今日もかぶき町は平和だ。

そう思いながら煙草の煙を吐いて、俺は町の見回りをしていた。

 

そう、平和だったんだ…こいつらに会うまではな!!

 

 

 

 

 

 

 

「違うって!ぜーったい銀ちゃんだよ!」

「んなわけあるかァァ!に決まってんだろーが!」

 

 

道に面した甘味屋の長いすに座ってぎゃーぎゃー騒いでる奴らがいる。

知り合いではあるが、かかわりたくねぇ。

 

みなかったフリをして、背を向けようとしたとき。

甘味屋のじーさんに、なんとかしてくれ、と言われてしまった。

…くそ、見回り山崎にでも押し付けてくりゃよかった…!!

 

 

 

 

 

 

普段はベッタベタで、見てるこっちは引くくらい仲がいいこいつらが、珍しくけんか腰になってやがる。

理由なんざ…知りたいようで、知りたくねーけど…なんとかするには聞かなきゃならねーよな。

 

 

「オイ、お前ら昼間っからうるせーんだよ。喧嘩なら家でやれ、家で」

ちょうど置いてあった灰皿に煙草を押し付ける。

 

「あ、土方さん!ちょうどいいとこに来てくれましたね!!」

「多串くーん、君からもこいつに言ってやってくれよー」

「今はちゃんと土方っつっただろ。何でソッコーで間違えてんだコラ」

…っと、そんなこと言ってる場合じゃねーか。

 

 

 

「で、何やってんだよ。店のじーさんも迷惑してんだろうが」

ため息をつきながら言うと、はえらく真剣な顔つきで尋ねてきた。

 

「土方さん…土方さんも、可愛いのは銀ちゃんだと思いますよね!?」

 

その瞬間、俺の顔が、ひく、と一瞬ひきつった。

 

 

「ほらみろ!多串くんだって違うと思ってるだろーが!可愛いのはお前だ!」

 

おい、まさか、喧嘩の理由って…。

 

 

 

「違うって!あたしなんかより、銀ちゃんのが百倍可愛い!」

「百歩譲って俺が可愛いとしても、の方が一億倍可愛い!!」

「銀ちゃん!」

!」

 

こいつら…昼間っから、なんつーことで喧嘩してんだ…!!

 

もう怒るのも通り越して呆れてくる。

が、ひとつだけ気になるところがある。

 

 

「オイ、。お前、こいつのどこらへんが可愛いんだ?」

こいつ、と万事屋の野郎を指差しながら尋ねる。

 

 

「んー…全部

3秒くらい悩んで出た答えは、全部。

「あ、でもあえて言うなら、寝てるときかな!あと寝起き!」

 

この答えには、さすがの万事屋も驚いたらしい。

「な、なんだそりゃ。寝起きなんざお前のほうがぜってー可愛いに決まって」

「お前ちょっと黙ってろ」

このまま喋らせてたら堂々巡りになっちまう。

 

 

こんな喧嘩じゃ、解決方法なんて見当つかねー、なんて思ってる間にもは喋り続けていた。

「それで、普段ジャンプかぶって寝てるから見れないんだけど、たまーに見れる寝顔が可愛くて…」

は両手を頬に添えて喋りつづける。

コレ完全に自分の世界にはいっちまってるだろ。

 

 

 

「…ってわけで、銀ちゃんの方が可愛いですよね、土方さん!」

はいってなかった。ちゃっかり聞いてきやがったこいつ。

つーか知らねーよ、こいつの寝顔なんざ。見たくもねーし!

 

 

「あー、あのな

がしがしと頭をかきながら言う。

「男っつーのはな、可愛いって言われるよりかっこいいって言われるほうが嬉しいモンなんだよ」

…多分な。

 

 

「…そうなの、銀ちゃん?」

「そりゃー、可愛いって言われるよりは嬉しいぜ。百万倍な」

そっか、と言っては少しだけ俯いたと思ったら、すぐに顔を上げて万事屋に言う。

 

 

「でも、あたしあんまり銀ちゃんのかっこいい所、見たことない気がするんだよね」

 

 

思わず笑いそうになるのを堪える。

こいつ…なかなか言うじゃねーか。言っておいてなんだが、俺もそこには同感だ。

 

 

の言葉にピシッと固まった万事屋は、少し遅れて反応を返す。

「じ、じゃあ…今から帰って俺のかっこいいトコ見せてやらァ…!」

ゆらり、と立ち上がってを見下ろしながら言い放つ。

「帰ったら男の料理っつーもんを見せてやらぁぁ!!」

 

 

なんじゃそら。

そんなツッコミも出ないほど、俺は力が抜けていた…が、こいつにはそうでもなかったらしい。

 

「銀ちゃん…すっごく楽しみ!!」

「よし、そうと決まったらさっさと帰るぞ!惚れなおさせてやらァァ!」

「わーい、おなかへったー!」

 

 

イスから立ち上がって、は万事屋の野郎と歩き出す。

「あ、じゃあ土方さん、あたしたち帰りますんで!お仕事頑張ってくださいね、じゃ、さよなら!」

一歩踏み出したところで俺のほうを振り返って笑いながら言った。

 

 

 

 

ひゅうう、と冷たい風が頬を撫でていく。

なんなんだ、あいつらは。

 

 

残された俺は、物凄い疲労感に襲われていた。

…今日はもう帰るか。

夕焼け色に変わりつつある空を見上げながら、煙草に火をつける。

 

 

もう、見回り中にあいつらには会いたくねぇぇ!!!

 

 

 

 

 

お前がカワイイと喧嘩





(喧嘩してるときのほうがめんどくせーよお前ら。だから、ずっとベタベタしてやがれ!そっちのがまだマシだ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

土方編。ヒロインが一話よりもはっちゃけてるとか気にしない。土方さんがかわいそうとか気にしない(ぁ

「お前がカッコイイ」で喧嘩してもよかったんですが、私の独断と偏見で可愛いになりました。

銀さんは可愛いとかっこいいの両方を兼ね揃えた人だと思ってます。

2009/01/04