季節は冬に変わり、部屋の外は冷たい風が吹いていた。

昼間に退くんから沖田の家で鍋パーティするから来ない?というメールが回ってきた。

特に断る理由も見当たらなかったため、行く、と返事をした。

 

 

そして沖田の部屋に集まったのは、近藤くんと土方くん、退くんと沖田とあたしの5人だった。

夕飯時に皆でワイワイお鍋をかこみ、現在食べ終わってあたしは片づけを手伝っていた。

 

「つーか、おかしいだろ。何で俺が片付けしなきゃならねーんだ」

「まあまあ、あたしも手伝うからさ」

こそやる必要ねえだろ。なんで宿主がテレビ見て寝転がってんだっつー話だ」

あたしの隣で洗い物をする土方くんが、ちらりと台所から部屋に視線を送る。

 

 

「そりゃ、場所提供してやったのは俺ですからねィ。片付けくらいやれよ土方」

「てめー明日寝坊しても絶対起こしてやらねぇからな」

ぎゅうとスポンジが引きちぎれそうなくらい力を込めて握られている。

 

土方くんを宥めながら、あたしは土方くんから回されてくるお皿を拭く。

ちなみに、あたし以外のメンバーはこのアパートに住んでいる。

既に近藤くんと退くんは部屋へ戻り、あとはあたしと土方くんだけだ。

 

 

「よし、これでラストだ」

最後のお皿を拭いて、あたしと土方くんは同時にぐいと伸びをした。

「ふー、つっかれたー。さすがは5人分…!食器の量がハンパないわー」

よくこれだけの食器があったな、と呟くと半分は俺の部屋から持ってきたやつだ、と土方くんが呟いた。

 

 

「ご苦労さんでした。んじゃ土方さんはさっさと食器持って部屋に帰ってくだせェ」

「ほんと自分勝手だなてめぇ」

チッと舌打ちをして、土方くんは食器を持って部屋へ戻っていった。

 

 

 

 

 

「あーなんか夕飯食べたら帰るのめんどくさくなってきた…」

ふう、と息を吐いて沖田が寝転がっている居間のこたつに入る。

「なら泊まって行きますかィ?」

 

 

「…は?」

一瞬何を言われたのか分からなくなった。

プツンとテレビの電源が切れる音がして、気づけば沖田はあたしの横に胡坐をかいて座っていた。

 

「めんどくせぇんなら、別に泊まっていってもいいですぜ」

いつもと同じ、無表情というか何を考えているのか分からない顔で平然と言う。

 

 

 

「ば、ばか!冗談に決まってんでしょ、ちゃんと家帰るよ!」

「外は寒いと思いやすけどね…まあがそれでいいって言うんなら、俺は無理に止めませんけど」

うぐ、と言葉に詰まる。

確かに今はお鍋のおかげで身体も暖まっているけど、ここから外へ出たら一気に冷えるだろう。

もう、夕空から夜空へと変わり始めているのだから。

 

 

「あ…明日学校あるし!家に帰らないと制服とか困るし!」

「明日は祝日ですぜ」

再び言葉に詰まると、「ほんとは馬鹿ですねィ」という声が頭の上から降ってきた。

 

 

「いや、でもお風呂とか困るじゃん。あたし着替え持ってないし」

「俺の服貸してやりまさァ」

胡坐をかいたまま、ふらふらと左右に揺れる沖田をじっと見る。

 

 

 

「なんで今日はそんなにしつこいわけ?」

「別にこれといった理由があるわけじゃない…と思うんですけどねィ」

沖田は無表情のまま、だけど歯切れ悪く言葉を紡ぐ。

 

「しいて言うなら…多分、明日が休みだからですかねィ」

「どういう意味?」

明日が休みだと何か不都合でもあるのだろうか。

朝の時間を気にしないで寝ていられる、幸せの休日じゃないのだろうか。

 

 

 

「明日が休みだと…の馬鹿なツラが見られなくてつまんねーから、もうちょっと見ておこうかと思いまして」

「あんたの言い方だとあたしのデフォルトが馬鹿面ってことになるんだけど」

「あれ、違いやしたか?」

沖田ァァァ!と普段ならつかみ掛かっているところだけど、なんだか今日はそんな気にならなかった。

 

 

「あれ、今日は突っかかってこないんですかィ」

「突っかかってほしいなら、いつもみたいに笑って言えば?」

いつもみたいな、人を馬鹿にしたような笑顔で言えばいいのに。

今日の沖田はなんだか寂しそうに見えた。

 

 

 

「…久々に大勢で騒いだせい、ですかねェ…ガラにもなく人恋しい気分になってるんでしょうかねィ」

ハッ、と自嘲気味に笑って沖田はあたしのすぐ横でこたつに足を突っ込んで寝転がった。

腕組んで枕代わりにしてぼーっと天井を眺めている沖田に、あたしはそっと手を伸ばす。

 

 

「…?」

ふわりと優しく沖田の頭を撫でると、ちらりと視線だけあたしの方へ向ける。

「そんな風に言われたら、帰りづらいじゃん。バカ」

悔しいほどにサラサラの髪が指の間を通り抜ける。

 

「別に、が帰ったからって泣いたりしやせんぜ」

「わかってるよ。沖田が泣くとか、天変地異の前触れじゃないの」

小さく笑って、髪を撫でる手を止めようとしたら「止めんな」と沖田に制止をかけられた。

 

 

 

すう、と目を閉じて沖田は一呼吸置いて話し出す。

。もう一回、聞きまさァ。…泊まっていきませんかい?」

「……今日だけ、特別ね」

 

 

そう言うと沖田は普段からは想像できない、優しい笑い方をした。

「ありがとう、ございまさァ」

「…うん」

 

しょうがないな、と思いながらあたしも沖田の隣に寝転んだ。

こたつの暖かさと、夕飯の後という状況のせいか目が閉じそうになる。

 

 

、寝る前に風呂沸かしてきてくだせェ」

「ん…って何であたしがやらなきゃいけないのさ」

横で寝転がる沖田に目を向ける。

 

「泊まっていくんなら、それ相応の働きはしてくれねーと」

「あんたが泊まってけって言ったんじゃん」

どういうことだ、と体を起こして抗議する。

 

 

「いや…なんか、自分で動くのめんどくさくなったんで。あ、風呂入れたら布団よろしく頼みまさァ」

「沖田ァァァ!!もう帰る!やっぱり帰る!!!」

一瞬でも寂しそうとか思った自分がバカだった。

こいつはこういう、狡賢いというか人を丸め込むのが上手い奴だった。

 

 

それでも結局、あたしは自分の家には帰らせて貰えなかったわけだけど。

沖田のが移ったのか、いつの間にかあたしまで人恋しいような気分になってしまったせいで帰る気にはならなかった。

そんなあたしに気づいたのか、沖田はいつもの腹の立つ笑顔を浮かべてあたしを見ていた。

 

 

 

 

 

泊まっていくー







(「あ、うち布団一枚しかないんで」「じゃああたしが布団ね」「バカ、一緒に寝りゃいいだろィ」「…は、はぁぁぁ!?」)


 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ちょっとしっとり甘いお話。皆様はこんな簡単にお泊りしちゃいけませんよ!(ぁ

3Zお題フルコンプ!ここまでお付き合い、ありがとうございました!!

2010/12/08