お昼を過ぎた頃。

あたしは自転車をこいで、文房具屋へ向かっていた。

 

「…ん?あれ…?」

その途中、信号で止まったときに、向かいの通りにふと見慣れた人影をみつけた。

あのくるくる銀髪パーマは…銀八、先生?

 

 

そういえば、先生を外で見かけるのって初めて…かもしれない。

「案外彼女がいて、休日はデートしてるかもしれないわね」

「無いアル。あんなのに彼女なんているわけないネ!」

なんて話をこの間の放課にしてたんだよね…。

 

あ、そういえば妙ちゃんが…。

「でも、私この間商店街のファミレスの『カップル限定パフェ』のポスターの前にいる先生見たわよ」

なんて言ってたっけ。

…まさか、本当に…彼女いたり………しないよね!

 

なんて思っているうちに信号は青に変わる。

 

 

 

ガシャン、と音を立てて自転車は走り出す。

そして横断歩道を渡って、何気なく先生の後ろを通り過ぎようとしたとき。

 

「!!ーーちょっとまてー!!」

「ぎゃあああ!!」

勢いよくあたしの方を向いたかと思うと、自転車の後ろの荷台をガッシリとつかまれた。

 

 

「ななななんですか!あたし買い物行くだけです!悪いことしてません!」

思わずペダルをこぐ足が止まる。っていうか先生よく掴めたな!

 

「違う、違うって、ちょっと…頼みがあんだよ!」

「…頼み、ごと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、『カップル限定特大パフェ』で御座います」

 

ごとん、という何だか重たい音を立ててテーブルに置かれるパフェ…っていう大きさじゃないんだけどこれ!!

 

 

「あの、先生」

「くあああーー!!さすが、特大パフェッ!食い応えがありそうだ…!いただきますっ!!」

「状況説明をしろやこの糖尿病寸前教師」

ちゃん今日一段と恐ろしいね」

 

 

 

 

どうやら、今日までの限定パフェだったみたいで、一緒に行く人を最近ずっと探していたらしい。

結局何だかんだでいろんな人に断られ、仕方が無いから見てお腹一杯になろうとしてたらしい。

 

「見てお腹一杯って…あんなとこにずっと立ってたらお店の人に迷惑ですよ」

「だーってしょうがねーじゃん!誰も一緒に行ってくれなかったんだからよォ」

板チョコをパキリ、といい音を立てて噛みながら先生は言う。

 

 

「……やっぱ彼女じゃなかったか…」

「は?彼女?」

「うおっ、いえ、なんでもないです!!」

物凄く小声で呟いただけなのに、なんで聞こえてるんだ…!

 

 

「何なに、聞きたいことあったら聞いていいんだよーちゃん」

パフェの所為か、今日の先生は生き生きしてる。っていうか、目が輝いてる。

今なら、ノリで聞いちゃえる…かな。

 

 

「あ、の…先生って彼女いるんですか?」

「……そーさねー、まぁ、今はいるよ」

もぐもぐ、とアイス部分を食べながらあっさりと先生は言った。

 

「そーなんで…ええぇぇええええ嘘ォォ、いるの!?だっ、誰!?

こういうとき、生徒間じゃないんだから名前を聞いたってきっとわからないのに、どうしてか聞いてしまう。

やっぱベタに保健の先生…って高杉さんだね。じゃあ誰だろう…職員?それとも…生徒…はまずいよね。

 

 

ちゃん」

「はい。……え?」

「だーかーら、彼女。今は、が彼女でしょ」

 

一瞬、脳の働きが停止する。

や、今なんていったこの人。あたしが、かのじょ?

