木曜日。一週間の疲れが出てくる頃だけど、ぐっと伸びをして学校へ向かう。
教室に到着するなり机に突っ伏して寝始めた銀時を桂くん、もとい小太郎に任せて私も席につく。
あと少し、あと少しこの生活に耐えればいいんだから。
「で。確認なんだけど、阿伏兎も夜兎族っていう太陽が苦手な種族なんだよね?」
「おう」
「なぜ、昨日の彼も学校来てるんだい」
「…や、そればっかりは俺にもわかんねェわ」
こっそり阿伏兎の陰に隠れるようにして丁度直線状に進んだ先の席に座る三つ編みピンク男を視界の端に捉える。
一番窓際の席にいる彼はカーテンを閉め、更に日傘を開いて窓辺に置いて万全の日よけ対策をとっている。
「そもそも、校則的にあれはいいのか…?あそこだけ彼の城になってないか?」
「種族的に仕方ねェから校則にはひっかからないんじゃねーの」
俺も寝たいんだけどとかブツブツ言ってる阿伏兎に隠れながら今日は一日を乗りきるしかないな。
そう思いながら朝のホームルームの始まるチャイムを聞いた。
なんとか授業は進み、お昼休みは退と共に屋上の日陰部分で過ごした。
なんか今日疲れてない?と尋ねる退に、まあ色々あって、と返事をしてお茶を流しこんだ。
そして教室へ戻り、授業が始まる時にふと窓の方へ視線を向けると何か違和感があった。
そう、あの目立つピンク色がいなくなっていた。
ついでに阿伏兎もいなくなっていた。
もしかして、帰ったのかな。
…うーん、恐怖からとはいえ避けるような態度をとってしまったのはやっぱりマズかっただろうか。
心の中でごめん、と言ってから私は午後の授業に集中した。
午後の授業が終わり、銀時に今日の買い物を任せた帰り道。
真っ直ぐ帰っていたのだが、どうも妙な気配を感じる。
少しだけ寮から離れた公園へ足を向ける。
遊具は錆びており子供も見当たらない、小さな公園。
「…僕に何か御用ですか」
「へえ。俺の気配を感じ取るとは、やるじゃねえか」
左目に眼帯、着崩した恒道館高校の制服。
なんとなく目の前に立つ人物が誰なのか予想はついたけれど、ひとまず知らないフリを貫くことにした。
「さすがはの弟、ってか」
やっぱアイツか!!!愚弟め、ほんっと何をしてくれてるんだ!!!
お姉ちゃんは平和に学生生活を送りたいんだよ邪魔するんじゃないよ!!!
「…姉さんがご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません」
姉さん何も迷惑かけてないけどね!迷惑かけたの弟の方だけどね!!
「くっ、ははっ。迷惑なんかじゃねえよ。つまんねー学校にもやっと少し刺激ができた」
にやりと口角を上げて笑う目の前の男は神威とはまた違った威圧感を纏っている。
ぐっと鞄の取っ手が軋むほど力を入れ、後ずさらないように足にも力を入れる。
「僕は…きっと、あなたの刺激には成り得ませんので、失礼します」
威圧感に負けないよう、強い足取りで彼の横を通り過ぎる。
そのほんの一瞬のタイミングを狙ってか偶然か、彼は口を開く。
「姉よりも可愛い顔した弟もいるモンなんだな」
ぞくりと全身の産毛が逆立つような感覚に陥る。
目を見開いたまま、無意識に彼を振り返ってしまった。
先ほどと同じ、いや、それ以上に楽しそうな笑みを浮かべながら彼は私の顎に手をかけて視線の高さを合わせる。
「そういう表情は、そっくりだけどな」
「…僕と姉さんは姉弟だから、当たり前だよ。なにも不思議なことじゃない」
喉が乾燥してばりばりしている。
早く帰らなければ、早く逃げなければ。このままじゃ、気付かれてしまう。
ぐっと足に力を入れて逃亡の準備をした瞬間、突如何かが上から落ちてきたのだろうか。
ドオオンという音と共に土埃が公園に舞い上がり、ぎゅっと目を瞑る。
ごほっと咳き込みながら薄眼を開けて前を見る。
「やだなあ高杉。他校の生徒にまで手をださないでよ。俺の楽しみがなくなっちゃうだろ」
目の前にふわりと揺れたのは、今朝からずっと視界に入れないようにしていたサーモンピンク。
「珍しいじゃねえか、こんないい天気の日に会うなんてな。……神威」
波乱の木曜日
(今日の夕飯なんだろうなあ…銀時のご飯結構美味しいんだよな…早く帰りたいなあ………。)
あとがき
まるで夢小説の様な展開だ。←
2012/11/03