「ただいま…」

がちゃりと寮の扉を開けて室内に入る。

 

「銀時ー?いないのかな…」

おかえり、と返ってこない声を少し待ちながら廊下の突き当たりである銀時の部屋をノックしようとして手を止める。

 

 

何やってるんだろう私。

銀時に話てどうするつもりなんだろう。

神威って知ってるかい、あの力って一体何なんだい、助けて、怖い、こわい。

 

 

 

「…はああ…だめだな、雨の所為で気が沈んでる」

そっと銀時の部屋の扉に手を当てて俯く。

今の私は利瀬であって、刹那じゃない。女の子じゃないんだから、怖いとかすぐ言うのはよくないのだろう。

 

 

 

 

「やっぱり、私…」

「わたし?」

背後から聞こえた私以外の人間の声にバッと体を反転させる。

 

 

 

「わたしじゃないよタワシだよ。なあ銀時タワシって武器になると思うかい?」

「あーどうだろな。とりあえず痛ェんじゃねーの?裸足で踏んだりとかしたらさ」

とっさに出た言葉に首を傾げながら答える銀時は、上半身裸のまま首からタオルをかけて私の後ろに立っていた。

下を穿いていてくれたことは何よりの幸いである。

 

 

「つーかいきなり武器って何?俺に奇襲作戦でもする気?やめろよ、布団にタワシ敷き詰めるとか」

冷蔵庫からいちご牛乳のパックを出し、コップになみなみ注いでから再びパックをしまう。

 

 

「銀時にそんなことしないから大丈夫だよ。ちょっとさ、その…喧嘩売られちゃって」

「喧嘩!?利瀬みてーな全然喧嘩できそうにない奴に!?」

「そ、それはまあそうだけど。いくらなんでも直球すぎないかい」

本当は女だから仕方ないのかもしれないけど…あ、そういうキャラ装ってるからか。

 

 

「で、大丈夫だったのか?」

 

ぐいっといちご牛乳を飲み干して銀時はスッと真面目な顔になる。

「ああ、うん。まあなんとか。阿伏兎が助けてくれたし」

「アイツが?そりゃまた珍しいな…。そんで相手は?」

「えっと、神威って人なんだけど…銀時は知ってるかい?」

「………」

 

そう尋ねた瞬間、銀時の顔が形容しがたい感じに歪んだ。

なんというか、うわっまじで?よりによってアイツ?と言いたそうな感じの顔だ。

 

 

 

「マジかよ、お前よく生きてたな」

「やっぱりそれくらい危ない人なんだね!?」

怪我してないとか奇跡じゃね、と顎に手を当てて頷く銀時。

 

 

「あはは、できれば今後学校内で会わないように気をつけて生活したいとこだね…」

「そりゃ無理だろうな」

なんで、と問う前に銀時はぽんと私の肩に片手を乗せて、ひとつ息を吐く。

 

 

 

「あいつ、俺らと同じクラスだから」

 

 

 

 

「ええええええええ!?初耳だよ!そもそも今まで教室で見たことないよあんな三つ編みピンク!」

「すげえ表現だな。一発で分かるけど」

首にかけていたタオルを頭にかぶせ、がしがしと乱暴に髪を拭く。

そういうことすると天パ悪化するじゃないのかい銀時。

 

 

「ほとんど登校しねーから、遭遇する可能性は低いと思うけどな。まあ何かあったら…」

フッと銀時は優しく笑って私の肩にぽんと手を乗せる。

 

 

「先生に言えよ。俺、まだ死にたくねーから」

「………」

 

 

 

くっそ!ほんの少し期待した私が馬鹿だったよ!銀時はもっと馬鹿だチクショー。

 

 

 

「とりあえずお前も風呂入ってこいよ。なっ」

「そうだね行ってくるよ。じゃあな!!!」

勢いよく扉を開けて自分の部屋に着替えを取りに向かう。

心なしか声に怒気がこもった気がするけど、相手は銀時だし特に気にしないことにした。

 

 

「え?なんで怒ってんの?あっ一番風呂がよかったとか?」

 

ちっげーよ!と叫びたかったけれどぐっと言葉を噛み殺して耐えた。

 

 

 

 

 

的外れピロートーク







(…あれ。でも、恐怖感は吹き飛んだ、かな。)

 

 

 

 

 

あとがき

中身は普通の女の子ですから。怖いことだってあるんです的なお話。

2012/09/01