ダンボールから自分の荷物を出して、棚や箪笥にしまう作業を進める。
引っ越しと言うのは、結構面倒なものなのだというのを初めて知った今日この頃。
やっとあとひと箱、となったところでノックと同時に部屋の扉が開いた。
「姉貴、親父がおやつだって呼んでるぞ」
「わ、もうそんな時間かぁ…。分かった今行くよ」
ダンボールにかけた手を引っ込めて、私の弟である利瀬について部屋を出た。
「っていうかあんたさ、ノックと同時に扉開けても意味ないからね?着替えとかしてたらどうすんの」
「ハッ。姉貴の裸なんか見たってなんっとも思わねーから安心しろ」
「お前ちょっとそこの階段から落ちろよ」
押すなよ!と言う利瀬の言葉を無視してぐいぐいと背中を押して階段を下りてリビングへ向かう。
ほんっと生意気なんだから。
「おっ、やっと下りてきたか」
「姉貴がノロノロしてるから悪ィんだよ」
「いや即行で作業止めたじゃん。あんた視力やばいんじゃないの」
バチバチと私と弟の間で火花が散る。
「まあ落着け落着け。そう喧嘩すんなよ、な」
ぽんぽんと私と利瀬の肩をたたいて諭す父さんをチラッと横目で見て、一息つく。
「そんなお前らに言っておかなきゃいけないことがある。来週からの学校のことだが…」
こほん、と咳払いをして父さんは口を開く。
仕事の都合で前の学校から転校し、来週から違う学校に通うことになっている。
ちなみに母さんは今は海外出張という名のお遊び旅行中なのだ。うらやましい。
「大丈夫だって、ちゃんと分かってるよ」
私も弟も、もう高校生。
転校は今回が初めてだけど、まあなんとかなるだろう。
「いや、それがな。その……お前らの制服のサイズをな、逆に注文しちゃった」
テヘッと効果音がつきそうな動作で言った。
ちょっと、待った。
「え?は?どういうことなの!?」
「おいクソ親父。なんっつーことしてくれてんだアァン?」
「利瀬怖い!ちょ、ちょっと手違いっていうかミスっちゃって」
ギッと睨みつけるように父さんを見た利瀬。
「どうすんだよ、学校来週からだろうが!」
掴み掛らんまでの勢いで父さんに食って掛かる弟をとりあえず宥める。
「その、新しい制服は注文しておいた。けど、それまで…たぶん2週間くらいはかかる」
「長ェよ!」
「落着きなさいよ利瀬!で、それ届くまでどうするの?」
問題はそこだ。
来週からの学校、どうすればいいんだ。
「まあ幸いにもお前たちは双子かってくらい似てるから、利瀬、、お前たち一週間女装男装で頑張ってこい」
「「ふっざけんなよクソ親父」」
久しぶりに利瀬と気が合った。
おやつとお茶を持って、とりあえず私の部屋に移動した。
そこで来週からの学校をどうするか利瀬と話し合うこと数分。
「やっぱりそれしか方法はないか…しょっぱなから休むわけにはいかないしね」
「はぁぁ?俺スカートとかぜってー嫌だぞ!」
「私はまあ、制服には問題ないけど」
男子制服はブレザーにズボンだから、別に抵抗はない。
「つーか俺が行くはずだった高校、男子校なんだけど」
「…ちょ、インフルエンザとかで休めないかな」
「診断書いるから無理だな。あきらめろ姉貴」
さっきの仕返しかのように笑って言われた。むかつく。
「とにかく!1週間、乗り越えればいいんだから!ちゃんと私のフリして頑張りなさいよね」
「姉貴こそ、妙なことすんじゃねーぞ」
こうして私と弟の、入れ替わり転校が決まった。
たった1週間。…大丈夫、きっと、なんとかなるはず。
転校前週
(「聞き分けの良い息子と娘でよかったよかった」「ハゲろクソ親父」「父さん今度シメる」「!?」)
あとがき
男装ものを一度書いてみたかったので、やらかしました!
長編とまではいかない、中編くらいで頑張ってみたいです。
2012/07/27