗くなった廊下を、Z組に向かって1人歩く。

 

なんで、こんな時間まで学校にいるかというと…。

 

 

 

「…え、なんであたしが雑用やらなきゃいけないんですか」

、この間沖田と廊下ダッシュしてただろ。土曜日の雪合戦に向けての予行練習ですかこのやろー」

「いや、雪合戦走らないじゃないですか。…って違う!」

「走ってただろ」

「………はい」

「うん、だから罰ね。今日の授業後に職員室まで来てね」

 

 

 

 

そんなわけで、こんな遅くまで学校にいるのです。

静まり返った教室は、やけに広く感じる。

 

「…帰ろう。うん、すぐ帰ろう!さっさと帰ろう!!」

1人でそう叫びながら、がさがさと鞄をあさると、携帯電話にメールがきていた。

 

「ん?お母さんか…えーと『今日仕事遅くなるから、夕飯適当に作って食べててね!あ、お母さんは外食するから!』…」

 

おかあさああぁぁあん!!!

絶対コレ1人で外食楽しんでくる気じゃん!夕飯作るのめんどくさかっただけだろ!!

「くっ…ま、いっか。どうせ帰るの遅くなっちゃったし」

 

 

そもそも、あたしと一緒に罰を受けるはずだった沖田はいつのまにか逃走したらしい。

絶対明日復讐してやる…!!

 

心の中でそう叫んだとき。廊下から、足音が、聞こえた。

 

え。ないって。何この状況。

足音は確実にここへ近づいて、そして、教室の戸がカラリ、と音を立ててゆっくり開く。

 

 

「ぎっ、ぎゃあああああ!!!」

「うわあああ!」

 

鞄をぎゅううっと抱きしめて叫ぶと、扉の方からも叫び声が聞こえた。

って、あれ、この声…。

 

 

「さ…退…くん…!?」

、ちゃん?」

教室の扉にもたれて、心臓をおさえる退くん。

 

 

 

「え、ど、どうしたの、こんな時間に」

「いや…ちょっと忘れ物取りに来たんだよ。あー、びっくりしたー…」

そう言って退くんは教室の電気をつけて、机の中をあさっていた。

 

すぐ帰るつもりでいたから、教室の電気は消してたんだっけ。

そこにあたしがいたんじゃあ…そりゃびっくりするよね。

 

 

 

「ごめんね、その、びっくりさせちゃって」

「え?ううん、俺こそごめんね。誰かいるとは思ってなかったから」

申し訳なさそうに、もう一度ごめんね、という退くん。

 

 

 

「…ね、退くん、途中まで一緒に帰ろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鞄を肩から下げて、真っ暗な廊下を2人で歩く。

時々風のせいで窓がガタガタと音を立てて揺れる。

 

「怖い?ちゃん」

「こっ、怖くないよ!怖くない!ちょ、ちょっと夜の学校は慣れてないだけ!」

「声裏返ってるよ」

「うぐっ!」

 

 

笑いを押し殺す退くんの一歩後ろを歩くあたしの顔は、きっと真っ赤なんだろう。

電気がついていなくて、よかった。

 

 

「…手、貸して」

退くんは小さな声でそういった。

「え?」

「あの、大丈夫、だから。ちゃんは、俺が、その、守る、から」

 

小さなその声は、廊下を歩くあたしたちの足音にかき消されてしまうほどだったけど、あたしにはちゃんと聞こえた。

 

 

「ありがとう」

そう言ってあたしは、退君の左手をぎゅっと握った。

結構大きい手してるんだ、やっぱり男の子なんだなー、なんて思うほどあたしの頭は落ち着いていた。

 

 

「…電気ついてなくてよかった…」

「ん?何か言った?退くん」

「ななななんでもないよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんか…夜中の学校って外観の方が怖い、かも…」

「…この微妙なライトアップがいけないんじゃないかな」

省エネなのか、ところどころの明かりしか灯っていない。

自転車置き場の明かりは、1つも灯っていなかった。

 

 

 

ちゃん、家まで送っていこうか?」

「マジでか。それは嬉しい…けど、今日はちょっと寄らなきゃいけない所があるから遠慮しておくよ」

「え、こんな時間に?」

「うーんと、その…商店街で夕飯のお買い物を…」

 

うろ覚えだけど、確か昨日の夕飯あたりで食材は尽きていた気がする。

このまま帰っても、また買出しに外へでなきゃいけないだろうなぁ。

 

 

 

「じゃ、そういうことで、ごめんね」

でも嬉しかったよ、と言おうとしたとき、退くんはあたしの言葉をさえぎって言った。

 

 

「でもやっぱり、暗い中で女の子1人にするわけには、いかない、から…その、買い物付き合う、よ」

「え…さがるくん…」

途切れ途切れにゆっくりとそう言う退くんの目は真剣で、少し、かっこよかった。

 

 

 

 

「…じゃ、お願いしてもいいかな?」

「!も、もちろんっ!!」

打って変わって退くんは、ぱあっと明るい表情で笑う。

つられてあたしまで、笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、あたしたちは夜の商店街制服デートに行く事になりました。

夜の商店街はネオンも綺麗で、夕飯の買い物どころか色んなお店まで回ってしまった。

 

 

 

 

退くんに長い時間つき合わせちゃってごめんね。と言うと、俺も楽しかったから気にしないでいいよ。

という返事が返ってきた。

 

ありがとう、と優しく微笑む退くんに言って、あたしたちはまた自転車を漕ぎ始めた。

 

 

 

 

 

「ね、退くん、付き合ってくれたお礼に家で夕飯食べていかない?」

「えぇっ、いいの!?」

「うん、もちろんっ!」

 

 

 

 

 

 

制服デート


(もう少し、制服デートを続けませんか?そんなことを思っているのはあたしだけ?それとも、あなたも?)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

お題に沿ってる部分がカットされてるって何事だ、って感じですね!すいません!

久々に夜背景にしたかったんです。それと、ちょっと頑張る退が書きたかったんです。甘くなってればいいなぁ。

2008/07/27 *サイト一周年記念更新2