窓から差し込む日差しが、オレンジ色に変わりかけた頃。

あたしは出されている宿題そっちのけで、ベッドにうつ伏せに寝転んで漫画を読んでいた。

 

ぺら、とページを捲ったところで側に置いてあった携帯が鳴った。

多分メールだろう、と思って放っておいたけれど、音は止まらない。

 

 

「誰よ…こんな時間に電話…って神楽ちゃんじゃん」

 

ディスプレイに表示された名前を見て、すぐに受話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

 

「もしもし、神楽ちゃん?どうしたの?」

ー!今家にいるアルか?』

「え、いるけど…」

 

どうしたんだろう、と思いながら体を起こしてベッドに座る。

 

『今から川原で花火するのヨ!も一緒に来ないアルか?』

「花火!行きたい!」

『じゃあすぐ出てくるヨロシ!』

「…出てくる?」

 

 

もしや、と思って窓から外を見る。

そこには定春に乗った神楽ちゃんがいて、携帯を片手に、こっちに向かって手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

即席で服を着合わせて、定春に乗って川原へ。

途中すれ違う人たちに「何あれ!?」みたいな目で見られながら。

 

 

「到着アル!」

「あ、やっと来た。神楽ちゃーん、ちゃーん!」

ぱたぱたと手を振るのは新八くんと妙ちゃん。

新八くんの手には、点火前の花火が一本握られている。

 

 

「てめっ、こら新八ィィ!一番最初は私がやるって言ったネ!!!」

言うと同時に定春から飛び降り、その勢いで新八くんにタックルをかます神楽ちゃん。

「ゴハァッ!!ちょ、ま、まだ点火してないでしょ!待ってたでしょうが!」

 

 

よろめきながら言う新八くんと、くすくすと笑う妙ちゃんの側へあたしも移動する。

「うわー、どうしたのこの花火」

川原に散らばった花火セットは5セットくらいある。

 

 

「近…ゴリラさんが貢いでくれたのよ」

「いや今の言いなおさなくていいところですからね姉上」

ツッコミをいれながら、新八くんは手にしたマッチで神楽ちゃんの持つ花火4本に火をつける。

 

 

「ふぉぉぉー!!やっぱり一本じゃ駄目ネ!これだけあると迫力満点ヨ!」

シュウウウと勢いよく燃える花火をくるくる回転させる。

「神楽ちゃぁぁん!持つのはいいけど、こっち向けないでよ!」

「え、どっちアルか」

「どっちって、こっちィィィ!おま、わざとか!わざと僕を狙ってんのかァァァ!!!」

 

 

降りかかるというか、飛んでくる火の粉を避けながら新八くんは叫ぶ。

「そういう時は、新八くんも応戦しちゃえば?」

「へ?」

ぽかん、とする新八くんにあたしは花火を差し出す。

 

 

「ええー!は新八の味方アルか!?」

「いや別に、そうでも…」

ないよ、と言いかけた時。

 

 

「そーだよ。ちゃんは僕の…僕のパートナーだから、神楽ちゃんには渡さないからね」

言いながら空いた手でもう1本花火を持ち、両手に構える。

そして新八くんより少し後ろにいるあたしの方を振り返って言った。

 

 

「ね、今日だけは、僕の、その…相方みたいな感じで、いてくれる?」

 

 

「……うん!いいよ」

ほんのり夕日の所為じゃなく、赤くそまった新八くんの顔を見ながら笑って返す。

 

「ずるいネ!むぅぅー…こうなったらお前を倒して私がのパートナーになるアル!」

ビシィッと新八くんを指差して宣戦布告をする神楽ちゃん。

 

 

「いや倒すって、何この展開」

そもそも、花火は人に向けちゃいけません。

なんてツッコミがくると思っていたのに。

 

 

「手加減しないからね、神楽ちゃん」

「望むところアル新八ィィ!」

 

バチバチと火花が散る。

いや、本当に散ってる。

 

 

「た、妙ちゃん!これ危ないって!怪我人が出るって!」

「ふふ、新ちゃんも少しは男らしくなったかしらね」

「何の話ィィィ!?」

 

予想外の展開にうろたえるあたしを置いて、妙ちゃんは川原に散らばっている花火を拾い集める。

 

 

「さて、ちゃんが新ちゃんの味方なら、私は神楽ちゃんの味方につこうかしらね」

「うわーい!姉御がいれば百人力ヨ!ー!待っててネ!すぐその駄目鏡から解放してあげるヨ!」

 

「駄眼鏡言うなァァ!だからっ、ちゃんは僕のですって、ば…」

そこまで言って、新八くんの顔はぼっと赤く染まる。

ついでに言えば、あたしまで、赤くなりそうになっている。

 

 

「あ、いや、違うから、その、僕のパートナー的な意味だからっ」

わたわたと慌てる。

両手に持った花火がふらふら揺れて、火花が地面へ落ちる。

 

 

「別に、いいよ。新八くんのってことで」

「っ、えぇぇえ?!」

盛大にひっくり返った声で新八くんは叫ぶ。

 

 

「今日だけなんでしょ?」

「…うん、そう、そう!今日だけ、今日だけね!」

あはは、と乾いた笑いをこぼす新八くん。

 

いつの間にか消えてしまっていた花火を見て、あたしは辺りを見まわす。

そして、花火セットと一緒に置かれていた水鉄砲に川の水を入れる。

 

 

「たとえ今日だけでも」

水をいれた水鉄砲を、新八くんに差し出す。

 

 

「あたしは新八くんのものなわけだから、ちゃんと守ってよね!」

ちゃん…」

 

ぽつりと呟いて、あたしの差し出した水鉄砲を握る。

「もちろんっ!絶対渡さないからね!」

「駄目鏡が調子のってんじゃないアル!返り討ちにしてやるネ!!」

 

 

花火を構える神楽ちゃん、それに対抗するように水鉄砲を構える新八くん。

あたしは新八くんの背をみながら、笑って「頑張れ」と叫んだ。

すると新八くんは少しだけこっちを振り返って小さな声で言った。

 

 

「ね、ちゃん。僕が勝ったら、明日…一緒に、学校の帰り、甘味屋行ってくれる?」

 

「……勝ったら、ね!」

笑ってそう返すと、新八くんは「約束だからね」と優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

明日を待つ


(「ぬおおおっ明日は私がのパートナーネ!」「させるかァァ!(やっと一緒に帰るきっかけができたんだから!)」)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

久々の新八オチ。かと思いきや結構神楽も出張ってますね。

純情でむずむずくるお話になっていれば幸いでございます。

2009/06/14