夕方になって、涼しい風が教室に吹き渡る。
そしてこの3年Z組では、妙に白熱した、学生とは思えぬ声が響いていた。
「ふふふ…リーチッ!」
「おいおいマジかよ。早くねぇか?」
「まさかがこういうのに強いとは思ってやせんでしたねィ」
「ククッ、ま、リーチかけれりゃ上がれるっつーモンじゃねェよ」
机を2つくっつけて、あたしと、沖田と、土方くんと、高杉さんでそれを囲む。
その中心にあるのは…麻雀牌。
じゃらり、と牌が机の上で音をたてる。
「日頃の仕返しをしてやるわ…沖田ァァ!」
「上等でさァ。一気に最下位へ引きずり落としてやりますぜィ、土方共々な!」
「何でそこに俺が入ってんだよ」
ときどき土方くんのツッコミが入るなか、もくもくと進めていく。
高杉さんの言うとおりで、リーチをかけてもなかなか上がれない。
くぅ…!三暗刻まであと一歩なのに!
心の中でそう唸っていると、隣でリーチをかけていた高杉さんが口を開いた。
「残念だったなァ、」
「ま…まさか…!」
「ロン。清一色」
「ううう嘘ぉぉぉーー!?え、そんなのアリ!?」
ばんっ、と机に並べられた高杉さんの手牌は、綺麗に筒子が並んでいる。
それはもう、綺麗に、丸が書かれた牌がずらりと。
「うわ。俺そんなんであがる奴初めて見たぞ」
「さすがですねィ」
「う、うああー…そんなぁ…三暗刻目前だったのにぃー…」
「何お前らマニアックな会話してんだよ」
がらがらっという教室の戸の開く音とともに現れたのは、3Zの担任銀八先生。
「げ…先生」
「ったく、学生が何で麻雀やってんだよ。しかも学校で」
だるそうに言いながら教室へ入ってくる。
「…こういうののお咎めって、学級委員長とか風紀委員長だよね」
「当然でさァ。俺たちには関係ねェや」
「おめーはあんだろ。一式持ってきたの総悟じゃねーか」
顔を見合わせて口々に言い合うあたしたち。…若干沖田と土方くんの間に火花が見える。
「全員関係ありまくりだから。つーかもう委員長なら何でもいいんだよ委員長職員室来いや」
「桂くんもう帰っちゃいました。近藤君はお妙ちゃんおっかけて行方不明」
「じゃお前来い」
「えぇー…え!?」
予想外の言葉に思わずびくりと反応する。
な、何であたし!?
「お前委員会は?」
「え?ほ、保健委員会…ですけど」
「委員長、職員室な」
「……!!そ、そんなのありなのぉぉー!?」
3Zは皆健康すぎるので、保健室にお世話になることはめっっったにない。
だから委員会に半強制的にいれられて。しかも3年だから、って理由であたしは、保健、委員長なのだ。
「あと高杉。テメーも生徒にまざってんじゃねーよ。っつーことで職員室な」
「…チッ、しょうがねぇな」
「職員室はどうなったの」
「遠い」
「ふざけんじゃないわよ」
職員室よりもZ組に近いここは、数学準備室。
いつの間にやら、いすの数が増えてる気がするんだけど…。
「で。何でよりによって麻雀?もうちょっと学生らしい遊びはなかったわけ?」
「沖田が一式持ってきたんですってば」
そりゃあたしだってびっくりしたよ。鞄から麻雀セットが出てくるって、何者だよあいつ。
「にしても…はこういうの弱そうなのに、強いんだな」
「昔高杉さんに仕込まれましたので。夜な夜な麻雀や花札をやらされてましたからね」
「何してんの高杉ィィ!」
「あ?…食うに困ったときにでも役立つかと」
「何時代?江戸か。江戸時代か。かぶき町気分かコノヤロー」
ま、そういう訳で、あたしは高杉さんに賭博的なものを色々と教わってた。
…もちろん、負けたときは罰ゲームが待ってたんだけどね。
「んで。何で高杉までまざってたんだよ」
「見回りついでに廊下散歩してたらが誘ってきたからよォ」
「人数たりなかったんです。高杉さんにはなんとしても勝ちたかったし。…あぁー思い出したらまた悔しくなってきた!」
小さい頃から、高杉さんには負けてばっかりだった。だから、今日こそリベンジ…って思ってたのに!
「おめーらな…そういうことするから、俺の給料が下がるんだ!!」
「「知ったこっちゃねーよ」」
学生が賭け事するなー、とかそういう教師っぽい注意がくると思ってたのに。
まさか、給料がくるとは。
「テメーは要領悪ィんだよ。校長の前ではちゃんと仕事してるように見せりゃいいんだよ」
くくっ、と喉で笑う高杉さんが一瞬、悪代官に見えた。
「校長ー給料泥棒がいまァァーす!代わりにこいつの給料を俺によこせぇぇー!」
夕焼け色の空へ向かって叫ぶ銀八先生。そんな無茶な。
「…っていうか、あたしそろそろ帰っていいですかー?」
「あ?あぁ…そーだな」
そういうと、先生はゆっくりと窓を閉める。
あたしと高杉さんはガタガタといすを片付けて、数学準備室の戸を開ける。
「もう学校で麻雀なんざすんじゃねーぞ。俺が面倒だから」
「最後まで自分の都合ですか先生」
廊下を歩いて教室に向かう途中で、高杉さんが呟いた。
「なんでそんなに勝ちたがってたんだ?」
「そりゃ…なんとしても高杉さんに罰ゲームやらせたかったか…」
「あぁん?」
「すいません。冗談です」
凄い低い声だったよ今の!こ、怖っ!
「…まぁまたいつでも付き合ってやるよ」
そう言って、高杉さんはあたしの頭に手を置いてがしがしと乱暴に撫でる。
「負けませんからね!」
「ククッ、返り討ちにしてやらァ」
ガラッ、とZ組の教室の戸を開けると、机に座った沖田が言った。
「お疲れさんでした。こってり絞られやしたかィ?」
「全部沖田のせいなんですけど。麻雀なんかやるんじゃないーって言われたよ!」
「あいつでもそんな教師らしいこと言う日もあるんだな」
土方くん、感心してるとこ悪いけど、あの人は自分の給料のことしか考えてなかったよ。
「麻雀が駄目なら…明日は花札にしやしょうか」
「よしきた!負けないわよ!」
「テメーらアァァァ!!」
「「すんまっせーん!!」」
委員長は職員室へ
(「ってなんでいるの先生!?」「お前らのことだから、また何かやらかすと思って後つけてきたんだよ!」「ストーカー!」)
あとがき
麻雀分からない人にはごめんなさいな小説ですね。すいません。私が好きなんです、麻雀(ぉ
いつにも増してぐだぐだ…!すみません!
2008/07/10