今日もかぶき町は晴れていて、絶好の洗濯日和。
ガタガタと動く洗濯機の音が鳴り響いている万事屋は、今日も。
「銀ちゃん!!だから、掃除とかしてる間はひっつかないでってば!」
「無理無理。抱き心地のいいが悪い」
「そんなめちゃくちゃな!」
……あっついです、気温的な意味じゃなくて。
ばさりと音を立てて新聞をめくる。
まあ、でも、あの頃よりはいいかな、と僕は心の中で溜め息をついた。
そう、あの頃。
銀さんとさんが、まだ、恋人という関係になる前。
「…あの、新八くん、神楽ちゃん、ちょっと、いいかな」
控えめにそうやって僕らを呼んで、銀さんについて色々と質問をされたものだ。
好きな食べ物は、とか。自分が来るまではどういう生活をしていたのか、とか。
好きな人はいるのだろうか…とか。
「あんな駄目人間に彼女なんていないアル」
さらりと言い切ってしまった神楽ちゃんにおもわずつっこむ。
「ちょ、ちょっとォォ!そんな駄目人間とか…まあ駄目人間だけど、言っちゃだめだよ!」
「あははは、いいよ新八くん。それはあたしも思ってるから」
さんは、本当に、銀さんにはもったいないんじゃないかと思った。
「銀ちゃんは…普段、ぐだぐだで、やる気なくて、仕事もしなくて」
つらつらと銀さんの駄目部分を述べていくさん。
「でも、なんでだろうね。いつの間にか、惹かれちゃったんだよ、ね」
それがいけないことのような、寂しそうな顔で、寂しそうな声で言うものだから。
だから、僕らは銀さんに言った。
「銀さんは、さんのこと、どう思ってるんですか」
「どうって…まあ…そりゃ…」
「はっきりするヨロシ」
ドン、と机を叩いて銀さんに詰め寄る神楽ちゃん。
「銀ちゃんの気持ちなんかバレバレアル。気付いてないのはくらいネ」
「んなっ」
嘘だろ、というような表情で僕のほうを見る。
「本当ですよ。無意識なんですか?いつもさんの後姿、目で追ってますよ」
「あー、いや、それは…あいつおっちょこちょいだから、また何も無いところで転んだりしねーか心配で」
だんだんと早口になっていく銀さんに、神楽ちゃんがニヤリと笑って言う。
「また、アルか。のこと、よく見てるアルなー、銀ちゃん」
その指摘に、うぐっ、と呻き声を上げて銀さんは1度息を吐いた。
「…だってよォ。もし、あいつが…が俺をそういう好きとして思ってなかったら、これから気まずいじゃねーか」
この人は。
あれだけさんを見ていて、気付かないのか。
「どーすんだよ。これから気まずくなったら。もう目合わせてくれなくなったら俺マジで死にそう」
どんどん沈んでいく銀さんに、僕が口を開く前に神楽ちゃんが怒鳴った。
「それでも男アルかァァ!フラれるのが怖くて何も言わないうちに、誰かにをとられちゃったらどうするネ!」
ぴく、と銀さんが反応する。
「そうですよ、そもそも、銀さんみたいな駄目人間にあんなに優しくしてくれているんですよ!」
「駄目ってお前…」
「うだうだ言ってんじゃないアル!早くしないと、明日にもはどっかいっちゃうかもしれないヨ!」
神楽ちゃんがそう叫んだとき。
玄関から、買い物帰りのさんの「ただいま」という声が響いた。
「…お前ら、ちょっと隣の部屋いって耳ふさいでろ。いいな」
そう言った銀さんは、極稀に見る、真剣な表情をしていた。
「あ、銀ちゃん。ただいま」
「…」
隣の部屋で、僕たちはもちろん耳なんて塞がずに、銀さんの低い声を聞いていた。
「えっと…どう、したの?」
少しだけあけた襖の隙間から、2人のいる居間を覗き込む。
訝しげに尋ねるさんに、銀さんは、言う。
「………お、おかえり」
「「なんだそりゃああああーーーー!!!!!」」
「うおわっ!!」
「うわあっ、ふ、2人とも、どうしたの!?」
思わず襖をスパーンと開けてつっこんでしまった僕と神楽ちゃんは、ハッとして顔を見合わせる。
「べ、別になんでもないヨ。な、ぱっつあん」
「そ、そうだよね神楽ちゃん」
「ああっ、私定春の散歩にいかなきゃいけないアル!」
「僕も寺門通親衛隊との待ち合わせがあったんだっけ!」
口々に、適当な用事を叫んで、居間を出る瞬間。
「頑張ってください、銀さん」
「しっかりやるヨロシ」
そう呟いて、僕らは居間を出て、廊下に座り込んだ。
「…」
銀さんの声が、聞こえる。
「銀、ちゃん?」
「…っ、あのな…」
さっさと言えよ!お前ら両思いなんだから!もうじれったいなちくしょぉぉ!!
「…銀ちゃん、あたしは、銀ちゃんが言うまで待ってるから。ちゃんと、言ってほしい」
「」
「うん」
「俺は、お前が…のことが、す、き、だ」
最後のほうは、ほとんど襖越しで聞こえないくらいの声量だった。
そんな声にさんは、しっかりした口調で、答える。
「あたしも、銀ちゃんが好きです」
そう言った瞬間、僕らは襖を開けて、2人に「遅いんだよコノヤロー!」と笑顔で叫んでいた。
あんな、じれったい頃の銀さんを思うと、今は随分と大胆になったものだと思う。
「もー!洗濯終わらないじゃないのー!」
「仕方ねーな、手伝ってやるから、終わったら俺に付き合ってくれよ」
「今でも十分銀ちゃんに付き合ってる気がするんだけど」
…これはこれで、うっとおしい。
目の前のソファでジャンプを読んでる神楽ちゃんも多分そう思ってるんだろう。
物凄く、手に力が入ってる。
きっと、またあの時と同じようなことがあるんでしょうね。
今度は、もう手助けしませんからね。あんなじれったいの見てるこっちが疲れるんですから。
じれったい恋人未満
(ほんと、あの時は僕と神楽ちゃんの心労が耐えなかったなあ。今もある意味、心労が耐えないけど。)
あとがき
新八編。ヘタレ時代の銀さん話。
なんやかんやで、結局皆ヒロインと銀さんが大好きなんです。
2009/05/05