月曜日。

休みの気分が抜けなくて、なんだか気が緩む月曜日。

がらっとZ組の教室の戸を開けて、中に入る。

「おはようアル!」

「おはよう、ちゃん」

「おはよー神楽ちゃん、妙ちゃん」

 

 

教室の時計は、まだ始業の15分前を指していた。

机に荷物をおいて、妙ちゃんの席に集まる。

 

 

「あれ、今日髪下ろしてるの?」

いつもポニーテールでまとめられている妙ちゃんの髪は、今日は結ばれてない。

「学校へ来る途中にゴリラが出てね。ちょっと退治してるときに引っかかっちゃって」

「ゴリラ…ですか…」

 

約一名、顔が思い浮かんだ彼の席は、未だ空席になっている。

…学校、間に合うといいね、近藤くん。

 

 

 

「それで…結びなおそうと思ったんだけど、鏡忘れちゃったのよ。ちゃん、持ってるかしら?」

「あ、持ってるよ!ちょっと待ってて」

自分の席に戻って、カバンを漁る。

 

 

「えーと、確かここらへんに…あ、あった!」

ひょい、と鞄から二つ折りの手鏡を取り出す。

ぱかりとふたを開けてみる。

 

 

 

「…うっわ」

そこで見えたのは、ぴしり、と入ったヒビ。

「まさか割れてるとは…」

そう言えば朝、急いでて鞄いろんなところにぶつけたっけ…。

 

 

どうしたものか、と思っていると教室の戸が開く音がした。

そして足音は近付き、あたしの後ろで立ち止まる。

 

「朝から何不吉なもの持ってんでィ、

「別に持ちたくて持ってるわけじゃありまっせーん!」

鞄をどさっと机に置いて、沖田はあたしの持つ鏡を奪う。

 

 

「ちょ、ちょっと!」

「見事に割れてやすねィ。こういうのはあんまり見ないほうがいいですぜ」

 

確かに、割れた鏡は見ないほうがいいと言われている。

「家に帰って処分するから、ほら、返してよ」

「…いや、これァいい道具になるかもしれねェ…」

「不吉なこと言ってんじゃないわァァァ!!」

 

 

一向に鏡から手を放さない沖田。

「呪いの儀式に使えそうでさァ」

「ちょっとォォあたしの鏡を変なことに使わないで!!」

鏡を奪おうと手を伸ばすものの、それをひょいひょいとよけていく沖田。

 

 

「どうせ捨てるんだから、別にいいだろィ」

「なんとなく嫌!!」

っていうか、間接的にあたしも儀式の関係者になってしまうじゃないか。

それ、どうせ土方くん呪う儀式でしょ!いやだよ!

 

 

「チッ、ちょうどいい割れ具合だったんですけどねィ」

「あげないってば」

やっと手元に戻ってきた鏡を鞄にしまって、妙ちゃんに謝る。

 

 

「ってわけで、ごめん!鏡割れてた!」

「そういうこともあるわよ。私もこの前ゴリラ退治で水筒折れちゃったから

「やりすぎ!!!ちょ、こ、近藤くん生きて帰ってきてェェェ!」

未だ空席のままの近藤くんの席に向かって、あたしはそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「にしても、鏡どうしようなあ」

「処分に困ってんなら、俺に譲っちまいなせェよ

「どんだけこだわってんの」

席についたあたしの前に立って沖田は言う。

 

 

「じゃあ、こいつと交換はどうですかィ」

「へ?」

 

目の前に差し出されたのは、二つ折り式のピンクの鏡。

「な…なんで沖田がピンク…ぶふっ、に、似合わないッ!!」

「商店街の福引で当たったんでィ。妙な想像してんじゃねェ」

べし、と持っていた鏡で頭をたたかれる。

 

 

「いったた…ごめんごめん、だって、あまりにも予想外だったし」

頭をさすりながらそう答える。

 

の鏡見て思い出しやした。俺も、こいつをどう処分するかで悩んでたんでさァ」

沖田の手に弄ばれている鏡は、確かに男が持つにしては可愛らしいデザインのもの。

 

 

「…交換、って言っても、あたしのは割れてるんだよ。使い道ないんだよ?」

「だから、儀式に…」

「却下」

そんな危ないことに使われるとわかってて、渡せるものか。

 

 

「強情ですねィは」

はあ、とため息をついてから沖田はあたしの前にピンクの鏡を差し出す。

 

「じゃ、交換とかナシで、これにあげまさァ」

「え…で、でも」

「どーせ福引で当たったモンですからねィ。しかも俺じゃ使えねーし」

 

目の前に差し出された鏡。

確かに、サイズ的にもちょうどよくて、貰えればうれしいけど…。

 

 

「ほんとにいいの?」

「俺にこれ使えってんですかィ」

「いやそうじゃなくて、あたしが貰ってもいいの?」

 

 

商店街の名前が入ってるわけでもなく、本当に市販で売られているようなかわいい鏡。

「好きな子とかにあげたらいいんじゃないのー?」

にやにやと笑って言うあたしに、沖田はフッと一瞬鼻で笑って言う。

 

 

 

「なら、尚更が持っててくだせェ」

 

 

 

「…え、なに、どういう」

「どういう意味かは、自分で考えなせェ」

そう言って、沖田はあたしの手に鏡を押し付けて席に着いた。

 

 

それと同時にチャイムが鳴り、銀八先生が教室へ入ってきた。

あたしはうつむいて、手に持った鏡を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 







(「ねぇ、やっぱりさっきの意味わかんないんだけど。何なの?」「……この鈍感女が…」)

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ちょっとだけ押せ押せな沖田。遠まわしに好きだと言いつつも届かないっていうね!

日ごろの行いだと思います。同じことを土方がやったらヒロインもキュンなってたかもしれませんね(ぁ

2009/05/24