キーンコーン、と授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

それと同時に神楽ちゃんと沖田は購買へと走って行った。

 

 

相変わらず動くのが早いなあ、と思っていると後ろからとんとんと肩を叩かれた。

ちゃん、今日ってお昼どこで食べる予定?」

「今日は天気もいいし…屋上行こうかなって思ってるよ」

「その、俺も行っていい?」

 

控えめに自分を指差して言う退くんに、あたしは大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

屋上にひゅう、と風が吹き抜ける。

「ふー、やっぱりここは良いなあ」

お弁当を持ったまま、ぐっと背伸びをする。

 

「お腹減ったし、さっそくお昼にしよっか!」

「うん、そうだね」

フェンスに背中を預けて、お弁当箱を開く。

 

 

ちゃんって、お弁当自分で作ってるの?」

「いやいや、朝起きれないから作ってるのはお母さんだよ」

ぱたぱたと手を左右に振って否定する。

 

「あ、でもね、今日は自分で作ってきたの!なんか気が乗ったからさ」

「へえ、すごいね!若干形崩れてるけど」

「退くんって時々すごい素直というか直球だよね」

 

そこは黙っておこうよ。調理実習のときも言われたよ、それ。

あの時は…銀八先生に言われたんだっけ。あの人も直球だよなあ。

 

 

 

「退くんは今日サンドイッチなんだね」

「うん、買っておいたパンの賞味期限が近くて」

手作りのサンドイッチは、色んな具が挟まっていて美味しそうだった。

…あれ、あたし、退くんにも料理負けるかもしれない。

 

 

 

「い、いやそんなことはない…!」

「?どうしたの?」

「う、ううん!なんでもない!」

つい口から零れた独り言をかき消すように、お弁当の袋から箸を取り出そうと手を突っ込んだ。

 

 

「…あれ」

ちゃん?」

 

がさごそと袋の中を探るものの、掴めるものは何も無い。

 

 

「…まさか」

「……うん。箸、忘れた」

 

 

 

慣れないことはするもんじゃない、ってことですか。

朝からお弁当作るとか普段のあたしじゃありえないことをやったせいですか。

 

 

ずーん、と沈み込んでいると、退くんがおずおずと口を開いた。

 

「あ、あのさ…もしよかったら、俺の箸使う?」

「ふぇ?」

そろりと差し出される箸。

 

 

「え、い、いいの?」

「俺はちゃんと逆で、箸いらないのに持ってきちゃったからさ」

サンドイッチに箸はいらないだろ、と笑いながら退くんは言った。

 

 

「…じゃあ、借ります!」

「うん、どうぞ」

退くんから箸を受け取って、いただきます!と手を合わせた。

 

 

 

「あ。そうだ、お箸のお礼におかずひとつあげるよ!」

どれがいい?と聞きながら退くんに向かってお弁当箱を差し出す。

 

 

「い、いや別に箸くらい気にしなくても!」

わたわたと慌てる退くん。

「食べたくないなら無理しなくていいけど」

「そんなことない!!」

ずいっと身を乗り出して言った退くんに、すこし戸惑う。ていうか、びっくりした。

 

 

「あ、ご、ごめん」

「いいよ。そんじゃ、おかずどれにする?」

 

お弁当の中身は、卵焼きとベーコンの野菜巻き、それとから揚げ。

あたしの料理の腕では、三品が限界だった。

 

 

「…おすすめは?」

「うーん…自信あるのは、この野菜巻きかな」

失敗して上手くベーコンが巻けなかったものは、朝ごはんとして食べてきた。

上手くいったものだけ、お弁当につめてきたのだ。

 

 

「じゃあ、これ貰っちゃってもいい?」

「うん!もっちろん!」

見た目的にも一番きれいなものを箸で摘んで、退くんの前に差し出す。

 

 

「さあ!口あけて!」

「…えっ!?いや、ちょ、ままま待った!」

ずいっと野菜巻きを差し出すと、退くんの顔がぼんっと顔が赤く染まった。

 

ちゃん、あの、じ、自分で食べれるから!」

「でも摘んじゃったし。ほらほら、形崩れる前に口あけてー」

ずいずいと箸をすすめていると、退くんは遠慮気味に口をひらいた。

 

 

ひょい、とそこに野菜巻きを入れる。

そしてすぐにばっと顔を離した退くんは、もぐもぐと口を動かす。

 

「どう、美味しい?」

味見というか、見た目の失敗作は朝食べてきた。

一応美味しくは出来ていたけど、やっぱり他人の評価も気になるわけで。

 

 

ごくん、と飲み込む音が聞こえると、退くんは顔を手で扇ぎながら笑った。

「美味しい、美味しいよこれ!」

「ほんと!?あー、よかったー!」

これで不味かったらお礼どころか罰ゲームになってしまう。

 

 

「ありがと、ちゃん」

「うん。こちらこそお箸ありがとうね」

そうしてあたしもお弁当を食べ始める。

うん、卵焼きも美味しくできてる!

 

 

「…ちゃんも、たまにすごい直球っていうか大胆だよね」

もぐもぐとサンドイッチを頬張りながら退くんは呟くように言った。

 

「大胆?何が?」

「うっそ、無意識でやってんの?」

きょとんとするあたしに、退くんは「うあー」とか唸っていた。

 

 

「まあ、それでこそちゃんって感じもするけど」

「?」

自己完結してしまった退くんに、何のことか聞いても答えは教えてくれなかった。

 

 

「ね、ちゃん。また今度一緒にお昼食べない?」

「それはおかずが目当てっすか」

「うん」

にっこり笑って言う退くん。やっぱり退くんは時々直球だ。

 

 

「今度は俺も何か作っていくからさ。おかず交換しようよ」

「地味に負けそうで怖いけど…退くんの手料理も食べてみたいし…うん、今度はおかず交換ね!」

これはまた気合入れて頑張らなければ、と思いながらあたしはお弁当を頬張った。

 

 

 

 

 

 

お弁当のおかずは








(「見た目良くて不味いより、見た目悪くて美味しい方が逆にいいんじゃない?」「もう見た目のことはほっといてぇぇ!」)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

案外、退はズバッとものを言うと思うんですよね。

ヒロインが「はいあーん」状態をさらっとやってのけたのは、頭におかずのことしか無かったからです。

2010/04/03