俺もどっちかっつーとSの方だ。
そして、神様もどうやらそっちの方らしい。
「あれ、旦那。珍しいですねィ、煙草屋で会うなんて」
「俺もだわ。なんでここにいるのかなー沖田くん」
決して良い意味を含んでいない笑顔を向けられ、顔が引きつる。
「ひょっとして旦那ですかィ」
「あ?なにが?」
そう問い返したところで煙草屋のカウンター奥から声がした。
「沖田さん、お待たせしてすみません。はい、どうぞ」
はそうにこりと微笑んで沖田くんに煙草1カートンが入った袋を手渡す。
「なに、いつから煙草デビューしたの」
「吸うのは俺じゃありやせん」
そう言って沖田くんはにたりと笑う。
「今から張り込みなんで、暇になるだろーから土方さんへの差し入れを改造する計画を実行しようと思いやしてね」
「…え?えっ??」
「なんで張り込みっつってんのに暇になるんだよ。改造計画は実行してくれてかまわねーけど」
「さ、坂田さん!」
は改造計画という言葉に不穏な気配を感じたのか、慌てるように俺を見る。
あーやっべ可愛い、まじ可愛い。
「そんじゃ、俺はこれで」
「お買い上げありがとうございます…?」
まだ少し心配なのか首を傾げながら沖田くんを見送る。
店の前へと進み、沖田君とすれ違うその一瞬、とん、と肩を叩かれた。
「旦那。煙草も麻薬も、ハマる前にブレーキかけておかないと痛い目みやすぜ」
いや、煙草も麻薬もべつに吸うつもりねーけど。
と返せなかったのは、沖田くんの目がいつもと少し違って見えたからだろうか。
「坂田さんは買っていかれないんですか?」
「え」
煙草、と小さなショーウインドーに並んだ煙草の銘柄を指差す。
そういやそうだよな。何しに来てるんだって思われるのは当然だろう。
「ま、また今度」
「ふふっ。無理にとは言いませんよ、売っておきながらなんですが、体によくないものですからね」
カウンターに背を向けて凭れかかると、俺の少し後ろから笑い声がする。
涼しい風が吹く、晴天の下。
江戸の町のど真ん中じゃない分、人の声は少なく清閑な通り道。
昼寝するのに丁度良いだろうな、なんて思った。
「坂田さん」
そう呼ばれて少し首を後ろへ向ける。
はカウンターに肘を突いて指を絡めながら視線を落とした。
「坂田さんは…男女間の友情は成立すると思いますか」
一体何を問われたのか、頭が追いつかなかった。
男女間の友情?
今まさにそれを踏み外そうとしている俺にそれを聞いちゃうの?
「……さーな。そりゃ、人によるんじゃねーの?」
視線を空へと向ける。
なぜか、の顔が見られない。
「俺は…」
俺は、成立、させたくない。
「…すると思うぜ。女だろーが男だろーが、関係なく仲間っつーかなんつーか」
「ほんとう?」
声が耳に響く。
が顔を上げたのだろうか。
「坂田さんは、私が…私と、お友達でいてくれますか?」
言いかけて消えた言葉が何なのかは分からない。
それでもその問いには、たったひとつの答えしか許されていない。
「当然だろ」
それが、一番いい答えなんだろう?
晴れていた空がよどんできた頃、俺は万事屋へと帰ってきた。
ちょうど帰った頃にぽつりぽつりと雨が降り出し、セーフ、と心の中で呟いた。
「あ、おかえりアル銀ちゃん」
居間で定春とじゃれていた神楽が振り返る。
ただいまと返事をして、ふと窓が開きっぱなしになっているのに気がついた。
「バッカおめー、雨降ってきそうな時は窓閉めろっつの」
「銀ちゃん」
呼びとめられるのを無視して窓際へ向かう。
「銀ちゃん、またのとこ行ってたアルか」
「……」
それが、なんだ。
「、いい子アル。優しくて可愛くて、大好きヨ」
同意するかのようにくうん、と定春が声を上げる。
「銀ちゃんもそう思ってるんでしょ?」
「そーさな」
ぽつりぽつりと降り始めた雨が窓枠に当たって跳ねかえる。
「それ、私と同じ大好きなら良いネ。でも、そうじゃないなら、早めに止めておいた方がいいアル」
今日2回目だ。その言葉。
「、もうすぐじゃなくなるって言ってたアル。もうすぐは――――」
神様。
俺に恨みでもあるのか。
どうしてまた、俺から大事なものを引き離させようとするんだ。
雨は、強くなる一方だ。
友情は成立する
(ただし、させたいかさせたくないかで問えば、後者である。)
2015/10/24