ひゅう、とつめたい風が吹く。
ああそうか、もう冬が近いんだ。そんなことを考えながら家を出た。
「おはよー」
がらりと3年Z組の教室の扉をあける。
閉め切られていたのか、教室の中はほんのり暖かかった。
「おっはよーアル!」
机の上に座って足をぶらぶらと揺らしながら神楽ちゃんは手を振った。
自分の席に鞄を置くと、とことこと神楽ちゃんが寄ってきた。
「うー、急に寒くなったアルな」
「そうだよね。昨日は結構暖かかったのに」
制服の袖を引っ張って手を中に入れている神楽ちゃんと話していると、がらら、と教室の戸が開いた。
「あー寒っ!あんのバカ校長め…何が省エネだコノヤロー。省エネの前にお前の無駄遣いどうにかしろっつーの」
腕をさすりながら教室に入ってきたのは銀八先生だった。
ってあれ、まだホームルーム前だよね?
「先生、ちょっと時間早くないですか?」
「いいんだよ別に。さっさとホームルーム終わらせて、俺ァ保健室で寝る」
キッパリと迷い無く言い張る。
なんて先生だ。
「つーかもだけど、女子は大変だろ。冬でもスカートで……ってちょっとちゃーん」
「気持ち悪いんで苗字ちゃん付けしないでくださいよ」
そう言うと先生は、すんません、と短く言った。
「いや、そうじゃなくて。何履いてんの?」
「何って、ジャージですけど」
何って、何だと思ったんですか。
まさかパジャマだとでも思ったんですか。
ちゃんと銀魂高校指定の体育ジャージですよ!
「そういうことじゃなくてね。つか神楽もだけど、お前ら何で、そんなの履いてんの」
「「寒いからに決まってるじゃないですか」」
見事にぴったりハモってあたしたちは言う。
当然のことのように言った後。銀八先生は小さな声で呟いたかと思うと、急に大声を出した。
「スカートジャージ禁止ィィィ!!!」
びしいっ、と足を指差される。
「いやいや。さっき寒くて大変だなー、とか言ってたじゃないですか先生」
「そうアル。男共はズボンなのに、女子だけ不公平ネ」
「シャーラップ!それとこれとは話が別だ!ただでさえ厚着になる冬に、学生の生足がどれだけ重宝されるか…!」
唸るように言う先生。そんなとこ重宝されても嬉しくないんですけど。
「今回ばかりは俺一人じゃねーぞ。なぁ沖田。お前も反対だろ、スカートジャージ」
教卓の前の席でうつらうつらしていた沖田に話を振る。
「あ…?まあ、そうですねィ。スカート捲る楽しみがまったくもって無くなりますからねィ」
「捲るな。ていうかそんなこと考えてたわけあんた!?」
スカート捲りって、おま、中学生か!
「俺だけじゃないですぜ。土方さんだって思ってますぜィ」
ねぇ、と言ってあたしの隣の席で腕を組んだまま目を閉じている土方くんに話を振る。
「思ってねーよ。どんだけガキなんだてめーは」
「多串くん、ムッツリだから心の中では風で捲れろ!とか思ってんだろ」
「思ってねえつってんだろうがこの天パ教師!風紀委員がンなこと言い出したら学校終わりだコノヤロー」
顔を引きつらせて言う土方くん。さすが風紀委員。
っていうか、沖田も風紀委員じゃね?あいつほんと駄目駄目じゃん!
「とにかく!寒いんですよスカートは!」
「だがしかし先生の癒しのためにも脱げ!」
びしいと足を指差される。
とんだセクハラな気がするけど、なぜかこのZ組だと、もうこんなやりとりが普通に思えてくる。
「なら先生もスカート履けばいいじゃないですか!寒さが分かりますよ」
「なんだは俺の生足が見たいのか」
「すいませんでした。全力でやめてください」
そうこうしているうちに、朝のホームルームの時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
「ほーら、もう時間ですから!さっさと初めてくださいよホームルーム」
言いながら席に着く。
がたがた、と今まで喋っていた生徒も皆席に座って、いつも通りの風景が広がる。
「あー、まあ今日の連絡事項は……特にねぇな」
毎日連絡事項が無いっていうのも問題なんじゃないかなあ、と思いながら窓の外へ視線を移す。
室内との温度差で少しだけ窓が白くなっていた。
「あ。ひとつあったわ、連絡」
そう言ってぽんと手をたたいた先生。
「女子共、お前ら皆スカートジャージ禁止!!」
もちろん、女子から拒否の声は上がった。
一波乱起こりそうな予感を感じながら、あたしは先生に口パクで「しつこい」、と言ってやった。
それに口パクで「早く脱げ」と返ってきたものだから、退くんが書いていた日直日誌を思いっきり投げてやった。
スカートジャージ撤廃運動
(「そんなに生足見たいなら、さっちゃんに頼め!」「俺はの生足が見たいんですー」「気持ち悪っ!!!」)
あとがき
こういうことに一番最初に一生懸命になるのは銀八先生かと。
それに生徒がノリだして、ワイワイなってきたころに思いっきり冷めてるのが先生だと思ってます。
2009/11/08