学校もお休みな日曜日。
久々に部屋の掃除をしていたら、携帯が鳴った。
「ん?メール…って土方くんじゃん」
なんだろ、と思って内容を見てみる。
『俺って英語のノートお前に貸したっけ?』
……英語の…ノート…。
「やっべ。借りたまんまだ」
部屋をささっと片付けて、机に積みあがった教科書や漫画の山から土方くんのノートを掘り出す。
そしてそれを自転車のかごに入れて、猛ダッシュで土方くんの住むアパートへ走った。
がちゃん、と自転車のスタンドを立ててアパートへ走る。
そして階段を上ろうとした瞬間、ふっと頭上が暗くなった。
「急に何…ってうおおおお!?」
ばっ、とその場から身をよける。
ガララランという衝撃音と共に、何故か、天井からタライが降ってきた。
「…沖田ァァァ!!!お前だろこういうことするの!!!」
「あっれ。なんでィじゃねーか」
タライ仕掛けに使っていたのであろう紐を握って、キョトンとした沖田が階段の踊り場に現れる。
「さっき山崎の野郎が出かけたんで、そろそろ帰ってくるかと思って仕掛けてたんですけどねィ」
「仕掛けるなよ!暇人だなほんとに!」
学校でも色々といたずらはしてるけど、まさかアパートでまでやっているとは。
とんとんとゆっくり階段を下りてくる沖田にあたしは言う。
「あんたね…これ、一般の人が引っかかったらどうすんの」
「そん時ぁ逃げまさァ」
「最悪だなお前」
けろりと当然のように言ってのけた沖田に、あたしの顔は引きつる。
「って、こんなことしてる場合じゃないや!じゃあね!」
そう言って階段を上ろうとすると、首根っこをがっしりと掴まれた。
「ぐえっ」
突然の首への圧迫に変な声が出た。
「どこ行くんでさァ」
「ひ、じかた、くんの部屋まで、ノート届けに…だよ!ていうか首離してよ!」
言った瞬間にぱっと手が離され、反動で2,3歩前に出る。
「やめときなせェ」
「いや、そんなこと言っても返しに行かなきゃだからさあ」
振り返った先にいた沖田は、想像していたよりも真面目な顔つきだった。
「ノートくらい俺が返しておいてやりまさァ」
「すごく信用ならないんで、自分で行きます」
くるりと背を向けて階段を上ろうとすると、沖田はあたしを追い越して行く手を遮った。
「こっから先にゃ、俺が土方さん専用で仕掛けた罠があるんでさァ。みてーなのが無事に到達できるわけありやせん」
「…あんたどんだけアパート改造してんのォォォ!?」
共用のものでしょうが!一般の人が困るでしょうが!
「大丈夫でさァ。普通の人は、この反対側にある階段をつかってるんでィ。ここは俺ら銀魂高校組しか使ってやせん」
そういう問題ではない。
「わ、罠って…さっきのタライみたいなもんでしょ。なんとかなるって」
そういって沖田を押しのけ、踊り場から2階へ続く階段を上ろうとした瞬間。
ぐいっと腕を引っ張られ、ぎゅううと沖田に抱きしめられる。
「え、ちょ、何っ!?」
そう叫んだあたしの声は、さっきまであたしが立っていたところに降ってきた水音にかき消された。
「だから言っただろィ。じゃ無事に上れやせんぜ」
「…そうみたいですね」
「仕方ねぇから、俺が一緒に行ってやらァ。仕掛けたのは俺ですからねィ」
その言葉にあたしはお願いします、と小さな声で呟いた。
土方くんの部屋に到達するまでに、それはもう色んなトラップがあった。
タライ落とし3連発や、吸盤弓矢の襲撃、足元の紐トラップなどなど…とにかく色んなものがあった。
どうやって仕掛けたんだろうと思うものもあったが、沖田は笑って誤魔化した。
やっとのことで土方くんの部屋に着いた。
ピンポーン、というチャイムの音の後。がちゃりと戸が開いて土方くんが出てきた。
「誰だ…って!?おま、何でここに…」
「ノートを、お返しに…来まして…」
すでに疲労困憊なあたしからノートを受け取った後、土方くんは困ったように言った。
「…来るの、大変だっただろ」
「うん」
「……。あー、えっと怪我とかしてねえか?つーか別に明日でもよかったんだぞ」
土方くんは俯いているあたしの頬に手を添えて、上を向かせる。
「俺がついてんでさァ。怪我なんざさせるわけありやせんぜ」
すぐ後ろから、そんな声が聞こえた。
そしてあたしの頬に添えられていた土方くんの手をぱんっと叩く。
「総悟…お前、いい加減罠仕掛けるのやめろっつってんだろうが!こういうことになんだろ!」
「土方さんが全部避けるからですぜ。さっさと引っかかってくたばってくだせェ」
「嫌なこった」
避けてるのか。土方くん…家と学校のせいで、どんどんたくましくなっていくなあ。
「ま、まあノートは返したし、あたしはもう帰るよ。これ以上いると寿命縮まりそうだし」
「ああ、なら送っていこうか?帰りは帰りで何かあるはずだぞ」
「マジでか」
もう精神的にも疲れてるのに、まさかの帰りも別トラップがあるなんて!
「見送りなら俺が行きやすんで。土方さんは明日のトラップに期待しててくだせェ」
「期待しねーよ」
「…行きやすぜ、」
「え、あ、うん。じゃあね土方くん!」
沖田に手を引かれ、引きずられるようにして部屋を出る。
最後に見えたのは、苦笑いをしながら「頑張れ」という土方くんだった。
それからの帰り道。
やっぱりいくつかのトラップが仕掛けられており、そのたびにあたしは沖田に引っ張られ押され、
なんとか罠を抜けてアパート入り口まで来た。
「つ…疲れたぁぁぁ……!」
「俺のほうが疲れたんですけどねィ。また仕掛け直さなきゃならねーし」
「もう仕掛けるな」
そのうち死人が出るんじゃないかと思った。
まあ、そんな危なすぎるアパートから無事に脱出できたのは沖田のおかげなわけで。
「仕掛けた本人に言うのもなんだけど、送ってくれてありがとうね沖田」
「…まあ、土方さん用に仕掛けた罠にがハマったってしょうがねぇんで」
あーそうですかー、と呟きながら自転車にまたがる。
「じゃ、また明日学校でね」
「おう。気をつけて帰りなせェ」
ひらひらと手を振る沖田の顔をよく見ると、少しだけ疲れて見えた。
「…沖田ー!」
アパートの入り口。すでに階段を上がろうとしていた沖田に向かって叫ぶ。
「守ってくれて、ありがとうね!」
そう笑って、本当に感謝の気持ちを込めて叫ぶ。
多分、あのまま一人で上っていたら途中で倒れていただろう。
妙ちゃんの手料理とか、怖いものは色々あるけど、ある意味沖田の仕掛ける罠が一番の凶器かもしれない。
そんなことを思いながら、あたしは既に日が沈みかけている空の下を自転車に乗って走っていた。
凶器:最終兵器
(何で、そのタイミングで笑うんでさァ。…わけ、わかんねぇ。くそ、の笑顔の方がよっぽど凶器でさァ…。)
あとがき
お題に沿っているのかそうでもないのか微妙な一品。
ちょっとだけ土方さんへの嫉妬が混ざってます。
2009/09/23