教室の掃除を終えて、ゴミを両手に階段を降りる。流石に一杯になってゴミ袋2つは結構重い。

掃除当番じゃない生徒がさっさと帰っていくのを見ながら、あたしは廊下を歩いていた。

 

 

ゴミ捨て場は外にあるから、下駄箱へ行って靴を履き替える。

そしてまた両手にゴミ袋を持って、外へ出る。

 

 

「あーあ。なんであそこでチョキ出しちゃったかなぁ…」

ぽつりと出たひとり言。おっと、周りに人がいなくてよかった。

3Zではお決まりのゴミ捨てジャンケン。

毎回妙に白熱するのは、3Zの教室からゴミ捨て場が遠い所為だと思う。

 

 

 

がさり、とあたしの両側でゴミ袋が音を立てる。

早く終わらせて帰ろう、と思って走ろうとしたとき、足元にもぞもぞと何かが擦り寄る感覚がした。

 

「うおっ、なに…!?」

慌てて下を向くと、あたしの足に擦り寄っていたのは一匹のウサギ。

この学校の校長が、無類の動物好きだとかなんとかで、色んな動物が放し飼いにされてるから

まぁウサギがいても不思議ではないけど…驚きは、する。

 

 

ゴミ袋を地面において、未だあたしの足に擦り寄っているウサギの背中を撫でる。

「うおお…ふわふわだ…!」

和むなぁ、なんて思っていると、今度は足音が聞こえてきた。

 

 

 

、お前こんなところで何を…」

走ってきた桂くんはそこまで言うと、突然叫んだ。

「カプリースゥゥゥ!!こんなところにいたのかァァ!」

 

 

「…え、誰それ」

 

 

ぽつりと呟いたあたしの声は、おそらく桂くんには届いていなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、取り乱してしまってすまないな」

そう言いながらあたしが撫でていたウサギにニンジンをあげる。

「あ、ああ気にしないで。それより…何だっけ、カプ…?」

「カプリース、か?それはこいつの名前だ」

ふわり、と優しく笑いながら「俺が考えたんだ」と言う桂くん。

ネーミングセンスにはこの際つっこまないでおこう。

 

 

 

それよりも気になるのは、さっきから桂くんの周りを走っている犬。

「…ね、その子もこの子も桂くんが世話してるの?」

そんな当番あったっけ?なんて思いながら尋ねる。

 

「世話…というほどではないな。こうやって授業後に餌をやりに来る程度だ」

本当は頻繁に来たい所だが…と呟きながらニンジンスティックを食べ終えたウサギの子の頭を撫でる。

 

 

 

「桂くん、あのさ、その子さわってもいい?」

今も走り回っている中型犬くらいの大きさの犬を指差して言う。

「ん?ああ、構わないぞ。ほら、こっちへ来いソルバトーレ!」

…つっこまない。絶対、センスには突っ込まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たたっと軽い足取りで走ってくる…えーとソル…なんでこう覚えにくい名前ばっかりつけるんだ桂くん!

「身体は大きいが、大人しい奴だからな。にも噛み付いたりはしないさ」

「めっちゃ手噛まれてるよ桂くん」

差し出した手を思いっきりがぶりとやられている桂くんが言っても説得力がないんだけど。

噛まれ…ないといいなぁ。

 

 

 

こういうのって躊躇ったりしないほうがいいんだよね。

触るときは思い切って、触らなきゃ。

 

ぽふ、と犬の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でる。

さっきの桂くんのときみたいに噛まれることはなかった。

 

「あ、ほんとだ大人しいねこの子」

「あぁ。だが…は動物に好かれるタイプのようだな」

「え?別にそんなことは…」

「いや、さっきの俺みたいに、もしかしたら、噛まれるかもしれないと心配していたが…杞憂だったようだな」

 

正直、桂くんは動物に好かれるタイプなのかどうかが微妙だと思う。

よく猫の引っかき傷作ってるし。

 

 

 

 

「…ってあたしゴミ捨て行かなきゃいけないんだった!」

すっかり存在を忘れていたゴミ袋。

は今週掃除当番だったのか」

「そうそう。しかもゴミ捨てジャンケン負けてさー」

 

 

よいしょ、と立ち上がってスカートについた砂を払う。

桂くんも立ち上がると、あたしが持ってきたゴミ袋を持ち上げた。

「あ、ありが…」

わざわざ取ってくれたのかと思って手を差し出すと、名前を呼ばれた。

 

 

「これは俺が捨てておくから、は…そのウサギの子を抱えて小屋まで連れて行ってやってくれ」

「え、でも掃除当番なのあたしだし」

そう言って引きとめようとしたものの、既に桂くんはゴミ捨て場の方へと歩き出していた。

 

 

「これを捨てたらすぐ俺もそっちへ行くから、待っててくれ」

そういい残して。

 

 

 

「…桂くんが優しい人だっていうのは、ちゃんとわかってるよ」

動物にはイマイチ通じてないみたいだけど。

心の中でそう付け足して、あたしはウサギの子を抱える。

 

 

 

「じゃ、小屋まで行きますか!お前も一緒においで」

そう言うと犬の子は、わん、と1度だけ吠えてあたしの同じ速さで歩き出した。

 

 

小屋にはまだいっぱい動物がいるんだろうなぁ。

普段はこんなところまで来ないし。…今日はちょっと動物と戯れてから帰ろうかな!

まずは桂くんが戻ってきたら聞いてみなきゃね。

 

 

 

 

 

 

 

触っていい?




(「桂くんって普段見ないと思ったらこんなとこにいたんだね」「ああ。も、来たくなったらいつでも来ていいからな」)


 

 

 

 

 

あとがき

ウサギや犬の名前は全部カクテル名から持って来ました。動物につけるとなんか微妙ですねぇ。

ヅラの動物愛はどこかから回ってて、見てて笑えます(ぇ

2008/12/5