 

 

「ってあたしぃぃぃ!?い、いつから!?ってか何であたし!?」

「今は、彼女だろ?だからパフェ食べれてんじゃん。つーか俺の彼女がそんなに嫌かコノヤロー」

ぐさっ、とフォークをフルーツに突き刺して口へ運ぶ。

 

 

「あ、あぁ、そういう意味ですか。なんだ、先生の秘密でも握れたかと思ったのに」

「ふっふっふー、残念でした!先生の秘密を知ろうだなんてには100年早ーい!」

びしっ、とフォークにささったリンゴを突きつけられる。

っていうかさっきからモリモリ食べてるなぁ、先生。

 

 

 

 

「ま、そういうことで。今日はカップルなんだし、先生って呼ぶの禁止」

「えぇー…じゃあ何て呼ぶんですか?天パさん、とか?」

それいじめだろオイ。そーじゃなくて、もっと普通に銀八って呼んじゃってよ」

もちろん冗談ですよ、なんていい返す前に衝撃的な返事が返ってきた。

 

 

「無理です」

「即答!?いいじゃん、1日くらい!」

やけに真剣な目で、そう訴えられる。

うぐぐ…そんなところで真剣にならないでほしい。

 

 

「だ、だって、一応教師と生徒、ですし」

「今日は違うでしょ。ほら、店員さんにも怪しまれるし、言っちゃえ言っちゃえ」

 

ハイテンションにそう勧めてくる先生の顔を見てることすら恥ずかしくなってきて、少し俯く。

…たしかに、店員さんに怪しまれるのは…いろんな意味で困る。

くそう、腹をくくれ、!!

 

 

「ぎっ……銀八…っ」

「……よ、くできました」

 

ああ、穴があったら入りたい!それくらい恥ずかしい!

俯いていた顔を上げて、先生を見る。

 

 

「…って何真っ赤になってんですか」

「いや、これ、結構…恥ずかしいな…(つーかお前無意識なんだろーけど、上目遣いだから!それ反則だから!)」

 

 

言ったあたしのほうが恥ずかしいんですけど!

いや…でも、こうやって顔赤くしてる先生は、ちょっと可愛い、かもしれない。

 

 

 

あたしはおもむろに、横においてあったフォークを取って、オレンジに刺す。そして。

「はいっ、口あけてー、あーん」

ちょちょちょちょっと待ってちゃんん!?何、いきなりなに!?」

少しずつおさまっていた先生の顔の赤みが、また一層赤くなる。

 

 

「今日は、あたし彼女なんでしょう?だから、ですよ」

「や、さっきまで名前すら呼んでくれなかったじゃん。どういう風の吹き回し?」

 

わたわたと慌てる先生が可愛くて、つい。

…って、あたし少し沖田に似てきてる?いや、別にあそこまでSじゃない、はず。

 

 

「いいじゃない、ほら、あーん」

「…あ…あーん」

かぷり、とあたしの差し出したオレンジを静かに食べる先生は、やっぱりなんだか可愛い。

 

 

 

「くっそー…なんか負けた気分だ…!いや、負けてたまるか!ほーらほら、あーん」

ずいっ、と突き出されるスプーンに乗ったアイスクリーム。

こ…これは…確かに恥ずかしいかもしれない。でも、やるしかないんだ、頑張れあたし…!

 

 

「…あ、あーん」

引きつりそうになる顔を抑えて、ぱくっとアイスを食べる。

あ、冷たくて美味しい。

なんてアイスを味わってる場合じゃなかった。何か企んでる顔して笑ってる先生に気付くべきだった。

 

 

「…ほら、ここついてんぞ」

そういいながら、テーブルに身を乗り出し、ぺろりとあたしの頬を舐める。

 

「っ!!ななな何するんですかせんっ……ぎっ、銀八ッ!!」

先生、といいかけたところで少し睨まれたので慌てて言い直す。

 

 

「っていうか、ついてない!スプーンで食べてんだから、ほっぺにつくわけないでしょ!」

「じゃ、直接口舐めて欲しかった?」

なんていいながら、自分の口をぺろりと舐め上げる先生。

 

 

「くっ…!ま、負けないからね、銀八!」

「のぞむところだ、!もっともっと、甘くしてやるよ」

 

 

こうして、あたしたちの壮絶な戦いは、この日1日中続いた。

ちなみにお店を出るときに、店員さんに「お幸せに」と言われ、2人で真っ赤になってしまったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

先生の秘密


(案外、先生は照れ屋だ!そして、負けず嫌い、だ!…あぁーっ、もう!顔から火がでそう!!)


 

 

 

 

 

 

あとがき

あああ甘いィィィ!!と個人的には思ってるんですが、どうなんでしょうか。

とりえず雪さんは…ノックアウト…です…!1日限り設定だとこういう甘さを出せるんですよね。

2008/08/30