季節は春になりかけているにもかかわらず、今日は寒い日だった。

雪でも降りそうだねー、なんて話していたら、なんと本当に雪が降りはじめた。

 

 

「ってわけでー、3年Z組雪合戦大会を始めまーっす…って寒ッ!」

両腕をさすりながら銀八先生はそう号令をかける。

 

 

「…授業は?」

そう尋ねた新八くんの問いに対する全員の答えは「雪合戦のため、中止」だった。

 

 

 

 

 

 

 

雪合戦、とはいえ午後の授業時間でやることになったため、短時間で決着をつけることになった。

ルールは簡単。3Zの雪合戦参加メンバーを2グループに分けて、各グループの代表を決める。

その代表を、戦闘不能にした方のチームが優勝。

 

ちなみに、優勝商品は、食堂全メニュータダ券1週間分。

 

 

「怪我人だけは出すなよー。俺が高杉に怒られっから」

「怪我人ってどんだけサバイバルな雪合戦なんですか!」

「あー寒ッ!お前はツッコミやってりゃ暖かそうでいいなちくしょー」

「会話になってない!!」

そんな会話…っていうか一方的話し合いをしている新八くんはあたしと同じチーム。

 

あたしと、新八くんと、土方くん、神楽ちゃん、妙ちゃんが同じチーム。

敵側は、沖田と退くん、近藤くんに桂くん、そして何故か定春。

 

 

「んじゃ、時間も無ぇことだし、さっさとはじめるぞー!」

気の抜けた声で雪合戦が始まる。

ちなみに、代表はあたし。敵側は沖田。

 

 

「先手必勝ですぜ!」

開始直後から、沖田が思いっきり雪球を投げる。

「はっ、当たるかよ!」

それをしゃがんで交わす土方くん。

飛んだ雪球は、土方くんの後ろにあった木に当たって、ガツーンという音を立てた。

 

 

「…オイ、てめーさっき怪我人は出さねーようにって言ってたの聞いてなかったのか」

「怪我人なんて出さねーや。出るのは死人だけですぜ」

「尚悪いわァァァ!」

 

 

 

、私定春と戦うなんて無理アル!」

「そもそも定春は雪球作れないよね」

話しながら、あたしと新八くんと神楽ちゃんで雪球を作る。

 

積みあがった雪球は、土方くんや妙ちゃんの武器へと消えていく。

ある程度出来上がったところで一息ついたとき。

ふ、と真上に影がかかった。

 

 

「え?」

上を見上げると、さっきまで座り込んでいた定春が、思いっきり飛びかかろうとしていた。

 

「ぎゃ、ぎゃあああ潰れるーー!!」

ちゃん、こっち!」

ぐいっと新八くんに手を引かれて、定春の影から抜け出す。

 

思いっきり雪球の上に飛び掛った定春。

…まさか、妨害役…!?

 

 

「こらっ!定春!せっかく作った雪球潰しちゃ駄目でしょーがァァ!」

しゅばっ、と勢いよく定春に飛び掛る神楽ちゃん。

走って逃げる定春。

 

 

 

「…定春のことは、神楽ちゃんに任せようか」

「だね」

 

 

 

新八くんには、桂くんの相手を、妙ちゃんには近藤くんの相手を任せた。

 

「…ってわけで、食堂タダ券のために…負けないよ、退くん」

「俺も、ちゃん相手だからって手加減はしないよ。タダ券のために」

後ろの方で、「どんだけ食堂にこだわってんのォォォ」というツッコミの声が聞こえた。

 

 

 

新八くんの作ってくれた雪球を勢いよく投げる。

それを退くんはミントンラケットで綺麗に打ち返す。

そんな攻防戦が延々と続いていた。

 

「…や、やるね、退くん…」

ちゃんも、結構威力ある球投げてくるね…」

少しかじかんできた手に息を吹きかけて、あたしはまた雪球を手に取る。

 

