「結婚するんだって?」
そう問いかけると、は目を見開いて驚き、顔を赤く染め上げた。
「ど、どうして知ってるんですか?」
「神楽から聞いてな」
「ああ、そっか、そうですよね」
照れる、と顔を両手で覆うも指の隙間から見える頬は真っ赤だ。
「言ってくれりゃよかったのに。お祝儀準備する時間が足りねーや」
「だって坂田さん、お仕事少なくて従業員さんのお給料出すこともままならないんでしょう?」
「なんでそういうことばっか知ってんの!?」
恥ばっかり垂れ流されてんだけど!誰だよ!思い当たる奴多すぎてわかんねーよ!
「神楽ちゃんと沖田さんが教えてくれて」
「あのくそガキどもォォォォ!!!」
頭を抱えて声を上げると、が笑う声が聞こえた。
そうだ、そうやって笑っててくれ。
「ったく、やるときはやるんだよ。万事屋だからほら、仕事量が偏るの。しょうがねーの」
言い訳みたいになったが、実際そうなんだから仕方ない。
「ええ、危ない仕事もしてるって聞きましたよ。大変なんですね、万事屋さんって」
「そーそー。楽な仕事じゃねーんだよこれが」
「あんまり危ない事しないでくださいね、心配になりますから」
「…おう、ありがと」
嬉しさと苦しさが混ざり合って、照れたフリをして視線を逸らした。
「そーいやさ、店はどうすんの?続けるのか?」
「うーん。相談中です。私としては続けたいのですが、その、あの人が心配するんですよ」
あの人、というのはの旦那さんになる人だろう。
「煙草屋なんて男客ばかりだから、心配になる、って」
困ったものです、なんて言いながらも顔は喜ぶように笑っている。
「こっそり沖田さんが教えてくれたんです、あの人が心配して、私の身辺警護を真選組に頼みに来たって」
「そりゃ随分大それた虫よけだなオイ」
下手すらブタ箱行きじゃねーか。
「でもそんなに大勢お客さん来ませんし、私としては今までどおり続けたいなって思っているんです」
確かに、俺がここに来る時に会ったのは土方くんと沖田くんと、通りがかりのおっさんくらいだ。
どちらかといえば客に遭遇しない日の方が多い。
「それに、坂田さんとも…できればこうして、またお話したいですから」
とんでもねーストレートジャブだ。
「そりゃあ、ありがてーな。こんな金にならない奴を歓迎してくれるなんざ」
「いいんですよ。皆さん煙草を買ったらすぐ行ってしまうから、こうして話相手になってくれるのは坂田さんくらいですもの」
なにその良いポジション。
すげーじゃん俺。
「坂田さん、また、来てくれますか?」
なんて返したらいいんだ。
頼むから、神様、少しだけ時間を止めてくれねえか。
俺に考える時間を、一番いい答えを導き出す時間を、くれ。
「…惚気話は聞かねーからな。旦那の愚痴と世間話なら付き合ってやるよ」
「十分です!」
とびきりの笑顔が心に刺さる。
これでよかったのだろう。
そうだ、これでいいんだ。
たとえ隣にいるのが俺じゃなかったとしても、お前は幸せになるべきなんだ。
大丈夫。きっとまだ、俺は、”お前”を好きになっちゃいねーよ。
二度目のさよなら
(もう、終わりにしようぜ、俺。)
2015/11/07