ずず、と茶をすする。
目の前には、机に突っ伏してぶつぶつと何かを呟いている、旧友。
「おい銀時。いい加減、その体勢をやめたらどうだ」
「いや、無理。力入らねーもん」
…べったりという効果音が似合いそうだな。
「だらしないアルな、銀ちゃん」
向かい側のソファに座るリーダーがそう言う。
「リーダー、銀時はいったい、何があってこうなったんだ?」
「ま、いつものことアル。が買い物に行ってるときはいつもこうネ」
、というと…いつも万事屋にいる娘か。
なかなかに器量もよく、可愛らしい娘だったか。
「買い物に行っている間くらい、我慢したらどうだ」
「無理だ。っつーかよ、ヅラ」
ヅラじゃない、桂だ。
そういう前に銀時は突っ伏していた体を起き上がらせて喋りだす。
「たとえ買い物だろうと、外の世界はあぶねーんだよ。特にこんなかぶき町みてーなところは」
「今まで住んできた町だろう。迷子にもなるまい」
「ちげーよ!わかってねぇな、ヅラは」
だから、ヅラではなくて桂だ。
「迷子よりも心配なのが、男だ」
真剣な顔をして、何を言うかと思えば…。
「は可愛いから、いい寄ってくる男がごまんといるにきまってんだろーが!」
「だがあの娘もお前を慕っているのだろう。だったら心配は無用だろうが」
ばん、と銀時が机に手を突く前に湯飲みを持ち上げる。
「いーや、は愛想もいいから、そこのチャイナ娘みてーな撃退方法は使わねぇ…!」
「お前私を何だと思ってるネ。失礼ヨ!」
そう言ってリーダーは銀時に飛び蹴りを食らわせる。
うむ、見事な飛び蹴り。
「がはっ、ぐ、そ、れに」
よろよろと机を支えに体勢を立て直しながら言う。
「真選組の連中も、ぜってー、のこと狙ってやがる…!」
「なら、そいつらを潰すためにもまた俺らと共に」
「あぁー!駄目だッ!こうしてる間にも俺のがぁぁー!」
話を、聞け。
ついに銀時が玄関へ走り出そうと立ち上がったとき。
「ただいまー」
という声が聞こえた。
「…!ーーッ!おかえ」
「あ、桂さん来てたんですか」
飛びつくように、に向かって走り出した銀時を軽やかによけて、は俺の前へ来る。
「うむ、邪魔している。ああ、そうださっき手土産を持ってきたんだ」
そう言って既にリーダーに半分食べつくされたアップルパイを指す。
「うわあー!美味しそう!いつもありがとうございます」
ふわり、と笑う。
ああ、なるほど。まあ銀時が心配するのも無理はないかもしれないが…あれは、いきすぎだろう。
「もそこ座るアル!一緒に食べようヨ!」
「うん、食材しまってきてからねー」
リーダーの頭を2,3回撫でては台所の方へと向かう。
そして、壁に激突していた銀時が復活してきた。
「あてて…あれ?は?」
「台所の方へ行ったぞ。お前も、もう少し落ち着け」
ふう、と息をついて茶を飲む。
「…どうした、さっさと座れ」
「何でだ」
「…?」
何なんだ、と思いながら横に立ったままの銀時を見上げる。
「何で、俺よりお前の方の挨拶優先なんだ!!!」
知ったことか。
「客、だからだろう。普通はそうだ」
「いーや納得いかねぇ!俺が…俺がヅラより優先順位低いだと…!?」
こいつは客に対して、いや旧友に対して失礼すぎる。
というか…。
「銀時。お前、今日俺が来てからのことしか言ってないぞ」
「…そうか?」
無自覚、なのか。
「無駄ヨ、ヅラ。銀ちゃん自分じゃわかってないアルから」
どこか遠い目をしながら、またアップルパイに手を伸ばす。
「…リーダー、慣れるのにどれくらいかかった?」
「もう数えるのも面倒になるくらいネ。思えば銀ちゃんは付き合う前からこうだったアル」
「ごめん神楽ちゃん、もうちょっと待っててー」
ひょこ、と台所から顔を覗かせては言う。
「どうしたアルか?」
「新八くんの掃除、手伝ってくる!もうちょっとで終わりそうだから、皆でお茶しようよ」
「わかったヨ、ささーっと終わらせて早く来るヨロシ」
ごめんね、と最後にもう1度言って顔をひっこませる。
それと同時にぽん、と肩に乗った手。
「な、あんなの外に出したら不安になるだろ?」
「………お前のは、過剰すぎる」
「んなこたねーよ」
ふん、と鼻を鳴らして銀時は立ち上がる。
そしてふと何かを思い出したように、俺の前へしゃがみこむ。
「…ヅラ」
「何だ」
「いくらお前でも、俺の可愛くて優しいをとったら、血祭りに上げてやるからな」
「…安心しろ。お前からをとろうなど、思わん」
命がいくつあっても、足りないだろうな。
知らずにノロケ
(それにしても、恐ろしいほどにベタ惚れだな。まったく…俺は惚気のはけ口ではないんだが。)
あとがき
ヅラ編。冷静なヅラは珍しいです。
銀さんの台詞を打ち込んでる最中が、もう、恥ずかしくてたまりませんでした。この惚気野郎!
2009/04/01