「――――っ!!!」

 

がばっと水平になっていた体を起こす。

冷や汗がこめかみを伝い、前髪をかきあげるようにして汗を拭った。

 

「なんだ、夢か」

「じゃねーよ!!何いきなり起き上ってんですか、びっくりすんだろうが!!」

顔面蒼白の新八が室内箒を握りしめて叫んでいる。

え、なに、俺に怒ってんの?

 

 

「うるせーな、心臓止まりそうな夢見たら飛び起きるだろ」

「僕の方が心臓止まりかけたわ!!」

だめだ、ソファで寝るもんじゃねぇな。しかも昼間に。

 

 

仕事もない、ジャンプ発売日でもない、金ねーからパチンコにも行けない、くっそ暇な日だ。

微妙に覚醒しきっていない頭を覚ますために冷蔵庫へ向かい、とっておいたいちご牛乳をぐっと呷る。

後ろから「オッサンか」という声が聞こえたがもう無視だ無視。

 

 

「ただいまヨー」

 

がらっと玄関が開くと同時に神楽の声が聞こえてくる。

どこか行ってたのだろうか。昼間から子供は元気なこった。

 

 

「お邪魔します」

 

どこか緊張気味な声は、万事屋の人間のものではない。

俺は洗い終わったコップを置いて居間へ戻る。

 

 

 

「うわ、神楽ちゃんそれどうしたの」

「転んだアル。だから早く救急箱持ってこいヨ」

「ああ、うん…っぶ!」

後方を確認せず振り返った新八が俺に激突する。

ちょ、怖いな!至近距離に立たないでくださいよ!と抗議してくる声が耳を通り抜けて行く。

 

 

そんなことよりも、だ。

 

神楽の隣に立つ女をじっと見つめる。

 

「あの、えっと…お邪魔してます」

 

 

無言で見つめる俺に怯んだのか、目を泳がせながらそう言った女に問うため口を開こうとした時だった。

を凝視するんじゃないネこの変態!!!!!」

「ぐおええええっ!!」

思い切り神楽に腹を蹴り飛ばされ、襖に体がめり込んだ。

ちょ、まって、さっきのいちご牛乳が逆流する!

 

 

「ええええ、か、神楽ちゃん、すごい音したよ!?」

「ふん、変態には当然の報いアル」

「僕的には襖の方が心配ですけど」

眼鏡テメーあとで覚えてろよ。

 

いやそれより、さっき何て言った。

 

めこっと襖から脱出し、再びそいつの前へと戻る。

「な、名前、っていうの?まじでちゃんなの?」

「え?は、はい」

 

そう返す脅えた目に覚えはないが、その声、外見、目の色、指が俺の記憶と一致する。

 

 

 

「なあ、前にどこかで会った覚えねぇ?」

「いえ…初めてだと思いますけど」

ゆらぐ瞳に嘘はない。

 

「何初っ端から口説こうとしてんだこのゲス野郎!」

「ぐえぶっ!!」

神楽のひざ蹴りが脇腹にダメージを与えてくる。

その衝撃でよろめいた所でまた新八にぶつかった。

 

 

「うわ、なんなんですかもう。邪魔ですよ」

「酷くね?お前ら俺に対して酷くね?…ってなにその救急箱」

俺の傷はそういうんじゃ治らねーよ、と言うと新八に違いますよとすぐさま返された。

 

その救急箱が俺のためじゃないとすれば、残るは一人だ。

 

「怪我してんのか?どこだ、どこをだ!?」

「えっ、えっあの」

驚きに目を丸くするそいつの細い腕を掴み、上から順に視線を下げて行く。

 

「っそうだ、腹、腹は…ッ!」

帯が巻かれたそこへと手を伸ばす。

が、その手が届くことはなかった。

 

 

「死ねェェェェエ!!!」

「ぐばっ!!」

バキバキッという物が破損していく音と同時に俺の視界に空が広がる。

わあ、すげー良い天気。

 

 

 

 

 

「ごめんヨ、銀ちゃんがあそこまで変態だとは思ってなかったアル」

「び、びっくりした…」

その場に座り込むに寄りそうように神楽と新八も座り込む。

 

「でも、なんか今日の銀さんおかしいよね。いつもはあそこまでじゃないのに」

救急箱から消毒液とガーゼを取り出しながら新八は首を傾げる。

「ある程度はそういう人なんですか…」

「えっ。あー、えーと…うわ、否定しきれないや」

困ったように笑いながらもテキパキとの怪我の手当てをしていく。

 

 

少し擦りむけている膝に消毒液を塗り、ガーゼを当てる。

「ありがとうございます。えっと、しんぱち、くん?」

「ああ、そういえばあの人の所為で言い忘れてました。志村新八です、神楽ちゃんがお世話になっています」

「いえいえ、こちらこそ。私はです」

ぺこりとお辞儀し合い、は神楽の手をとって立ち上がる。

 

 

「新八、私はを送ってくるネ。後の事は任せたアル」

「うん、気をつけてね。…後の事?」

じゃ!と言って神楽はの手を引く。

 

えっあの、お邪魔しました、と新八に再びお辞儀をしていった彼女を見送り、新八は万事屋に空いた穴に目をやる。

「…後の事ってこれかァァァ!!」

 

そういえば銀さんは、と思い外へ出て階段の上から道を見下ろす。

落下したままの状態で倒れる銀時を覗き込む二人と野次馬の間を、先ほどまでそこにいた二人が駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旦那ー。万事屋の旦那ー、生きてやすかー。バンジージャンプは紐付けてやるもんですぜ」

「…さっき俺の天使が見えた」

「土方さん、駄目っぽいでさァ」

「よしトドメを刺せ」

 

 

 

 

 

それは再会か初会か









(なあ神様。あんたは俺に一体なんの試練を与えているんだ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015/08/30