今日の授業が終わるチャイムを聞いて、僕…いや、私は教科書を鞄に詰め込んだ。

普通の授業ならなんとかやっていけそうだけど、さすがは男子校。

 

体育キッツイ。

 

 

とりあえず私は阿伏兎と一緒にバックレて屋上にいた。

初日から逃げたけど、特に何も言われなかったあたりこの学校はそういうの黙認なんだろうか。

そんな素朴な疑問を阿伏兎に投げかけてみたら、もっとすごいことしてる奴がいるせいで

この程度のことは霞んでしまうらしい。ちょっと待って何が行われてるのこの学校。

 

 

はあ、と出そうになったため息を飲み込んで私は星海坊主先生に言われた学生寮の部屋へ向かった。

「えっと、201か…」

壁際のその部屋の前で立ち止まる。

 

 

あれ、私鍵もらってなくね?

 

 

「えっ、あれっ、ちょっと待ってよ先生ありえないでしょ何この初歩的なミス!」

 

ガチャッ。

なんとなく捻ってみたドアノブが、何の抵抗も無く回った。

ちょっと待って入る前に空き巣?いま入っても何も盗るもの無いですよ。

 

 

でもせっかく開いたんだし、と思ってそっと中に入ってみる。

「…お、お邪魔しまーす…」

「はーい」

「………」

 

 

奥から声が聞こえた。しかもすごく聞き覚えのある声。

「おっ、やっと来たな!ったくよー、待ちくたびれたぜ」

「…何してるんだ、銀時」

制服をゆるく着て奥の部屋から出てきたのは銀時だった。

どういうことだ、相部屋なんて聞いてないぞ愚弟。それから先生。

 

 

「その顔は相部屋って聞いてなかった顔だな」

「まったくだよ…どういうことだよ…」

「あー、たぶん俺に連絡した時に利瀬にも伝えた気になってたんだろうな」

ぜんっぜん伝わってないよ!ふっざけんなよ先生!

 

「ま、これから仲良くやろうぜ」

ぽんぽんと肩を叩かれ、少し気持ちが落ち着いてきた。うん、今度先生に文句言っておこう。

 

 

 

「ところでさ。さっきの利瀬、声なんか違くなかったか?」

「気の所為だよ銀時!」

ゴホンと咳払いをして声のトーンを低くする。

しまった、家でもこの声でいなきゃなのか…それはつらいな…。

 

 

「あ、そうだ。利瀬の部屋はそっちな。こっちが俺の部屋」

廊下を真っ直ぐ進んだ先が銀時、推定風呂の横であろう部屋が私の部屋になるわけだ。

「前いた奴が綺麗に掃除してったから、そのまま使えると思うぞ」

 

 

銀時の声を聞きながら部屋の扉を開ける。

確かに、そこは綺麗に掃除されていて今からでも問題なく住める環境になっていた。

ベッドは備え付けのもの。クローゼットもある。

 

 

廊下に戻って、私の部屋の隣にある扉をあけると洗面所と風呂場があり、その隣がトイレ。

なんだこの寮にしては無駄にハイスペックな部屋。

 

 

「ここ無駄に寮だけはいいよな。なんかプライベート?プライバシー?を確保するためらしいぞ」

「へえ。すごいな、学校があんな感じだったから心配してたんだけど…よかったよ」

部屋が分かれているなら、多少気は抜ける。着替えとか色々。

 

 

「ちなみに銀時。勝手に僕の部屋に入らないように」

「んだよ、お前もそういうタイプかよ。男同士なんだから細けーこと気にすんなよな」

 

生憎、私と銀時は男同士じゃないんだよ残念だったな。

そう心の中で呟いた瞬間だった。

 

 

「それとも、お前本当は男じゃなかったりする?」

 

 

フッと背中から耳元にかけられた声に心臓が跳ねる。

いや、だめだ、ここで動揺したらバレる!

 

 

「…なわけないだろう。なんだい、身長のこと言ってるのかい、僕が気にしてる身長のことかい」

バッと振り返ってギッと睨みつけるようにして言い返す。

 

「あ。やっぱ気にしてんだ。まあおめー可愛い顔してっから、そんくらいの身長でいいと思うけどな」

ははっと何事もなかったかのように笑う銀時。

今は自分の頭に手を置いて、そのまま平行移動させて私との身長差を測っている。

 

「…男として身長は大問題だよ」

そんな台詞で誤魔化して安堵のため息を吐く。

いくらなんでも初日からバレたら残り6日間やってられない。

 

 

 

「あ。そういや利瀬って飯は作れる方か?」

「んー…まあ、簡単なものなら」

できなくはない。たまに失敗して弟に文句言われたりもしてたけど。

 

「ならいいや。一応飯と風呂掃除は当番制な」

「うん、共同生活になるんだしそれくらいはするよ」

頷いて返事をすると銀時はさんきゅ、と言って笑った。

 

 

「それと、明日僕の残りの荷物が届くんだけど…もし僕がいなかったら受け取っておいてもらえるかな?」

「おお、いいぜ。ちなみに」

「中身は絶対見るなよ」

「ですよね」

 

 

 

 

 

寮生活の始まり




(しっかし、綺麗にされてるなあ。前にいた人って結構几帳面だったのかな。…てか、大丈夫だろうか私)

 

 

 

 

 

あとがき

前に住んでた人はオリジナルキャラではありません。予想して楽しんでみるのも一興。

銀時が気付いているか否かは、まだ分かりませんえん。

2012/07/27