ふあ、とあくびをしながらかぶき町を歩く。
見回りっつっても、ほとんど毎日何も変わりゃしねーや。
そう思うと、見回りなんかする気、起きなくなってくる。
…ま、川原で昼寝でもしやしょうか。…いや、今の時間的には夕寝ですかねィ。
夕焼けが映った川原にたどり着いたところで、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「あれ、総悟?」
「何でィ、じゃねーか」
は何の迷いも無く、橋の上から川原へと降りてくる。
「今日は万事屋の旦那は一緒じゃねーんですねィ。喧嘩でもしたんですかィ?」
ま、そんなことは無いだろうけど。
「あはは、ないない。あたしと銀ちゃんが喧嘩することなんてないよー」
…こうもあっさり、予想通りの答えが返ってくると拍子抜けでさァ。
「ちょっとお塩が切れちゃって。買い物ついでに、散歩してたの」
いいながら、俺の横へと腰を降ろす。
「総悟は?」
「見回り中ー」
「見回ってないじゃん!!また税金ドロボーって言われるよ」
あはは、と笑いながら言うの声を聞きながら目を閉じる。
こいつと会ったのは、確か…コンビニ強盗事件のときだったか。
人質に取られながら犯人に「早く帰らないと、買ったもの腐っちゃうんですけど」と言い放ったんでしたっけねィ。
ありゃ、犯人も俺らもびっくりしやした。
普通そこは自分の心配をするだろうに。
「く、くくっ」
「何よ、急に!」
「いや、ちょっと」
あの時以来、俺とは妙に仲良くなったんでしたっけねィ。
あーあ。旦那の女じゃなかったら、今頃…俺はどうしてたんですかねィ。
ふ、と笑いながらを見る。
「人の顔みて笑わないでよね!!」
そういいながら、ほんのりと頬を赤く染める。
そうして話していると、遠くから旦那の声が聞こえてきた。
「ーー!!」
「…あれ、銀ちゃん?」
こっちだよー、と大きく手を振って言う。
こいつらは、もう少し周りの目を気にした方がいいと思うんですよねィ。
「お、まっ、何、してんだよ!」
「何って…買い物ついでに散歩」
ぜーはー、と息を切らせて尋ねる旦那。今までずっと走ってたんですかねィ。
「行くなら行くで、ちゃんと、言って行きなさい!心配すんだろーが!」
「でも銀ちゃん寝てたから、起こしちゃ悪いかなーって」
ごめんね、と首を傾けて謝るに、今度は気をつけろよ、と赤い顔で言う旦那。
…眠気が覚めてきやした。
「つーか、何でお前サド王子と一緒にいるんだよ。襲われんぞ」
「人をケダモノみたいに言わねーでくだせェ、旦那」
寝そべっていた体を起こして、頭についた葉っぱを払う。
「総悟とはお話してただけだよ」
そうが言った瞬間、旦那の顔がこわばった。
「…総悟?」
「え、うん。総悟が…どうか、した?」
きょとんとして言うに、旦那の顔がどんどんこわばっていく。
あぁ、なんか、言いたいことわかりやした。
「…、俺の名前は?」
「銀ちゃん…でしょ。何、今更」
わけのわからない質問に、困ったように答える。
「なんで、こいつは普通に名前で、俺はちゃん付けなんですか」
あぁ、やっぱり。
「え…だって、ずっとそう呼んでたし…」
「俺も名前で呼んで」
帰りてェ。俺がそう思うと同時くらいに、旦那はそう言った。
「え、ええ?で、も…」
ちらり、と俺の方を見る。…俺にどうしろっていうでさァ。
「呼んでやりゃいいじゃねーかィ。呼ぶくらい、タダですぜィ」
「う…えーと…」
は胸の前でぎゅう、と手を強く握り合わせる。
そして夕日の所為、なんて誤魔化せないくらい顔を赤くして声を絞り出す。
「ぎ…銀時……っ」
ひゅう、とつめたい風が1度吹いた。
「や、やっぱりなんか恥ずかしいよ!!今までどおり、銀ちゃんって呼んでいい?」
「え、あ、あぁ…」
放心していたのか、上の空のような反応を返す旦那。
「あー、そう、だな。今までどおりで、いいや。(…心臓、もちそうにねぇわコレ)」
頭をかきながら、そっぽを向いて言う旦那の顔も、夕日以上に赤く染まっていた。
はぁ、めでたい奴らですねィ。
名前ひとつで、こんだけ盛り上がれるたァ。
…俺の名前は、軽く呼ぶくせに。
なんて思った考えを打ち消すように俺は立ち上がって言う。
「そういうのは家でやりなせェ、お2人さん」
眠気も覚めちまったし、見回り…行くかねィ。
ぐ、と背伸びをして、川原を歩く。
「あ、総悟ー!!またねー!」
そう叫びながら手を振るの後ろで、やっぱり旦那は複雑そうな顔をしてた。
だから、俺を巻き込まないでくれィ。
さっさと別れちまえばいいのに。
そうしたら、俺がの横に立っていられるのに。
なかなか上手くはいきやせんねィ。
名前を呼んで恥らって
(…ま、が幸せなら、相手が旦那でも仕方ない、ですかねィ。を泣かせんじゃねーよ、旦那。)
あとがき
沖田編。普段と違う呼び方をすると、何か違和感があるよね、という話。
銀さんの心の葛藤はものすごかったと思いますよ。
っていうか沖田さんの生殺し話みたいですね、これ。すいません。
2009/03/03