真選組屯所の廊下を隊士の人たちに挨拶をしながら歩く。

やっぱり一日の始まりはおはようの挨拶からだよね!うん!

 

「あ、土方さん、おはよーございます!」

「ああ、おはよう。お前は朝から元気だな」

「元気が私の取り得ですから!」

 

 

笑いながらそんな会話を交わしたのが、ほんの一昨日。

 

 

 

 

「…オイ。は元気が取り得なんじゃなかったのか」

「ああ…土方さん…」

はああ、と深いため息を吐きながら視線だけ土方さんに向ける。

部屋の隅で膝を立てて座っていた私に、土方さんは少しだけ驚いたような顔をしていた。

 

 

「何かあったのか。そんなコケでも生えそうな顔して」

「…総悟が…」

「総悟?」

ぴくりと土方さんの顔が引きつる。

 

最近町へ出ては強盗逮捕だの何だの理由をつけてバズーカをぶっ放しているらしい。

たぶん、それを思い出したんだろう。

 

 

 

「総悟が…ここ数日、口を利いてくれないんですよ…!」

一応恋人同士だとかそういう類の関係に、なった、はずなのだ。

私の思い上がりじゃなければ。

 

 

「何かしたのかと思って色々考えてたんですけど、これといって思いあたらなくて…」

「…と、とりあえず謝ってみればいいんじゃねえの?」

どんよりと沈んでいく私に、土方さんは少し困ったような顔をして言った。

 

 

「たぶんそれだと、謝る理由は分かってんだろーなとかなんとか言われる気がします」

とことん、理由を追究されそうだ。

特に思い当たるものが無いのに謝ったら、余計に大変なことになりそう。

 

 

「まあ、総悟もにゃそう酷ェことはしない…だろ。まあ、一度二人で話してみろ」

な、と言って土方さんは私の頭をぽんぽんと撫でる。

はい、と頷いて私はぎゅっと手を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟を決め、総悟の部屋の前に立つ。

…別に悪いことして怒られるというわけではないのに、なぜか緊張する。

 

「ま、負けるな私…」

すっと息を吸って、部屋の戸を開ける。

 

「総悟ー!ちょ、ちょっと話があるんだけどいいかなっ?」

なるべく、いつも通りのテンションで部屋に入る。

総悟は刀の手入れをしている様子だけど、こちらに背を向けたまま返事もしない。

 

 

「あ、あのさ、最近何かあった?嫌なこととか、辛いこととか…」

「……」

「私、相談なら乗るよ!上手い返事が出来るかはわからないけど、話聞くくらいならいつでも聞くから!」

気軽に相談してよ、と言っても総悟は相変わらず黙ったまま。

 

 

…さすがに、不安になってくる。

 

「ええと…それとも、私が何かしたの、かな?ご、ごめんね。色々考えたんだけど、何も思い浮かばなくて」

静まり返った部屋に私の声だけが響く。

どくんどくんと痛いと感じるくらい心臓が鳴っている。

 

 

「ね、ねえ、総悟」

ちょこんと総悟の後ろに座って肩に手を伸ばす。

 

 

「さわんな」

 

 

数日ぶりに聞いた声は、とてつもなく冷たい声だった。

「あ…ご、ごめん」

そんな拒絶がくるとは、さすがに思っていなかった。

 

ずきり、ずきりと心が痛む。伸ばしたままの手は行き場を無くして固まったまま。

 

…嫌われて、しまったのだろうか。

そう思うと余計に心が痛いと悲鳴を上げる。

 

 

「ごめ、ん…ごめんなさい…っ」

薄っぺらい謝罪しか、できない自分がもどかしい。

このまま、ずっと口を利いてもらえないのだろうか。もう、笑いかけてはくれないのだろうか。

 

 

「…っあ…」

ぼたっと涙が零れて隊服に染み込んでいく。

泣きたくなんてないのに、じわりと滲む涙は止まってはくれない。

 

 

こんなの見られたくなんてない。そう思って立ち上がる。

けれど。

 

「ひゃ!?」

ビュッと黒いものが鼻先を掠める。

思わず仰け反った所為で再び床に座り込む。

カランッという音が聞こえた瞬間、肩を思い切り掴まれて床に押し倒された。

 

 

「え、な、何…っ?!」

ドスッという音と共に、私の顔の真横に研ぎ澄まされた刀が突き刺さる。

 

 

「…ふ、っはは。なかなか、いい顔じゃないですかィ、

「え、と…?」

状況が、理解できない。

なんで私は総悟に押し倒されてるんだろうか。

 

 

ぐい、と顎を掴まれて総悟と目が合う。

「…さっきの話、全部ハズレですぜィ」

どういうことか分からず、目をぱちぱちと瞬かせていると総悟は薄く笑って私の目元に唇を寄せた。

 

 

「別に嫌なことがあったわけでも、が何かしたわけでもありやせんぜ」

止まってくれない涙を総悟の舌が掬っていく。

その感触にぞわりと肩が震える。

 

 

 

「ただ、泣いてるとこが見たかっただけでさァ」

「ど、どういうこと…?」

仰向けで倒れる私に馬乗りになったまま、総悟は楽しそうに笑う。

 

は笑ってばっかりですからねィ。あと怒ったり、ヘコんだり。…泣いてるとこは、見たことなかったんで」

そう言ってまじまじと私の顔を見下ろす。

 

 

「そ、それで今まで無視してたの…?」

「色々泣かせる方法は考えたんですけどねィ。これが一番良い泣き方してくれそうだったんで」

くくっ、と喉で笑うような声。

そして突き立ったままの刀をそのままに、総悟は私の首筋に顔を埋める。

 

 

 

「上出来でさァ、。その顔は俺だけが知ってりゃいい。他の奴には見せんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣かせたいだけ











頷いた私に、「いい子ですねィ」と言って笑った総悟の笑顔は、とても、楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

普段とあんまり変わらない気がするパート2ですね。沖田さんマジックですか。

ドS全開で泣かせるのもアリかと思ったんですけど、じわじわ泣かせる方向にしました。

なんだか前半はヒロイン、後半は沖田さんしか喋ってないという一方通行会話ですねコレ。

2011/08/20