ぽつりぽつりと雨が降る。
地に流された血を流すように。
「暇だわ」
「結構なこった」
外を眺めながら言った私の言葉に、隣で寝転ぶ銀時がゆるく返事を返した。
攘夷戦争の真っ直中ではあるが、今は休戦中だ。
いつの間にか小雨だったはずの雨が大粒の雨に変わっている。
「ヅラとか高杉とか、坂本とか…今日はいないの?」
「高杉と坂本はアレだろ、遊郭だろ。ヅラは野良猫でも追いかけてんじゃねーの」
「雨の日に?」
「知るかっつの」
ふああと大あくび交じりの返事だ。
「…銀時は一緒に行かなかったの?」
ぼろ小屋の窓から外を見つめたまま、私はそう呟いた。
「行くってなんだ、遊郭か?行くわけねーだろ」
視界の外で人が動く気配を感じ取り、少し体を強張らせる。
「遊郭なんざ行ったところですることねーんだよ。俺が抱きたい女はここにしかいねーんだから。なぁ、」
「…そうやって微妙に下ネタ挟んでくるからモテないのよ」
ぎゅうっと後ろから抱き込むように回ってきた腕が胸に当たる前に叩き落とす。
「いってェ!手加減しろよな」
「嫌よ。こんな、いつ誰が来るか何が起こるかわからない場所でそんなことしたくないわ」
「じゃあ誰も来なくて平和な日ならいいんだな?」
にまっと笑って銀時が顔を覗き込んでくる。むかつく。
「いいわよ、そんな日が来たらね!」
「言ったな!よっしゃぜってーだぞ!」
叫ぶように、愛おしむように声を上げながら銀時は私をぎゅううっと抱きしめた。
思わず、きゃ、なんて上擦った声が出てしまって恥ずかしくなる。
「あー、はやく戦争終わらせてと色々やりてーな」
「もうちょっとときめく台詞にしてよ…」
後ろから私の首筋に顔を埋めてくる銀時の髪を撫でる。
雨の所為でいつもとちょっと違った感触に少し笑った。
「でも、早く、平和になるといいね」
ずっと笑っていられたらいい。
ずっと、この人の隣にいられたらいい。
この人が、幸せであることを願っている。
「銀時」
「んー?」
幸せでいてね。
「だーいすき」
幸せの休戦日
(…え、これで手ェ出すなって俺なにを試されてんの?)
2015/08/16