やけに赤い夕焼け空を眺めながら学校の帰り道にスーパーへ寄る。

今日の夕飯は何にしようか、そういえば銀時の好き嫌いをまだ聞いてないな。

 

適当に買い物を済ませ、レジに並んで会計を済ませる。

かたん、と買い物かごをレジ付近の台に置いて持ってきた自分の袋に食材を詰め込む。

確か冷蔵庫に入ってたよな、と思って買ったいちご牛乳のパックを袋に詰め込んだ時、フッと隣に影ができた。

 

 

 

「…げっ。何してんだよ、姉貴」

「利瀬あん…た…」

隣に立ったのは、実の弟だった。それも、私と同じ行動をとったのであろう、制服姿の弟。

 

 

「ぶっ、あっはははは、超制服似合わない、きもちわるっ、あっはははは、げほっげほ」

「咽るほど笑うんじゃねーよ!つーか姉貴こそハンパなく童顔に見えるぞクソガキ」

「なんだと」

「あぁん」

ギリギリと睨み合うようにしながらも手はしっかり作業を進める。

ひととおり食材を詰め込んでから利瀬の方へ顔を向ける。

 

 

 

「…ねえ、夜に近況報告メールしなさいよ」

「は?」

ビニール袋に食材を詰め込む弟の手が止まる。

 

 

「ほら、一週間後には私たち入れ替わるわけだから、それなりに状況分かってないと違和感あるでしょ」

今日だって、退にもう忘れないと言ったばかりだ。

 

「…確かに、一理あるか。わーったよ、それなりに必要そうなことはメールする」

「うん。よろしくね、利瀬」

それじゃと言って荷物を持って歩き出そうとした時、ぐっと手を引かれてその場に立ち止まる。

 

 

 

「…気をつけろよ、姉貴」

眉間にしわを寄せて言う利瀬は、いつもみたいなからかうような態度ではなかった。

何のことなのか分からなかったけれど、とりあえずうん、と返事をしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリと鍵を開けて夜兎寮の201号室に入る。

「ただいまー」

「うおおおおおいちご牛乳ぅぅぅ!!」

おかえりでも遅かったなでもなく、まったくもって予想外の声が聞こえてきた。

 

 

「いや、買ってきたけどさ。いきなりそれはないだろう」

「でかした利瀬!」

バッと私の手から買い物袋を奪い取って台所へ向かい、食材を冷蔵庫にしまいながら銀時は口を開く。

 

「いやー、もうすぐ無くなるから買っておいてくれって言おうと思って忘れてたんだよな」

靴を脱いで家に上がる私に目もくれず、さっそくコップにいちご牛乳を注ぎ出した。

 

「…もしかしてさ、銀時って甘党?」

「おう。いやー、糖分は良いもんだな。神の食べ物だよ。あ、俺好き嫌いとか特にねーから」

「そう」

聞こうと思っていたことを先に喋ってくれてありがとう、と思いながら返事を返す。

その時ふと部屋の前に段ボールが置いてあることに気付いた。

 

 

 

「ああ、それお前に届いてたぞ。昨日言ってた引越し荷物か?」

「うん。受け取っておいてくれたんだね、ありがとう」

律儀に部屋の中ではなく、廊下に置いておいてくれたのか。結構気がきくじゃないか銀時。

 

おう、と銀時が笑った時だった。

ドオオオン、と物凄い轟音がミシミシと部屋を鳴らした。

 

 

「な、なんだ!?爆撃?!」

「あー。多分またあいつだな…」

はあ、と銀時はうろたえることなく空になったコップを流し台に置いて、外出りゃわかるぞと言った。

 

 

 

がちゃ、と恐る恐る玄関の扉を開けて外に出るともわもわと灰色の煙が立ち上っていた。

 

「てめええ総悟ォォ!何やってんだ、げっほげほげほ」

「チッ、仕留め損ねやした」

「総悟ォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

「なんだいあれ」

「あー。お前も知ってるだろ?同じクラスの沖田くんと土方くん」

がりがりと頭をかきながら外へ出て、フェンスに凭れかかるようにして1階を見下ろす。

 

「それは分かるけど、どういうことなんだよ、仕留めるとか聞こえたけど」

ていうかなんであんな煙が出てるのさ。

 

 

 

「ん?何でィ利瀬、おめー旦那と同じ部屋だったんですかィ」

私に気付いた総悟と呼ばれた彼が上を向いて言う。

ああ、転校初日に見たっけ。ちょっとクセのある喋り方する奴だ。

 

「そうだけど…。それより何してるんだい、沖田くん」

「総悟、でいいですぜ。ちょっと花火を爆弾に改造してたんですけどねィ。威力が足りなかったみたいでさァ」

威力は十分足りていると思う。

 

 

「隣の土方コノヤローがうざ…うるさいんで、ちょっと注意してやっただけですぜ」

「さっき仕留めるとか言ってたよね、殺す気満々だったんだろ総悟」

不慮の事故でさあ、と笑い飛ばす総悟に少しぞわりとした。

 

 

「てめ、近所迷惑だろうが!」

少し散った煙の中から出てきたのは昨日の私の救世主である土方くんだった。

 

「あーあー、うるせーんだよお前ら。俺の至福のいちご牛乳タイムを邪魔しやがって」

傍観していた銀時が1階に向かって、というより土方くんに向かって叫ぶ。

なんなんだろう、土方くんはいじめられっ子なのだろうか。

 

 

 

「…総悟ー。悪いんだけど僕、昨日土方くんにお世話になってさ。だから今日のところは見逃してやってくれないか?」

少し叫ぶように声量を上げて下に向かって叫ぶ。

総悟はちらりと私といまにも総悟に掴みかかりそうな土方くんに目配せして、ふうと一息ついた。

 

 

「仕方ありやせんね。花火の調整もしたいですし…今日のところはこれくらいにしといてやりまさァ」

「二度とすんじゃねーよ!!」

まったくだ。

それじゃ、と言ってさっさと部屋に戻った総悟を見送った後、土方くんに利瀬、と名前を呼ばれた。

 

 

「ありがとな。これからまたこういうことあると思うけど、まあ…大丈夫だから巻き込まれないように気をつけろよ」

「うん、ありがとう」

昨日の借りはこれでチャラだ、と笑った土方くんにまた銀時が余計な事を叫ぶ。

 

 

「オイ、マヨ方。てめー俺んときは何も言わなかったじゃねーか贔屓かコノヤロー」

「マヨ方言うんじゃねえよ!テメーと違って利瀬は普通の奴なんだよ、巻き込むわけにいかねーだろ!」

負けじと叫び返してくる土方くんと銀時を交互に見る。

 

 

「はああ?俺だって普通だろうが!おめーみてーなマヨネーズ依存症とは違うんだよ!なあ利瀬!」

「マヨネーズは神の食べ物なんだよ!てめーみたいな糖尿野郎に貶す権利はねぇよ!なあ利瀬!」

「僕のことは放っておいてください」

 

 

 

わかった。この二人、犬猿の仲なんだ。

息が合うゆえに、似た者同士ゆえに反発する、そういう仲なんだろうな。

 

 

 

 

 

 

近所に不安を感じた日







(どうやって弟に報告するかな…長文メールになりそうだなあ。めんどくさっ。)

 

 

 

 

 

あとがき

前に住んでた人はオリジナルキャラではありません。予想して楽しんでみるのも一興。

銀時が気付いているか否かは、まだ分かりませんえん。

2012/08/12