 

「これでっ、終わりにしてあげ……いったーー!!」

雪球を投げようと振りかぶった瞬間、べしゃり、と背中に雪球が当たった。

 

「なっ、なっ、なに!?」

「へっ、背中がガラ空きですぜィ

ぎゅうぎゅうと雪球を固めながら沖田がニヤニヤと笑みを浮かべて言う。

 

 

沖田は土方くんが相手してたはずなのに、とさっき沖田たちがいた方を見る。

そこには、目を押さえてうずくまる土方くんがいた。

 

「おま、何してんのォォォ!?」

「別に目ェ潰れてるわけじゃないですぜ。ただ直撃しただけでさァ」

「冷たい!それ絶対眼球冷たい!!」

 

 

楽しそうに言う沖田に悪寒を感じつつ、あたしは少し距離をとる。

ちゃん、悪いけどタダ券は俺らの…」

そう背後で退くんの声がした、と思ったとたん。

 

 

「そうはさせないわよ、っ!」

沖田の後ろ、あたしの前から妙ちゃんが雪球の剛速球を退くんに向かって投げた。

たかが雪球なはずが、それはあたしの頬を掠めて耳元にビュッという風の音を残して退くんにクリーンヒットした。

 

 

「ぐふぁぁ!!!」

雪球が当たったとは思えない、ドシャッという音と共に、退くんが倒れる。

「た…妙ちゃん…」

「うふふ、タダ券のためにも絶対勝つわよ、ちゃん」

「…はい」

 

 

 

 

 

「後には引けません、だから負けないわよ沖田ァァァ!」

寧ろ日頃の恨みを晴らしてやる!

そんな意気を込めてぎゅうぎゅうと雪球を握る。

 

「ハッ、上等でさァ。が俺に勝とうなんて100年早ェや」

ぎゅ、と沖田も雪球を丸める。

おそらく、この一発で勝負が決まる。

 

 

「いくわよっ…」

お互い、雪球を持って振りかぶる。

そして投げる瞬間、再び空に影がかかった。

 

 

「…え、うそォォ!?」

定春再び。今度は勢いよくジャンプしたようで。

飛び上がった定春の着地点は、あたしと沖田のいる場所。

 

 

どうしよう、と思って定春を見上げていたとき、どんっと横から誰かに押されて、影の下から飛び出る。

「っ、え!?」

あたしが影の下から退いた瞬間に、ドーンと雪柱を上げて、定春が地面に着地した。

 

 

あのとき、あたしの側にいたのは。

「お、沖田ッ!?大丈夫!?」

定春の下敷きになっているであろう沖田にそう呼びかけると、もぞもぞと何かが動いた。

 

 

「ぶはっ」

定春の下から顔だけを出して沖田は頭に乗った雪を振り払った。

「な、にしてんの…」

「別にを助けようとしたわけじゃねーや。…ちょっと逃げ遅れただけでさァ」

つん、とそっぽを向いて言う沖田。

 

 

 

「…沖田……とりあえず戦闘不能ってことで、優勝はあたしだね!!」

「おめー、なかなか図太い女ですねィ…」

 

 

銀八先生に優勝したよー、と手を振って叫んでから、沖田の手を引きずり出して、

沖田の体も定春の下から引っ張り出した。

冷え切った手をそっと握って、言う。

 

 

「庇ってくれてありがとう。でも、タダ券は譲らないから」

「……ほんと、図太い女ですねィは」

普段なら怒るはずの言葉が、何故か、今日はえらく優しい声音に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雪合戦の勝者





(タダ券はもちろん、同じチームのメンバー全員に配られました。1週間は贅沢できそう!)


 

 

 

 

 

 

あとがき

雪合戦、とかの行事モノを一話にまとめるのは難しいです…!

誰オチなのかよくわからないドタバタ話。多分新八とヅラは世間話でもしてたと思いますよ、雪球作りながら。

2009/05/03