今日も一日疲れたなあ、と思いながらお風呂に入る。
うん、疲れを取るにはやっぱりお風呂だよね!サッパリ!
頭にタオルを巻いて部屋に戻ると、机の上に置いたままの携帯が光っていた。
「ん?着信?」
携帯を開いて履歴を見ると、丁度あたしがお風呂に入っている時間に3回ほど着信があったようだ。
それも、3回とも土方くん。
「…かけ直すべき?」
携帯の画面を見つめたまま、呟く。
3回もかけてくるっていうことは、急用だったのだろうか。
でも早いとこ髪乾かさないと風邪引きそうだしなあ…。
そう思って携帯を閉じようとした瞬間、手の中で携帯が音を立てた。
「うわっ、あ、こ、こんばんは!」
『なんでそんなに声ひっくり返ってんだよ』
慌てて通話ボタンを押して返事をすると、電話口から土方くんのため息が聞こえた。
『つーか今までどこ行ってたんだよ。3回も鳴らして全部スルーかよ』
「しょうがないじゃん、お風呂入ってたんだし」
片手でわしわしと髪を拭きながら言う。
『あー…そりゃ悪ィな』
「まいいけどねー。それより、何?なにか急用だった?」
すまなさそうな土方くんの声を掻き消すように促す。
『いや、別に急用ってわけじゃねーんだけど』
「そうなの?ならメールしておいてくれればよかったのに」
そっと部屋を出て、リビングへ向かいながらも会話を続ける。
『めんどくせーんだよ。メール打つの』
「3回も電話かけるのも面倒でしょ。ていうかコレで4回目だっけ」
がちゃりと冷蔵庫を開けて紙パックのお茶を取り出す。
『さすがに4回目はが出るまで鳴らし続けてやろうかと思ってたけどな』
「やめてよ電池切れるじゃん」
土方くんなら案外やりかねない。
「で、用件は何だったの?」
『…あ、明日…さ』
「うん?」
なんだかよく聞き取れなくて、携帯に耳を引っ付ける。
『あ…明日お前日直だから、遅刻すんじゃねーぞ!!』
キーン、と耳鳴りがする。
ああ、耳近づけなければよかった。
「わ…わか、った…」
携帯を持つ手を変えて、反対の耳に当てる。
『な、ならいい!』
そう叫ぶ土方くんの声が低音で、まだよかった。
これで高音だったら、あたしの耳は無事では済んでいないだろう。
お茶パックを片手に家の中を歩く。
「ごめん、ちょっと耳が」『耳?』という会話をしながら部屋へ戻った。
「で、それだけのために電話してきたの?」
『まあ…その、他にもあったけど忘れた』
少々どもりながら言う土方くん。
うーん、顔が見えないとどういう状況なのかサッパリだ。
「土方くん、あのさ、なんか調子悪い?」
『は?な、なんでだよ』
「いや…なんとなく。声的に調子悪いのかなーと思って」
さっきからどもりっぱなしだ。土方くんってこんな風だっけ。
『別に悪くねーよ。その…なんか緊張するっつーか、顔が見えないのも落ち着かねぇっつーか…』
ぼそぼそと小声になっていく。
「確かにねー。あたしもやっぱり、土方くんと直接会って喋りたいな」
『え』
え。
なんでそんな反応。
だって顔見えないと、感情がどうも伝わりにくいから会って喋りたいって言っただけなんだけど。
「えーと、とりあえず明日のことは分かったよ。連絡ありがとね、それじゃ」
また明日、と言って電話を切ろうとすると、また耳元で大きな声がした。
『ッ!』
「ハ、ハイイ!」
急に名前を叫ばれるものだから、持っていたお茶パックを潰しそうになった。
『明日…のことだから起きれねぇだろ。だから俺がモーニングコールしてやらァ!』
「いやいや。さすがにそんな事までは…」
それって土方くんも早起きするハメになるじゃないか。
学生の朝は貴重なんだから、しっかり寝ればいいのに。
『俺がやるっつってんだから、気にするな。つーか明日はちゃんと一回で出ろよ』
「はーい。じゃあ今日は目覚ましかけずに寝るから!頼むよ、土方くん!」
『任せとけ』
ふっ、と電話の向こう側で笑った声が聞こえた。
「じゃあ、明日ね。おやすみ!」
『おう。おやすみ、』
ピッ、という音と共に電話が切れる。
しんと静まり返った部屋で、あたしは手に持った携帯を眺める。
「…たまには、メールじゃなくて電話もいいかも」
呟いてからあたしは髪を乾かし始めた。
目覚まし時計はセットしないまま、携帯を充電器につないだ。
携帯電話の利用法
(「声、聞きたかっただけなんて言えるわけねーだろ。ちったァ察しろよ、バカ」)
あとがき
何だこの土方ァァァ!なんかものすごいヘタレっぽくてごめんなさい!
土方さんは面と向かってる方がビシバシものを言える気がします。なんて勝手な妄想。(ぁ
2010/05/02