目覚まし時計が鳴らない日曜日。

おそらく銀時はまだ寝ているだろう。

平日でさえ起きてこないのに、今日に限って起きているわけがない。

 

だって、彼にとっては今日もいつもと何も変わらない、ただの日曜日なのだから。

 

 

 

 

「…ふ、華麗に立ち去ろうと思ってたのになあ…」

手鏡で見た自分の顔は、テスト前の寝不足顔とほぼ同じ。

昨日のアレのせいで、神威が最後にやらかしてくれたアレのせいでなかなか寝付けなかったのだ。

「最後に郵便ポストに画鋲でも入れていってやろうか…」

いやでも、なんとかして家の住所を探し出して復讐されそうだからやめておこう。

 

 

明日から…いや、午後からここは弟が使うことになる。だから家具の移動は必要ない。

化粧品や小物、持ってきていた本を少し大きめの鞄につめて立ち上がる。

 

なんだかんだで、楽しかったな。

 

 

みんなは気付くだろうか。いや、気付くよね。いくらなんでも。

まあ質問攻めに合うのは弟だからどうでもいい。

 

 

 

少しだけ寂しい気持ちになりながら、部屋をもう一度振り返る。

いままでありがとう。そう心の中で呟いて静かに部屋の戸を開ける。

 

静まり返った部屋。

物音を立てないように、そっと廊下を歩いて玄関へ向かう。

玄関の扉の鍵を解除して扉を開けようとした時。

 

バンッと思いっきり扉が開いた。なぜか、外から。

 

「よう利瀬、朝からお出かけとは元気だな!!」

「うおわァァァ!!な、ぎ、銀時!?」

いるはずないと思っていた、というより部屋にいると思っていた人物が真逆の方向から出てきた。

アレッ、玄関開けたよね?部屋の扉開けたわけじゃないよね?

 

 

「び…びっくりしただろうが!!一丁前に朝帰りなんかしてるんじゃないよ!!」

「年頃だから朝帰りするんだろうが!」

どくどくと鳴る心臓を抑えるように右手を胸に当てる。

 

「それより、そんな大荷物でどこ行くんだよ」

「じ、実家に帰るんだ。なんか用事があるらしくて、昨日メールが来ててさ」

大丈夫、今まで隠し通せてきたんだ。落ちついて対処すれば大丈夫に決まっている。

 

「明日も学校なのにか?」

「あぁ。まあ夕方頃には戻るつもりでいるよ」

戻ってくるのは私じゃないけれど。

 

 

「そういうわけだから、道開けてくれるかな」

玄関の扉は開け放たれたまま、唯一の出入り口に立ちふさがる銀時を見上げて笑う。

「へいへい。ま、気をつけて行ってこいよ」

「うん」

すっと扉と一緒に道を開けてくれた銀時の横を通り過ぎる。

ふわりと男から漂うには甘すぎる香りを一瞬感じて、思わず振り返った。

 

 

「いってらっしゃい」

だるそう、あくびまじりで言う銀時。

 

 

「…いってきます」

おやすみ、の方がよかっただろうか。

そう思いながら私は結局セオリーの言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮を出て、バス停へ向かって歩く。

鞄に入れた携帯電話には、着信もメール受信も無い。

再びそれを鞄に戻した後で、ついでにバスの時間を調べればよかったと思った。

 

 

一週間。

たった、一週間。

それなのに随分と色々なことがあった。

 

 

不安と嫌悪しかなかった転校初日からは考えられないくらい今の生活を楽しいと思っている。

銀時と登校して、阿伏兎におはようを言う。

それから総悟と土方くんの喧嘩を見て、止めに入った退くんが巻き添えをくらって。

桂くんたちとそれを眺めながら、先生が来るのを待つ。

 

 

そんな日常は、今日で終わり。

なんだか卒業式の日みたい、と心の中で呟くと丁度バス停に到着した。

 

時間まで、あと数分。

屋根はあるものの太陽の向きのせいで日陰にはなっていない停留所のイスに荷物を置いて座る。

 

 

いってきますと言い残してきてしまった銀時に、ただいまを言えないことだけが少し心にひっかかっている。

 

 

 

 

「…ごめんね、銀時」

 

 

 

 

 

 

終末の日曜日










(誰かが追いかけてきてくれないだろうか、引き止めてはくれないだろうか。なんて、思っちゃいけないのに。)

 

 

 

 

 

あとがき

終末の週末。

2013/07/27