天気の良い日曜日。

今日も求人募集を見ながら公園のベンチに座っていると、とんとんと肩をたたかれた。

ぐるりと顔をそっちへ向けると、随分と暗い雰囲気の銀さんがいた。

 

「…マダオ…いや、長谷川さん。ちと、頼みがあんだけどよォ」

そう言いながら銀さんは俺の隣へ腰掛ける。

 

 

「めずらしいっつーか、何で万事屋のアンタが俺に頼みがあんだよ?」

「こればっかりは、長谷川さんにしか頼めねーんだよ」

はあ…とため息をつく銀さん。

 

「ま、まァ俺でできることなら言ってくれよ!」

頼られるなんて、久しぶりだなんて思いながら銀さんの肩をぽんぽんとたたく。

 

 

「…うちに、っつー子がいるのは知ってるだろ?」

「ああ、あの子がどうかしたのか?」

俺をマダオじゃなくて、普通に長谷川さんって呼んでくれた嬢ちゃんの顔が浮かぶ。

 

 

「あいつにさ、その、俺の代わりに言ってきて」

「何を?」

「プロポーズ的な言葉」

何の前振りもなく、ぽろっとこぼれた言葉。

 

 

 

「……おかしいだろそれええええ!!!」

叫んだ瞬間に、公園にいたハトが飛んだ。

 

 

「おかしいだろ銀さん!そこ一番大事なとこじゃん!他人に任せちゃ駄目なとこじゃん!」

「バッカ、前調査だよ!アンタがちょいとに銀さんのことどうよーって聞いてみて、

オッケーだったら俺が改めてプロポーズすんの!」

「二度手間!それなら自分でアタックしちまえよ!」

「だからァァ!断られでもしたら、俺立ち直る自信ないんだよこのマダオが!」

マダオ関係ないよね!そこ関係ないよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。

ひたすら代役を頼んでくる銀さんに、プロポーズ特訓をしてやった。

ていうか、ほんとに自分で言わないと意味が無いからねェェ!!

 

 

そして今日は本番。

「じゃ、俺そこの草むらで見ててやるから」

「逆にここまでくると見られてると恥ずかしいから帰れ」

「酷いなオイ!」

 

所謂、3ヶ月分の給料をつぎ込んだプロポーズに欠かせない物を握り締める銀さん。

ガタガタとその手が震えてるのは、見間違いどころの話じゃない。

 

 

 

日も沈みかけて、空が濃いオレンジに包まれた頃に、嬢ちゃんがやってきた。

「頑張れよ、銀さん!」

「う、おお」

なんとも言えない返事をした銀さんの背をぽんとたたいて、草むらに隠れる。

 

 

 

 

 

「どうしたの、急に。用事があるなら万事屋で言ってくれればいいのに」

「あー、いや、まあちょっと…な」

右手に持ったそれを背に隠して、左手は頬やら髪やらをばりばり掻いている。

 

 

「…っ!!」

「は、はい…!?」

あーあー、急に大声出すもんだから嬢ちゃんびっくりしてんじゃねーか。

 

 

「あ、のな。その……えーとだな…」

わたわたと動く左手。

じれったいなもう!と思っていると、嬢ちゃんが口を開いた。

 

 

「うん、なあに?銀ちゃん」

急がせるわけでもなく、促すようなその声。

銀さんには勿体無いんじゃねえの、ちゃん。

 

その声に、何かを決心したようにぎゅっと手を握り締める。

そしてゆっくり息を吐いて、口を開く。

 

 

 

 

「あのな、…お、俺とっ……俺と結婚しろォォォ!!!」

 

 

 

 

何か違うんだけど銀さあああああん!!!!!

命令形になってる!そこ、そこ違う!ほらみろ嬢ちゃんポカーンなってるでしょうがァァ!

 

 

「おっ、俺が幸せにしてやる、だから、ずっと俺の傍にいろ!」

真っ赤に染まった顔で、相変わらず命令口調な銀さん。

 

 

「…ふ、あはは、なんで、そんな命令系なの…あはははっ」

抑えきれなくなったのか、噴出すように笑い出す嬢ちゃん。

 

 

「……いいよ。ずっと、貴方の傍に、いさせてください」

 

にこり、と。

それはそれは幸せそうな顔をして、笑った。

 

 

 

「ま…マジでか。マジで言ってんのか、。絶対逃がさねえぞ」

「うん。銀ちゃんこそ、覚悟してね。絶対離してあげないから」

…っ!くっそ、愛してんぞコノヤロー!」

 

叫ぶと同時に、ぎゅううと嬢ちゃんを抱きしめた後に二人の影は重なる。

あーあー、見せ付けてくれちゃって。

つーか銀さん、俺の存在多分忘れてるだろうなァ。

 

 

 

 

「…っ…!ぎ、銀っ…」

真っ赤になった顔でぱくぱくと口を動かす嬢ちゃんの左手をそっと取る。

そして右手に持った指輪の入ったケースを片手で器用に開けて、その手の薬指に指輪をはめる。

 

 

「銀ちゃん、これ…!」

「おう。のために、糖分我慢したんだぞ。感謝しろよー」

泣きそうな笑顔でありがとう、と言う嬢ちゃんと、銀さんはとんでもなく幸せそうに笑っていた。

 

 

小さくため息をついた俺も、知らぬ間に笑顔になっていて。

ああ、今日はハツに電話してみようかななんて思いながら静かに公園を後にする。

 

 

 

 

「これに金使っちまったから、結婚式は大分先になるけど、盛大にやろーぜ」

「あはは、楽しみにしてるね」

 

 

そんな二人の幸せそうな声を背に、星が出かけている空を見上げて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

当て馬にされました







(まったく、自分で全部できるんじゃねーかよ。俺が代役しなくても、十分だったじゃねえかよ、銀さん。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

長谷川編。難しいですマダオ。

最後くらい銀さんに良い思いをさせてあげようと思ったお話。いろんな意味で終着点です。ありがとうございました!

2009/10/10